第17話 不安の中で
「晴輝、お話があります」
たった今、買い物から帰ってきたというのに、姉さんは真剣な表情でそう切り出してきた。
「ま、まずは買ったものを冷蔵庫にしまったら?」
「む、それもそうね……」
姉さんがあんなに真剣なことは珍しくて。それにいきなりだったから、僕の心はただただ戸惑うばかり。
そんな家族会議のような空気感を作る意図が、いまいち読み取れなかった。
買い物中の出来事なんて、水無月さんと会ったことくらいだけど……。
とりあえず、少しだけ間を取って心を落ち着けるためにそう促したものの。
キッチンから戻ってきた姉さんの表情に変化はなかった。
「ふぅ……。じゃあ改めて、晴輝にお話があります」
「わざわざ言い直さなくても……。どうしたのさ、姉さん?」
「音楽ショップで会った水無月ちゃんとはどういう関係で?」
「さっきも言ったけど、席が隣でたまに話すだけの……」
「本当に? あんた、邪な感情を抱いていたりしてない?」
「どうして僕が水無月さんに」
やっぱり水無月さんの話題だったことは予想通りだ。
でも、姉さんが言うような邪な気持ちを、僕が抱く意味が分からなかった。
もう少し気楽に話せたらいいなって気持ちはあるけど……。
これが邪だって言われたら、僕は何も思えなくなってしまう。
「はぁ……。我が弟はどうしてこんなに鈍感に育ってしまったか……」
「さっきから何を言ってるの?」
「本当に気づいてないんだね……。よし、姉さんはあんたたちを応援してあげよう」
どうやら僕の言葉は何も届いてないみたい。
水無月さんと出会ってから明らかに様子がおかしいけど、本当にどうしたんだろう。
変な妄想に走っているのか逆に心配になってきたところで、姉さんは何かを思い出したかのような反応を見せた。
「そうだ、大事なこと忘れてた。あんたは水無月ちゃんと仲良くなりたいの? 一方の気持ちだけじゃダメだからね」
「……? もちろん、もっと話せるようになった嬉しいけど……」
「うんうん、晴輝にもそういう相手ができるとは!」
「あっ……」
ずっと姉さんの質問の意図が分からなかったけど、その一言で僕はピンときた。
「違うからね!? 水無月さんは友達で……」
「分かってるって。仲良くなれるように、この頼もしい姉さんが手助けしてあげよう」
「いらない。自分でなんとかするって」
この姉さんの反応とテンションは……。おそらく、僕が水無月さんのことを好きだと勘違いしているのだろう。
どうりで話が噛み合わないと思ったわけだ。
そもそも、水無月さんのほうにそんな気持ちがあるわけないのに……。
分かった風の姉さんに鈍感だって言われたのも、今になってみれば納得いかなかった。
「ねぇ、晴輝。あたしも水無月ちゃんともっとお話したいなぁ~」
「ダメ。僕でも上手く話せないんだから……」
「お家に連れてきて?」
「む、無理だよ! 遊んだことすらないのに」
「じゃあ今度一緒にご飯とか。あたしが奢ってあげる」
「外食は控えないとでしょ」
「もう、細かいことばかりうるさいと嫌われちゃうよ」
ここできっぱり断っておかないと、絶対にしばらくの間は話のネタにされる。
僕と水無月さんはそういう関係じゃない。だから、姉さんも余計なお世話はしなくていい。
ただ、そう伝えても、こうなった姉さんがしつこいことはよく分かっていて。
「じゃあ、水無月ちゃんとの話題を作るために、買ってきたリリアリの新曲でも聴こっか?」
「それは……いいけど」
「決まりだねっ! ほら、レナの話なら盛り上がれると思うしっ!」
やたらテンションが高いところだけは嫌だけど、僕はため息をつきながらも付き合うことにした。
レナさんの話だったら、水無月さんとの話題にもなるだろうし……。
また朝に二人になったとき、微笑む水無月さんが見られたら嬉しいから。




