第23話 準備は念入りに
色々とやることを終えた僕は、少し休憩をしようと、一人きりのリビングで音楽をかける。
もちろん曲は、姉さんがこの間買ったリリアリのCDに入っているものだ。
繰り返しじっくり聴いてると、どんどん時間が過ぎていって。なんとなく曲も覚えられたような気がする。
「ただいま~」
「おかえり、姉さん」
「あれ、リリアリ聴いてどうしたのさ。そんなに気に入った?」
バイトから帰ってきた姉さんは、いつもと違う僕の様子に真っ先に突っ込んでくる。
それもそのはずで、家での空き時間といえば本を読むのがいつもの僕だ。
ただ、こうした違う行動としてリリアリの曲を聴いていたのには理由があった。
「実は、友達からリリイベってやつに誘われてさ」
「へ~! あの倍率めっちゃ高いやつ?」
「うん、ミニライブがあるみたいで。この買ったCDに入ってる曲と、姉さんが教えてくれた曲を覚えておけば大丈夫って言われたから」
「ミニライブの曲数だったら、確かにそんな感じのセトリだろうね。あたしも行ったことないのに、いいなぁ~」
悠真から覚えておいたほうがいい曲を言われたとき、予想できるのか疑問だったけど……。ファンなら分かるものなのかな……。
それより羨ましがる姉さんの反応からして、やっぱりなかなか当たらないイベントなんだと実感する。
「あっ。あんた、コールは覚えてる?」
「コール……?」
「だよねぇ……」
何かを思い出したような姉さんからは、また聞き慣れない単語が飛び出してきた。
リリアリの話をしていると、こういう場面がかなり多いような……。
「簡単に言うと、かけ声みたいなものがあるわけよ。ほら、ライブ映像にも熱のあるファンの声が入ってなかった?」
「そう言われると……」
「まあ、今から曲のコールを覚えるのは難しいし流れに任せるとして……。メンバーのは覚えておかないと!」
「そんなにコールの種類ってあるの?」
「確か公式チャンネルに動画があったはず……」
そう言って姉さんがスマホをいじりだすと、すぐに画面が僕のほうに向けられる。
結局、コールについては、まだいまいち理解しきれてないけど観れば分かるってことかな。
「これこれ! まずは、リーダーのアカリね」
姉さんが画面を一回タップしたら、スマホから少し荒い音声が聞こえてくる。
『う~ん、暗いなぁ。みんな~ちゃんとついてこれてる~?』
『迷っちゃった~』
『もう。このアカリがみんなを照らしてあげるから。見失わないでねっ?』
『ふぅ~!!』
正直なところ、これほどまでに反応に困ったことはないかもしれない。
ただ、ステージのアカリさんも、ファンの人たちもずいぶんとノリノリだ。
これがコールってやつなのかぁ……。
「僕、ここに入っていける自信がないかも……」
「意外と周りのテンションに乗せられていけるって。ほら、次いくよ~」
戸惑う僕の反応なんてお構いなしに、次の動画を再生する姉さん。
次は、長い金髪を高い位置で結んだツインテールが特徴のユイさんだった。
『クイーンになんて渡さないわっ。みんなのハートは誰のものっ?』
『ユイ様のもの~』
『よくできましたっ』
これまたテイストが違うすごいコールだなぁ……。
でも、ユイさんや、思い返せばアカリさんのも。よくメンバー個人の特徴を表したコールだとは思った。
「で、あんたの推しのレナね」
最初こそ戸惑って覚えられないと思っていたけど、意外とみんなシンプルで。
曲や特徴を先に知っていたのもあってか、すんなり頭に入ってきた。
そうして、ルカさんやサクラコさんのコールまで。一通り確認すると僕はふっと息を吐く。
「こんな感じっと……。まあ、五人分だとしてもそんな難しくなかったでしょ?」
「途中からは結構楽しかったかも。また見直してみるよ」
「ちゃんと全員に声は出すことね! でも、自分の推しには一番大きな声で! 分かった?」
「う、うん……。姉さん、勢いがすごいから……」
まだまだ姉さんの熱心な教えが続きそうかなと思っていたとき、ぐぅっと低い音が鳴って会話が止まる。
その後にすぐ、姉さんは顔を赤くしながら照れたように笑いだして。
「あ~はしゃぎすぎたからお腹すいてきちゃった」
「夜ご飯準備してあるよ。温めるから待ってて」
「いつもありがとね、晴輝」
「ううん。これくらいなんてことないよ」
夜までバイトをしてくれている姉さんや、更に遅くに仕事から帰ってくる母さんのために。ご飯だけでも作って負担を減らしたかった。
僕に出来ることといったら、家事くらいだから。
すぐ夜ご飯にしようと立ち上がったところで、僕はもう一つ、姉さんに言わないといけなかったことを思い出す。
「そういえば言い忘れてたけど……来週の土曜日に水無月さんがご飯に行きたいって」
「はいは~い。来週の土曜日ねぇ……って、えっ!?」
水無月さんと話したいって言い出したのは姉さんなのに。
大きな声を出して驚く姉さんの様子に、僕は苦笑を浮かべながらキッチンへと向かった。




