第31話 緊張とすれ違い
あのリリイベの後、僕の中に生まれたちょっとした違和感のせいで、隣の席を変に意識してしまっていた。
横目で水無月さんにチラッと視線を送ると、スマホにイヤホンをさして音楽を聴いてるみたいだ。
少し前までは、こうして朝の二人きりの時間には会話がないのが通常だったのに。今はちょっとだけ居心地が悪い。
リリイベのときのお見送りで────水無月さんとレナさんの表情に重なった瞬間があった。
冷静に考えたら、ただ雰囲気が似てるってだけなんだろうけど……。
そのことを意識しすぎて、何となく水無月さんに話しかけられないでいるのだ。
「……ねえ」
「えっ!?」
「……なんでそんな驚くの?」
「いや、ごめん……」
いつの間にかイヤホンを外していた水無月さんに話しかけられて、僕はつい間抜けな声を漏らしてしまう。
水無月さんのほうからきてくれるなんて珍しい……。
「な、何かあった?」
「……リリイベ、行ったの?」
「んっ、げほっげほっ……!」
「……大丈夫?」
僕が絶賛悩み中のことを、ズバッと聞いてこられたもんだから反射的にむせてしまった。
僕たちの話題なんてそれくらいしかないんだけれど、あまりにも質問がピンポイントすぎて、上手い受け答えが思い浮かばない。
「リリイベはちゃんと行ったけど……どうして?」
「……行けなかったから、感想聞きたかったの」
そう話す水無月さんの顔を見てると、やっぱりレナさんの面影を感じるような気もしてきちゃう。
二人を完全に重ねてしまっていて、本当によくないな……。
似てるとか似てないとかそんなことは一旦忘れようと、僕はミニライブの光景を頭に思い浮かべる。
「えっと、レナさんの初めてのセンター曲だったみたいで。凄い盛り上がってたよ」
「……会場の雰囲気はいい。迫田くんの感想は?」
「もちろん楽しかったよ、生で聞くとより迫力が凄かったし……! 良い意味で想像してたアイドルっぽくなかったっていうか」
「……アイドルっぽくなかった?」
「気を悪くさせたらごめんだけど、アイドルって可愛さを売り出すイメージだったからさ。リリアリはそういうのとは逆をいってて……。激しく踊ったり、歌にもカッコよさがあったり。そういう一面に惹かれたかも」
「……分かる」
水無月さんの反応に妙にヒヤッとさせられたけど、どうやら共感してもらえたようでホッとした。
最初は、こういうのがネットで流行ってるんだっていう新鮮さで興味を持っただけなのに……。
それがこの短期間で、ここまで語れるようになっているんだ。自分のハマりっぷりには驚かされる。
「……れ、レナは?」
「レナさんはダンスがキレキレだった! あんなに動いて歌声はブレないの凄いよね。歌うパートも多かったのに」
「そ、そう……」
「あと、お見送りがあってね! あっ……」
心の中でやってしまったと思ったときにはもう遅くて。
話が少しずつ弾んできた流れで、触れるつもりのなかったことにまで口にしてしまった。
「……なに?」
「あぁ……えっと……」
そのまま言葉を続けるか迷ったけど、訝しげな表情を向けてくる水無月さんを見たら白状するしかない。
「前に悠真も言ってたけど、水無月さんってレナさんと似てるなって思ったんだ。だから、なんか今日も少しだけ緊張しちゃって……」
「……ど、どの辺りが似てるの?」
「笑ったときの雰囲気……? 面と向かって会ったら、本当に一緒だったから……」
僕のその言葉を聞いた瞬間。会話の中で緩んできていた水無月さんの表情が、また一気に引き締まったものになった。
「……そう」
「ご、ごめん。そういうこと言われるの嫌だった?」
「……別に。気にしないで」
やっぱり誰かと重ねて見てるなんて、水無月さんに失礼だったよね……。それが、たとえ推しのアイドルだろうと。
そこから水無月さんは顔を背けて黙りこんでしまった。




