第15話 振り回される感情
「やっぱり、水無月さんだよね?」
「さ、迫田くん……」
見覚えのある姿だったから咄嗟に話しかけてしまったけど……。
まさか、姉さんとの買い物の途中で立ち寄った音楽ショップで出会うとは思っていなかった。
「奇遇だねっ。ちょうど姉さんと買い物に来てて」
「そ、そうなんだ……」
「もしかして、水無月さんもリリアリのCDを?」
「へっ? えっと、そんな感じ……。迫田くんも……?」
「僕というか、姉さんが今レジで買ってるよ」
「そっか……」
その瞬間、ちょっとだけ水無月さんの口角が上がったように見えたのは、僕の気のせいだろうか。
特にリリアリの話をするときには、そうした表情が多く見られる気もした。
「買ってきたよ~。って、あら。あんたの友達?」
僕たちがたどたどしい会話を繰り広げていたところで、そんなご機嫌な声が割って入ってくる。
「あっ、姉さん。この間話したリリアリの曲を教えてくれた子だよ」
「ああ、レナの……」
今の説明ですぐに分かってくれたみたいで、姉さんはそのまま水無月さんに近づいていった。
「はじめまして、晴輝の姉です。いつも仲良くしてくれてありがとね」
「こ、こちらこそ。いつも迫田くんが話しかけてくれるので……」
「えっ……?」
「どうしたの、姉さん」
一言、水無月さんと会話を交わした姉さんは、滅多に見せない心の底から驚いた表情を浮かべていた。
何をそんなに驚いたのか分からない僕は、そんな二人を交互に見て様子を伺うことしかできず。
気まずい時間が流れていると、唐突に姉さんが肩を掴んで迫ってくる。
「は、晴輝……。あんた、この子と友達って言った?」
「友達……って水無月さんは思ってくれてるか分からないけど、席が隣なんだ。それでたまに話してて」
「レナの話を?」
「う、うん」
どうしてそんなに焦ってるんだろう。原因は、おそらく水無月さんだよね……。
「さっきから様子がおかしいけど何かあった?」
「いや……」
そう否定はするものの、姉さんは水無月さんのほうをジッと見つめたまま。
対する水無月さんは、その視線から逃れるように顔を逸らしていて。
「ね、姉さん。そんなに見すぎると失礼だよ」
「ああ、ごめんごめん……」
「水無月さん、ごめんね?」
「……ううん、大丈夫」
その間も姉さんの表情は訝しげなままだったけど。やがて、何かを決めたかのように深く息を吐きだした。
「まあ、あんたたちがそれでいいなら……。水無月ちゃん、晴輝と仲良くしてあげて!」
「は、はい……」
「なんか、姉さんのほうが距離近くなってない?」
「あたしじゃ水無月ちゃんは落ち着かないよ。ねっ?」
「あ、あはは……」
初めて会う人にそう投げ掛けられても、水無月さんのような苦笑いしか浮かべることが出来ないだろう。
にしても、姉さんはいったいどうしてしまったのか……。
さっきまではあんなに様子がおかしかったのに、今度は全てを分かりきってるみたいな……。
僕も水無月さんも、その変化にただただ振り回されっぱなしだった。
「あたしたちは、家でリリアリの新曲でも聴くとしましょっか~。水無月ちゃんは一人?」
「えっと、友達と来てるんです……」
水無月さんのお友達……。学校で誰かと話してるところは見たことないけど、どんな人なんだろうなぁ。
「それなら、あたしたちはお邪魔だね。ほら晴輝、行くよ~」
「うん。水無月さん、また学校でね」
やや強引に手を引かれる直前、そう声をかけると水無月さんは小さく頷き返してくれる。
あまりにも珍しい休日の一幕にどこか名残惜しさを感じながら、姉さんとの本来の買い物に戻るのだった。




