第20話 確認しよう ─ Side・レナ
月曜日。いつもの朝の挨拶の後に迫田くんから飛んできた一言は予想外のものだった。
「ねえ、水無月さん。何か怒らせたりしてないよね?」
てっきり、リリアリの新曲の話をしてくれると思ってたんだけどなぁ……。
逆効果だとは分かっているものの、ついつい警戒して声色が暗くなってしまう。
「……どうして?」
「この間、水無月さんと会った後に姉さんから鈍感って言われてさ。気づかないうちに何かしちゃってたかなって……」
迫田くんのお姉さんに私の正体がバレたかもしれない。なんて、土曜日に会ってからずっと不安だったけど……。
そう聞いてくるってことは、お姉さんは何も話していないと思っていいんだよね。
「……してないし怒ってもないよ、大丈夫」
「本当に? じゃあ、何が鈍感だったんだろう……」
ひとまず、この関係がまだ続けられそうで私はホッとする。
もう一度お姉さんと話したいけれど、私がそんなお願いをするのは間違いなく不自然だし。
今は、このまま内緒にし続けてくれることを願おう。
「そういえば、リリアリの新曲は聴いた?」
私の気持ちがすっきりしたところで、ようやく迫田くんがその話題を振ってきてくれた。
当初の予定では、その話をきっかけにお姉さんのことへの探りをいれるつもりだったから。
とりあえず解決はしたし、純粋に迫田くんとの時間を楽しめる。
「……うん。その言い方は迫田くんも?」
「帰ってすぐに聴いたよっ。今回のは全員で歌う曲なのに、レナさんのパートが多かったからビックリしちゃった」
迫田くんがそういうところに気づいてくれるなんて……。嬉しすぎて頬が緩みそうになるけど、顔だけは必死に平静を装う。
迫田くんが言ったことは大正解。確かに私のパートが多く作られている。
それに今回のリリアリの新曲は、私にとっても特に大事な曲だった。
「……あれ、センター曲だから」
「センター曲……?」
「……曲によって、中心になるメンバーが違うの、今回は……れ、レナ……」
自分で自分のセンター曲の説明をするのって、なんだか恥ずかしい……。レナって言った瞬間、背筋がゾゾッてしたし。
ただ、そんな私に追い討ちをかけるかのように、迫田くんは更にゾッとする言葉を放つ。
「そう言われると、特典でついてたミュージックビデオってやつでも、レナさんが真ん中だったような……」
そりゃ、特典としてついてるものを観ないわけないよね……。
迫田くんがリリアリに注目してくれている以上は、常にリスクがあるのを忘れてはいけない。
でも、ミュージックビデオのことまで話すのは、さすがに恥ずかしすぎて無理だった。
「わ、私……まだ観てない……」
「そうだったの……!? ごめん、先に話しちゃって」
「……大丈夫、気にしないで」
そんなに落ち込まないで、迫田くん。私が嘘ついてるだけだから……。
観てないわけないし、そのミュージックビデオに出ているんです。
必死に次の話題を探している迫田くんを見ていると、罪悪感がすごかった。
「あっ。そういえば、姉さんが水無月さんともっと話したいって言ってたよ。僕たちですら仲良くなり始めたばかりなのにね」
今日は怖いくらいに話がうまく進んでくれるみたい。
きっと、迫田くんは気まずい沈黙を埋めるための冗談として言ったんだろうけど。
せっかくだからその話に乗っからせてもらおう。
「……ご、ご飯くらいなら」
「えっ……?」
もう一度お姉さんと会って、頑張って何かしら取り繕えば事情を分かってもらえるかもしれない。
というか色々と気づかれていそうだし、いっそのこと正直に、秘密にしててくださいってお願いでも……。
「じゃあ今週の土曜日とかは……」
せっかく希望が見えてきたのに、神様はそう簡単には乗り越えさせてくれないみたいだ。
その日だけは、絶対に外せない予定が入っていた。
今週の土曜日は────リリアリの新曲発売を記念したリリイベの日。
たとえ休日に迫田くんと会えるとしても、その日だけは空けられない。
「あっ、ごめん……。その日は予定が入ってて……」
「そっか。なら、また今度だね」
ここで引いたら、本当に不安を抱えたままになってしまう。
リリアリのみんなからは、積極的にいけって言われたんだから。ここが頑張りどころのはず。
「……その次の土曜日は?」
迫田くんの表情は明らかに驚いていたし、私がここまで積極的になるのは不自然だって分かっているけど。
それでもこの関係を続けるために、震える口を開いてそんな提案をしてみる。
「だ、大丈夫だと思うけど……」
「……なら、その日で」
なんとか迫田くんと約束を取り付けられると、バレないように小さく一息。
すでに緊張がすごいけど、今は頑張った自分を褒めることにしよう。




