第29話 イベントを終えて
リリースイベントも終わり、悠真と感想を話したりしていると。明るかった空はすっかり暗くなっていた。
盛り上がって、ついつい話しすぎちゃったな……。
帰り道も、そんなイベントの余韻に浸りながら足を進める。
本物のリリアリに、生の歌声。まさかのハイタッチ付きのお見送りと楽しいことばかりだったイベント。
だけど、心の中で引っ掛かっていることもあって────
「おっ、おかえり~! どうだったよ?」
玄関のドアを開けると、さっそく奥から大きな声が聞こえてくる。
靴を脱いでリビングに行くと、パソコンで大学の課題に取り組んでいるっぽい姉さんが。
「うん、すっごく楽しかったよ」
「いいな~いいなぁ」
「あと、ライブだけじゃなくてハイタッチ付きのお見送りもあった」
「はっ? じゃあ、レナとも話したってこと!?」
「そうだけど……」
「はぁ~羨ましすぎ。基本リリイベでしか接近ないからねぇ」
人気のアイドルなのにハイタッチとかやるのは意外だと思ってたけど、普通のライブだとやってないんだ……。
リリアリを知った時期でいうなら僕より姉さんのほうが早い分、ちょっと悪い気もしてくる。
「あたしもライブ行きた~い」
「たまにはいいんじゃない? 姉さん、バイトしてるんだし」
「応募しても当たんないんだって! あんた、どんだけ倍率高いと思ってるのよ……」
「そ、そんなに……?」
「一応、リリイベだって何回か応募したことあるんだよ? それでも外れたからもう途中で諦めたよね」
姉さんの反応を見ていると、一つのイベントでもかなり貴重なのが伝わってくる。
そんなにチケットが当たらないなんて。今回のリリイベに誘ってくれた悠真には感謝しないといけないなぁ。
「ねねっ。レナの手、どうだったよ?」
「ちょっと気持ち悪い質問やめて」
「いいじゃん~。小さかった? ってか、間近で見た感想はどうなのさ?」
たまに出る姉さんのおじさんくさいところ、どうにかならないだろうか。
ただ、そのときのことを思い返すとなんだか急に顔が熱くなってきて。
「すごく綺麗な人だったし……。歌も上手かった……」
「ほほ~ん。さては本格的に惚れましたな」
「違うから。相手は芸能人なんだしそういうのじゃないって」
「あたしは良いと思うよ~。遠い存在に手を伸ばしても」
姉さんの前だから否定はしたものの、確かにイベントを経て、レナさんへの見方が変わった自覚はある。
惚れたという言葉が正しいのかは分からないけど、それに近しい感情が。
はるか遠くにいる人に対してこんなことを思うなんて、なんだか自分らしくない。
「でも、なんかレナさんの雰囲気って知ってる気がしたんだよね。どうしてだろう……」
「ふ~ん。どんなところが?」
「笑い方かな……。あんな風に控えめに口角あげて微笑む人、どこかで見たような……」
「あんた、割と女の子のこと見てるのね……」
「言い方。パッと見の印象で言っただけだから」
普段は別に人の表情なんて気にしていなかった。
そもそも他人との関わりなんて学校だけで、クラスの女子とだって会話が多いわけじゃない。
それこそ、僕が話すのなんて────
「晴輝、ご飯にしよっか。今日はあたしが作ったから」
「う、うん。そうだね……」
立ち上がってキッチンへと向かう姉さんには、相槌を打つので精一杯だった。
夜ご飯を作ってもらったお礼すら言えずに。
だって、頭の中でぼやけていた面影が急に晴れて姿を見せてきたのだ。
────特徴がよく重なるその微笑みが。
そんなわけないと思うけど、僕は驚きすぎてソファに座ったまま動けなかった。




