第13話 思わぬ出会いは突然に
やはり、休日のショッピングセンターは人が多い。
子ども連れの家族や友達数人で来ているような集団。恋人らしき人たちや、和やかな雰囲気の老夫婦まで。
これだけの人がいれば、賑やかになるのも当然だろう。
そして今日は僕も、姉さんと二人で買い物に来ていた。
週末にはこうして、家から十数分ほど歩いたところにあるショッピングセンターで、一週間分の食料などを買い込むのが我が家の習慣なのだ。
「晴輝、何かほしいものはある?」
「う~ん。今は特にないかな」
「服とかは? さすがに夏服ってわけにもいかなくなってきた頃じゃない」
十月も近づいてきて、夜なんかは確かに涼しさが心地いい時期にもなってきている。
けど、色々な服が着たいとか最新の流行に沿った服が欲しいとか、そういった欲は僕にはない。
「冬服はずっと着てるのがあるし。わざわざ新しいものを買う必要はないよ」
「あんたは本当に無欲ねぇ……」
「そんなことないよ。欲しい小説があったら言ってるでしょ?」
「それだって月に一冊とかじゃん。高校生なんて欲にまみれて生きてなきゃ」
月に一冊でも、僕からしてみたらかなり欲深いと思うんだけど……。
一度考えてはみるものの、わざわざお金を払ってまで欲しいものかって言われると諦めがつくものばかり。
「そうは言われても。本当にないからさ」
「食べ物にもこだわりないし……。遠慮してないでしょうね?」
「心配しすぎだよ、姉さん」
「お金のことは気にしないで。あたしだってバイトしてるんだから」
姉さんには見抜かれているなと、僕は苦笑を浮かべることしか出来ない。
確かに欲しい本がないと言えば嘘になる。
けど、少し経てば図書館で借りられるだろうしいいかなとも思ってしまうのだ。
それに、やっぱりお金をかけさせるのはあまり気がすすまなかった。
「お母さんは生活費を稼いでくれてるし。家族の娯楽が増えればと思って、あたしもバイトしてるんだから」
「それなら、僕だって────」
「あんたは高校生活を楽しみなさい。いま遊んでおかないと後悔するわよ」
僕の家は母子家庭で、僕が小学校低学年のときから母さんが一人で育ててくれていた。
不自由なく過ごせていたものの、毎日仕事で帰りが遅い姿も見ていて。
姉さんが高校生のとき、家計のためにバイトをしようとしたけど────母さんが止めたのだ。
────高校を卒業するまでは学生として楽しみなさい、と。
「あたしだって、高校生のバイトは許してもらえなかったんだから。あんたにさせるものかって」
「じゃあ、僕だけが甘えるわけにもいかないよ」
「晴輝が遠慮するなら、あたしが買っちゃおっと」
大学生になった姉さんは、かなりの時間をバイトに注いでいた。
姉さんが働いた分なんだから、自分自身や母さんのために使ってほしいと僕は思う。
「この間、リリアリのシングルが発売したばかりだったんだよね」
音楽ショップの前を通りかかったとき、姉さんは思い出したかのようにそんなことを言い出す。
「へぇ、そうなんだ?」
「せっかくだし、ちょっと見てこっか」
最近の会話の中でもよく出てきているだけあって、僕も興味はあった。
特に、音楽ショップはあまり入ったことがなかったし。
ただ、まだ見ぬ場所への好奇心は、入ってすぐのコーナーで満たされることになる。
「おお、さすが注目アイドル!」
姉さんが足を止めたところでは、リリーアリスと書かれた大きなポップが人々の目を惹き付けていた。
それだけじゃなく、メンバーの写真や店員さんのおすすめポイントまで。かなりの力の入りようなのが伺える。
そして、中央に鎮座した小さなモニターではライブ映像も流れていた。
「結構、コーナー大きいんだね」
「言ったでしょ、流行ってるって。特にあんたが好きなレナはネットで話題にもなったし」
「ああ、百年に一度の美少女……だっけ?」
「よく知ってるじゃん」
そんな会話を姉さんとしている間にも、一人のお客さんがCDを持ってレジのほうへ向かっていった。
よく見ると、売り場に対して置かれているCDが少ないように思う。
それだけ売れているってことなのだろうか。
改めて、どれだけ自分が流行に遅れていた人間なのか実感する。
「へぇ……」
CDを手に取ると、裏面を確認してそんな声を漏らす姉さん。
何を確認しているのか僕にはさっぱりで、ただただ見つめることしかできない。
「せっかくだし買おうかな。そこら辺でも見て待ってて」
買うと決めると姉さんは、そう言ってレジに向かっていった。
僕は優柔不断なタイプだから、ああいうところは本当にすごいと思う……。
ただ、一人で置いていかれても初めての場所だからか、なんだか落ち着かなくて。
リリアリのコーナーをジッと見たり、不審者さながらにキョロキョロと店内を見回したり。
そんなときだった。視界の端で見覚えのある姿を捉えた気がしたのは。
「あれ、水無月さん?」
「…………っ!」
「やっぱり、水無月さんだよね?」
「さ、迫田くん…………」




