第19話 確認しよう
「ねえ、水無月さん。何か怒らせたりしてないよね?」
いつもの朝の挨拶の後、僕は水無月さんにそう尋ねた。
いきなりで失礼だとは思うけど、それでも確認しておきたいことがあったのだ。
そんな僕の問いかけに対して、水無月さんは訝しげな表情を浮かべている。
「……どうして?」
「この間、水無月さんと会った後に姉さんから鈍感って言われてさ。気づかないうちに何かしちゃってたかなって……」
土曜日に偶然会ってからというもの、僕は姉さんの反応がどうしても気になっていて。
鈍感とまで言われたことが、ずっと引っ掛かってモヤモヤしたまま。
水無月さんのことで、僕が何か気づいていないんだろうけど……。この休みの間、考えても全く心当たりがなかった。
無意識のうちに何かやらかしてしまったか、不安でいっぱいの中。
水無月さんの表情はというと、むしろ柔らかく微笑んでいた。
「……してないよ、大丈夫」
「そっか。じゃあ、何が鈍感だったんだろう……」
どうやら、僕の心配は杞憂だったようでホッと息を吐く。
水無月さんの反応からしても怒らせたわけではなさそうだ。
だったら尚更、姉さんの反応が気になるところだけど……。
考えても今は答えが出なさそうなので、僕は別の話題を探す。
「そういえば、リリアリの新曲は聴いた?」
あのとき音楽ショップの前で会ったってことは、水無月さんもリリアリの新曲が目的だったはずだよね。
そう思って姉さんと新曲も聴いたし、どこか話をするのが楽しみでもあった。
「……うん。その言い方は迫田くんも?」
「帰ってすぐに聴いたよっ。今回のは全員で歌う曲なのに、レナさんのパートが多かったからビックリしちゃった」
「……あれ、センター曲だから」
「センター曲……?」
「……曲によって、中心になるメンバーが違うの、今回は……れ、レナ……」
「そう言われると、特典でついてたミュージックビデオってやつでも、レナさんが真ん中だったような……」
曲を聴いて満足してたとき、姉さんがおもむろにテレビをつけだしたときは何かと思ったけど……。
曲に沿った物語風のミュージックビデオがあるなんて。何もかも触れたことがない文化だからこそ、とにかく新鮮な感覚だった。
「わ、私……まだ観てない……」
「そうだったの……!? ごめん、先に話しちゃって」
「……大丈夫、気にしないで」
流れでついつい話しちゃったけど、悪いことしたかな……。
やっぱり水無月さんと話すときは、どうしてもぎこちなさが出てしまう。
とりあえずミュージックビデオの話はやめて、僕は急いで別のことを考える。
「あっ。そういえば、姉さんが水無月さんともっと話したいって言ってたよ。僕たちですら仲良くなり始めたばかりなのにね」
「……ご、ご飯くらいなら」
「えっ……?」
正直、水無月さんが本気にするとは思っていなかった。
僕としても、場を和ませるための冗談で言ったつもりだったし。返事がくるなんて想定もしていない。
言ったのは僕だから、冗談で済ますわけにもいかず。ひとまず話を少し進めてみることに。
「じゃあ今週の土曜日とかは……」
「あっ、ごめん……。その日は予定が入ってて……」
「そっか。なら、また今度だね」
「……その次の土曜日は?」
どうやら、僕が思ってる以上に本気みたい。
具体的な話になったら流石に引くと思ってたけど、まさか水無月さんから代わりの日程を相談されるなんて。
そんなに姉さんと話したいのかな……。
気づけば流れに乗せられて、水無月さんと初めての約束を交わしていた。




