第25話 声を出して
リリイベに行くと決まってからは、あっという間に時間は流れていった。
毎日、姉さんとライブ映像を観てコールも完璧に覚えて。
早いもので、もうイベント当日の土曜日。それも開演十分前になっていた。
「いやぁ。真ん中らへんだけど、狭い会場だからめっちゃ距離近く感じるわ」
「だね、こんな距離で見れるなんて思わなかった」
「だからこそ、俺の運がもう少し良けりゃあなぁ……」
約三百人の人が入るというこの会場は、リリーアリスというグループの人気を考えると、確かに狭い会場にも思えた。
辺りを見回せば、リリアリのシャツやグッズを身につけた人たちばかりで。
何もつけていない分、少しだけ肩身も狭く感じてしまう。
だけどそんな思いは、開始が近づくことで高まっていく高揚感でかき消されて。
意外と自分が、今日を楽しみにしていたんだって気づく。
「あっ、それと……ほい」
「なに、これ?」
「ペンライトだよ。お前、持ってないだろうと思ってな」
「うん、悠真の言う通りだけど……。これってどうするの?」
「こうやって、推し色のライトをつけたら……。曲中とかに振って応援するんだ」
そういえば、ライブ映像を思い出すと客席でカラフルな光が揺れていたっけ。
その正体は、このペンライトだったのか。
「一本でいいか? もう一本なら貸せるけど」
「ううん、一本で大丈夫だよ。ありがとう」
「おっけ。じゃあ、俺は全力でユイちゃん応援するわ」
悠真は両方の手に二本ずつ持つと、全てのペンライトに黄色の明かりを灯す。
それを見て僕も紫色の明かりをつけてみると、タイミング良く会場も暗くなる。
「おっ、始まるぞ!」
手元でより輝きを増した紫色の光に気を取られていると、大音量の音楽が会場に響きだす。
このイントロは、姉さんがおすすめしてくれたリリアリの自己紹介ソングだ。
そして悠真の一曲目の予想もこの曲だったから、僕は勝手にテンションが上がってしまう。
やがてリリアリの五人がステージに姿を見せると、会場内の歓声はひときわ大きくなった。
「ユイちゃ~んっ!」
隣では悠真も大きな声を出しているけど、僕はただただステージを眺めるのにいっぱいいっぱいで。
数十メートル先に立つレナさんが、本物だって思って見惚れてしまう。
キレのあるダンスに、揺れる黒髪。生で聞くとより圧倒される歌声から、動きや表情の変化まで。
レナさんから目が離せないまま、気づけば一曲目は終わっていた。
「はい、それじゃあ改めて自己紹介していきます! まずはアカリから」
「はいは~い!」
今まで観たライブ映像では、アカリさんが中心になってトークが進んでいたはずなんだけど……。
今日はレナさんが真ん中に立って進行している。
もしかして、今回の新曲がセンターだからなのかな。
「おい、レナちゃんのとき協力してやるから。俺が合図したら、コールの後にも名前呼べよっ?」
「えっ。う、うん……」
アカリさんやユイさんのコールが終わった後、隣の悠真がそんな風に囁いてきた。
きっと、コールに合わせるだけで叫べていなかったからだろう。
協力してくれるっていうなら頑張らないと……。
でも、その前にまずは────
「それじゃあ次はレナの番よっ!」
レナさんのコールにもしっかり声を出さなければ。
「猫より気ままに歩き回る私は~」
「レナちゃーん!」
「ふふっ。みんなに笑顔を届けるねっ?」
「ふぅ~!!」
周りの人とコールが合わさると、意外と気持ちいいし楽しいかも。
「晴輝、いくぞ」
大きな拍手と歓声が混ざる中、耳元で悠真の合図が聞こえてきて。流れに身を任せる形で、僕も意を決して叫ぶことに。
「レナちゃ~ん!」
「れ、レナさ~ん!」
悠真に比べたら、小さくて震えてる声。
コールで呼んだときと違って、歓声に混ざってしまうような呼び掛けだったけれど。
それでも、なんだかレナさんがこっちを見てくれた気がした。




