第34話 最初のきっかけ ─ Side・レナ
レッスン室の鏡の前で、私は目の前に映るもう一人の自分を見つめる。
人差し指で自分の口角を持ち上げてみたり。今度は深呼吸をしてから、アイドルスイッチを入れた笑みを浮かべたり。
う~ん、似てるのかなぁ……。
「なにそんな鏡に映った自分を見て笑ってるの?」
「ついにレナちゃんが壊れちゃった!?」
「ち、違います!」
「レナちゃんはあまりにストイックだから……。笑うことしかできない壊れたロボットになっちゃったのね……」
「だから、違いますってば!」
「ふふっ、可愛いかったからつい……」
両方の肩口からルカさんとサクラコさんに覗きこまれて、私の顔は一気に熱くなってくる。
鏡越しには、アカリとユイが笑っているところも見えて。
壊れたロボットになったわけじゃないことを、私は必死に弁明する。
「アイドルとしての自分と、プライベートの自分。私の表情って、どっちも同じに見えるのか気になったんです」
今日の朝。レナに似てるって迫田くんから言われたときには、心臓が止まるかと思った。
まだ本人だと気づかれてはいないだろうけど、このままだと周りにも疑う人が増えてくるかもしれない。
だからこうして、迫田くんが重なったと言っていたポイントの笑顔を鏡で確認していたわけだ。
「まあ、同じかと言われれば同じだけど……」
「違うと言われれば全然違うわね」
「どっちなの……?」
「普段のレナは暗いし怖い」
「ルカさんひどい……!」
「アイドルと比べたらの話。プライベートのレナもちゃんと可愛い」
アカリやユイも混ざってくると、メンバーみんなから顔をジッと見つめられる。
目の逸らしようもなくて、耐えられなくなった私は視線から逃げるように両手で顔を覆って隠す。
「どうして急に表情なんて気にして……」
「今日の朝、笑ったときの雰囲気がリリアリのレナと同じって言われたから」
「例の迫田くんに?」
「はい……」
「ありゃりゃ。鋭い子なんだねぇ~」
本当にその通りだ。正直、私は迫田くんには気づかれないと思っていた。
最近までリリアリを知らなかったわけだし。クラスにはファンの人もいるなかで、静かに過ごせていたわけだから。
「そういえば、レナはなんでその子と仲良くなりたいの?」
そんなアカリの質問で、私は迫田くんと隣の席になったときのことを思い出す。
アイドル活動に影響するから喉を使いたくなかったり。そもそもコミュ力が低いのと、正体がバレるのに怯えて、その頃は学校ではほぼ喋っていなかった。
そうして明らかにクラスでも孤立していたにも関わらず、迫田くんは私にも挨拶してくれたのだ。
「席が隣になってから毎日、私にも挨拶してくれたから。あと、迫田くんの考え方が良いなって思った」
最初は、私の正体に気づいてて近づいてきたのか警戒してたけど……。
リリアリのことを知らないって、迫田くんが言ったときにはすごく驚いたなぁ。
それからこの人はちゃんと私を見てくれているんだと思って、仲良くなりたいという気持ちも生まれてきた。
「それ、相手も絶対に好意もってるじゃないのっ!」
「青春だねぇ……」
「そうだね」
「微笑ましそうな目を向けてこないでください!」
いくらこの中で一番の年下といっても、ほとんど歳は変わらないんだし。むしろ、みんなにそういう話が無さすぎる気がするんだけど。
そんなことより、似てると思われてる状態で迎える今週末のことを考えると、なんだかため息が漏れてくる。
「はぁ……。ご飯行く予定なのに、大丈夫か不安になってきた……」
「えっ、そんな大事なイベントがあったなら早く言いなさいよ!?」
「そうだよ、着ていく服とか考えないと!」
「どうして二人のほうが張り切ってるわけ? 迫田くんのお姉さんもいるから、二人が想像してるようなやつじゃないよ」
着飾ったらそれこそリリアリのレナに近づいてしまう。
どうしてもオシャレしたくなったら、お仕事のときに気に入って買い取らせてもらった衣装を組み合わせればいいし。
とにかく無事に今の関係が続けばいいなと、ただそれだけを私は祈っていた。




