第10話 少しずつだけど ─ Side・レナ
「おはよう、水無月さん」
迫田くんは登校してくると、いつも私に挨拶してくれる。
昨日は思いきって挨拶を返したけれど、今日はそんな勇気は出なさそうです……。ごめんね、迫田くん……。
隣の席に座る迫田くんに、私はいつも通り頭を下げる。
そこでやり取りはおしまい。普段ならそのはずだった。
「水無月さん。昨日教えてもらった曲、聴いたよ!」
再び迫田くんに話しかけられると、その内容で私の動きが止まる。
昨日、リリアリのメンバーと話してた場面だ。
曲の感想をもらえたときはガツンと……。
でも、昨日の今日で感想をもらえるだなんて思ってなかった。
そのせいで話題もまだまとまってなくて、私の口はパクパクしたまま。それでもなんとか一言絞り出してみる。
「…………ど、どうだった?」
はぁ、相変わらず酷い声……。もっと言うことあるじゃん。
さっそく聴いてくれるなんて嬉しい、とか。聴いてくれてありがとう、とか。
自分のアドリブの弱さに落ち込んでいると、迫田くんは恥ずかしそうに笑いながら口を開いた。
「えっと、誰でも言える感想になっちゃうんだけど……。すごく上手いなって思った。アイドルって可愛いイメージが強かったんだけど、レナさんはカッコいいなって」
いつもファンの人だってそう言ってくれるし、面と向かって言われるのは慣れているつもりだった。
だからこそ、無意識に口から漏れた言葉に自分でも驚く。
「…………嬉しい」
隣の席の女子じゃなくてレナとして答えちゃったけど、会話の流れ的に変じゃなかったかな……。
言葉にした後でハッとしていると、迫田くんがさらに口を開いた。
「水無月さんは、この曲のどんなところが好きなの?」
そういう質問をしてくるってことは変だと思われてないよね。
ホッとするのと同時に、私は私のソロ曲の好きなところを考える。
この曲を歌うときは、一番自信を持ってステージに立てる大好きな曲。
歌詞にも共感が出来るし、何よりこの曲のおかげで私も注目してもらえるようになった。
「…………力をもらえる。私らしくいさせてくれる曲」
「すごい思い入れのある曲なんだ?」
迫田くんの言う通り。私、レナにとって思い入れが強い曲。
全部レナとして答えちゃってる気がするけど、会話が成り立ってるしいいのかな……。
「そういえば、僕の姉さんもリリーアリスのおすすめを教えてくれてさ」
迫田くんにお姉さんがいるなんて知らなかった。それに、リリアリファンっていうのも嬉しいし。
こういうところで、きちんと会話を広げていかないとだよね。
「……何の曲?」
「えっとね、このライブ映像のやつ」
「……っ! げほっ、げほっ……」
迫田くんが操作したスマホの画面に映っていたのは、リリアリ全員で歌ってる曲のライブ映像。
完全に音源だけだと思っていたから、予想外の私たちの姿に思わず咳き込んでしまった。
「だ、大丈夫? 水無月さん」
「大丈夫……。それより……。み、見たの……?」
「うん、五人でステージに立ってるやつを」
迫田くんにじっくり見られたっていうことは、もしかして私がレナだってこともバレたんじゃ……。
そんな最悪な想像をすると、咄嗟に迫田くんから顔を逸らす。
「……私、あまりライブ映像みなくて」
「そ、そうなんだ。今、一緒に観る?」
「……いい。感想だけ教えて」
なるべく平静を装っているつもりでも、心臓がすごい早さで跳ねているを感じる。
気づいていたら、真っ先に言ってきそうなものだよね……。
そのライブ映像を観て何を思ったのか。私は色々な意味で気になってしょうがなかった。
「五人の中でもレナさんの歌声が抜けて僕の耳届いたし、キレキレのダンス踊りながら歌えるのも凄いなって。あと、歌だけだとカッコいいイメージだったのに、映像見たらちゃんとアイドルっぽくてビックリしたかも」
「そ、それだけ……?」
「レナさんの魅力、まだまだ気づけてないよね……」
「ううん……。充分、伝わってる……」
ああ、違う。私が言いたいのはそういうことじゃないの。
咄嗟に微笑んで誤解を解こうとするけれど、迫田くんの反応からして絶対に勘違いをさせてしまっている。
あのライブ映像を観て抱いた感想が、そんな純粋なものだけなら、嬉しくてしょうがないのに。
そこから私が言葉を紡げずにグダグダしていると、他の人が教室に入ってきてしまった。
「あっ、今日はここまでみたい。また今度話そうね」
迫田くんもそこで話を切り上げて、私たちの朝の時間は終わりを告げる。
結局、リリアリのみんなからもらったアドバイスも活かせなくて。
次に繋がる話題もなくなっちゃったし、その日はずっと私の心は重かった。




