第33話 最初のきっかけ
今日の水無月さんの表情は、なんだかやけに固かった気がする。
そしてその原因は僕が作ってしまったような気がしていて。
家に帰ってから、家事をしている間も。今、夜ご飯を食べているときでさえ、なんだか気がかりで箸の進みが遅くなる。
「姉さん、好きなアイドルに似てるって友達に言ったら失礼かな?」
向かいに座る姉さんはというと、それまで箸を止めることなく食べ続けていたけど。僕のその質問で、一旦食べる手を止めてくれた。
「別に? あたしは嬉しいけど」
「そういうものなの? 姉さんが変わってるとかじゃ……」
「ないない。アイドルなんて大体が可愛いんだから。そんな人と似てるってことは、あたしもアイドルになれるくらい可愛いってことでしょ?」
なんか、この話題に関しては姉さんがポジティブなだけな気がしてきた。
相談する相手を間違えたかなと内心で思いながら、僕は苦笑を浮かべて反応する。
ただ、僕のその様子で何かを察したらしく、今度は姉さんのほうから質問が飛んできた。
「なによ、誰か女の子でも怒らせちゃった?」
「実は水無月さんに言っちゃって……」
「へ、へぇ。ちなみに誰と似てるって?」
「リリアリのレナさん。この間のイベントのときに雰囲気が一緒だなって思ったから」
「あぁ……」
「えっ、やっぱりマズかった?」
「いや、似てるよねぇ……」
姉さんも思ってたってことは、僕の目もそこまで間違ってなかったってことか。
でも、その割には姉さんの反応はあまり良くなさそうで。
何が原因でそうさせているのかは、分からないままだった。
「まあ、水無月ちゃんに対してだったら気にしなくていいんじゃない? さすがに、誰にでも言うのは気をつけたほうがいいと思うけど」
「だったらいいんだけどなぁ……」
「そんなに見て明らかなくらい怒ってたの?」
「言った瞬間に顔を逸らされちゃって。その後も、どこか避けられてたように感じたっていうか」
「……恥ずかしがってるだけだよ。とにかく、あんたが気にしてたら水無月ちゃんだって気にする」
「そういうものなの……?」
あの水無月さんの反応は、恥ずかしがっているようには見えなかった気がするけど……。
いまいちその言葉を信じきれない僕に、姉さんは箸を置いて真剣なトーンで、あることを聞いてくる。
「あんたは、なんで水無月ちゃんと仲良くなりたいの?」
シンプルな問いに、僕は水無月さんと一番最初に話しかけたときのことを思い出す。
夏休み明けの席替えで、今の席の並びになったとき。
挨拶をしても返ってこなかったから、無口な人だなと思ったんだっけ。
「最初は単純に隣の席だったのと、誰とも話さないのが気になったからなんだけど……。授業の課題で水無月さんの考えを知っていったら、いい人だし話してみたいって思ったから……かな」
「その考えを持ててるなら大丈夫。水無月ちゃんは、晴輝には怒ってないよ」
「本当に信じて平気?」
「たまには姉さんを信用なさい。ほら、せっかくのあんたが作ってくれた美味しいご飯が冷めちゃうよ」
そう言った姉さんは再び箸を手にして、僕が作ったご飯を口に運んでいく。
いつもはおちゃらけている姉さんのあんなに真面目な表情を見せられたら、今は大丈夫だと思うしかないか。




