第26話 声を出して ─ Side・レナ
本番前の楽屋は、レッスンのときと変わらないくらいリラックスした雰囲気だった。
みんな楽しそうに、昨日あったこととか気になってるお店とかの話をしている。
意外とリリアリって本番に強い人が多いからなぁ。緊張してそうなのは、アカリくらいか……。
「大丈夫? 甘いものでも食べる?」
「あっ、レナ。ありがとう、もらうねっ」
一口サイズのチョコを差し出すと、アカリは笑顔で手を伸ばしてくる。
でも、いつもより少し固さがあるかな……。
私とアカリはリリアリで最年少でもあった。
それなのにアカリはリーダーという立場を任されているから、色々と背負ってしまっているんだろう。
それでも弱さを見せないようにする私たちのリーダーは、やっぱりカッコいいし支えてあげたい。
「よし、円陣組もっか」
深く息を吐いたアカリは、その場で立ち上がると短い一言を漏らす。
「そうだねぇ。ほらほら、ルカちゃんもおいで~」
「うん、行く」
そんな声に次々と集まってきて、ステージ袖に移動する前の楽屋には五人の小さな円が出来た。
ライブ前はいつもやってることで、円陣のアカリの言葉で私もスイッチが入るのだ。
けど今日は、いつまで経っても声は聞こえてこなかった。
疑問に思ってふと顔を上げれば、他の四人が私を見ていることに気づく。
「えっ、声出しは?」
「今日はレナじゃないの?」
「リリイベのときは、その日のセンターが担当でしょっ!」
「レナちゃんも緊張してるんだねぇ~」
そういえばそんな決まりだったっけ。自分のセンター曲って初めてだから完全に油断してた。
四人の意見は一致してるみたいだし、ここで遠慮するのも違う気がしたから今日は私がやろう。
「……ファンの人が、そして私たち自身も楽しい一日になるように。全力でいきましょう……!」
「お~!」
「ええっ!」
「うん」
「バラバラだなぁ……」
これがリリアリっぽいんだけどね。個性豊かでバラバラな性格なのに、グループ力は抜群なのがリリーアリスだ。
円陣のかけ声を忘れるほどの緊張が、無意識のうちに私の中に芽生えていたのかと少し動揺してたけど……。みんなのおかげで気分が楽になった。
「お願いしま~すっ!」
「よろしくお願いします」
自分としてはライブには慣れているつもりだった。
でも、今日はちょっとだけ変な感じかも。
その原因はもちろん分かっているし、パフォーマンスを落とすようなことはしない。
ただ、気になるものは気になってしまって。ステージに上がった瞬間から、客席をジッと見回してお客さんの顔を確認する。
迫田くん、本当に来てるのかな……。初めてのリリアリのライブって言ってたし、楽しんでもらいたいな。
「それじゃあ改めて挨拶していきます! まずはアカリから」
「はいは~い!」
最初の自己紹介ソングを終えると、台本通りにトークを挟む。
今日は私が進行役でもあるから、一瞬も油断できる瞬間がない。
それこそ、客席をじっくり見て一人一人の顔を見分ける余裕だってなかった。
歌って踊りながらでも難しかったし……。ひとまず迫田くんが来ているのかは意識しないようにしよう。
「次はユイ、よろしくっ」
「ええ! クイーンになんて渡さないわっ。みんなのハートは誰のものっ?」
「ユイ様のもの~!」
「よくできましたっ!」
いつも思うけど、このコールは各メンバーの個性を上手く表現しているなぁ。
私がファンの立場だったら、絶対に声を枯らすくらい叫んでる。
「それじゃあ次はレナの番よっ!」
ユイが機転を利かせて振ってくれたことで、私もスムーズに入ることができた。
「猫より気ままに歩き回る私は~」
「レナちゃーん!」
「ふふっ。みんなに笑顔を届けるねっ?」
「ふぅ~!!」
最初は恥ずかしかった自己紹介のコールも、今はすっかり自分のものに出来たと思う。
グループ名にかけたのと、私が猫を好きだからってプロデューサーが考えてくれたコールだ。
そして今回の新曲は私がセンターだからか、いつもよりもらえる歓声が多くてありがたい。
「レナちゃ~ん!」
「れ、レナさ~ん!」
そんな拍手と歓声の中から聞こえた、私を呼んでくれるいくつかの声。
その中に、いつも隣の席から聞こえてくる声があったような……。
私は咄嗟に、その声がした方向に目を向けると────紫色のペンライトを持った迫田くんの姿が見えた。




