44.楽しみなこれから
「よし、二人とも準備はいい?」
「はい、もちろんです」
「いつでもいいぞ」
朝日が差し込む店内。仕込みも整い、今日も星見亭の一日が始まろうとしていた。
メルが元気よく扉へ駆けていき、勢いを抑えるようにゆっくりと開け放つ。
「おはようございます! 星見亭、開店です!」
澄んだ声が通りに響いた瞬間、扉から馴染みの常連客の四人が入ってきた。
「星見亭へようこそ」
私が笑顔で迎えると、四人もホッとしたように笑顔を返してくれる。そして、いつものようにカウンターの席へ腰を下ろした。
「聞いたわよ、アカネ。昨日、昔の友人と会ってたんですって?」
「どうだったニャ? 仲直りは出来たかニャ?」
「もう噂が広まってるんですね。ええ、ちゃんと仲直り出来ましたよ。これからも友達でいようって、約束しました」
「ほほう、それは良いことじゃ」
「心温まる話だな」
どうやら昨日のことはすでにみんなに伝わっていたらしい。私が笑って頷くと、四人は安心したように顔を和らげた。
「その人とは、これから会えそうかの?」
「会ってみたいわね……アカネの友達」
「どんな人だろうな?」
「きっとアカネと同じで、優しい人ニャ」
「多分、もうすぐ来ると思います」
そう言った直後、カラン、と扉が勢いよく開いた。
「お待たせ! ……あれ?」
白装束をまとったアリアが立っていた。
「アリア、いらっしゃい」
「ご、ごめんなさい! 他にお客さんがいるとは思わなくて……!」
「大丈夫だよ。ほら、座って」
緊張した様子で縮こまるアリアの背を押すように促すと、彼女は小さく頭を下げて席についた。その姿を四人はじっと見つめる。
「この子がアカネの友達か……。うむ、いい子そうじゃな」
「ほっほっほっ、やはり類は友を呼ぶものじゃのう」
「可愛らしい子ね。そんなに遠慮しなくてもいいのよ」
「私もアカネの友達ニャ! だから同じニャ!」
「あ、ありがとうございます……。すみません、賑やかにしちゃって」
四人に温かく迎えられ、アリアも少しずつ表情を緩めていった。
「でも、こんなに朝早いのに人がいるなんて驚いちゃった」
「おばあちゃんがいた頃もそうだったみたい。早起きのお客さんが必ず来てたんだよ」
「へぇ……小さい頃は全然気づかなかったな。あっ、私もコーヒーとミックスサンドで」
「はい、かしこまりました」
常連客に囲まれて友達と気兼ねなく話す――それだけで胸が温かくなる。まるで昔に戻ったような、懐かしくて幸せな感覚に包まれた。
頼れる仲間がいて、毎日来てくれるお客さんがいて、そして笑い合える友達がいる。この空間が、心から愛おしい。
「そうニャ! 昨日の商品売上をアカネに渡すのを忘れてたニャ!」
「あっ、そうだったね。じゃあ、機械で確認を……」
チャルカの言葉で思い出す。昨日はお客さんから預かった品を換金してもらっていたんだった。
チャルカが端末にカードを差し込み、手際よく操作する。
「よし、送信完了ニャ」
そう言ってスイッチを押すと、私の画面に金額が表示された。
――次の瞬間、私は目を丸くしてしまった。
「えっ……桁、間違えてない?」
「間違えてないニャ」
「うそ……。あの枝が、一千万以上!?」
「そうニャ! あの御贔屓のお客さんが来たんだニャ!」
チャルカは得意げに笑い、私はただ驚きで言葉を失ってしまった。いや、まさか、そんな!
カレーとコーヒーだけで、一千万はないでしょ!
「ど、どうしよう……返金したほうが……」
「あいつはいつもそんな感じだから気にしない方がいいぞ」
「そうニャ! 普通に考えればおかしい事だけど、慣れるのニャ!」
「いや、慣れないって!」
なるほど、おばあちゃんの財産があんなに膨らんだ原因はあの人にあったのか! というか、あの人は一体何者!? でも、詮索するのはお客さんに悪いし……。
「アカネが難しい顔をしてます。応援したほうがいいですか?」
「いや、メルの可愛い姿は見たいけど、それをすると情緒がおかしくなるっ……」
「じゃあ、代わりにハイドが応援します! フレー、フレー!」
するとメルがハイドを抱き上げて、猫の手を使って応援してくれる。うっ、その姿が可愛くて、思考が!
「アカネ、気にしない事ニャ! チコさんもそう言ってたし、今まで通りが一番だニャ!」
「そうはいっても……。何かお返しを……」
流石にこのままではまずい。そう思って考えていると――。
「お返しを考えているんなら、アカネの新しい料理でも出してあげたら?」
その時、アリアが思いついたように口を開いた。
「えっ、一千万も貰って料理だけ?」
「そういうのは気持ちが大事だよ。だから、とっておきの料理を作ればいいと思う。ほら、アカネって別の世界にいたんでしょ? だったら、こっちでは食べた事のない料理は宝石の価値があるよ」
「そ、そうかな?」
確かに、あちらにしかない料理は沢山ある。カレーライスであんなに喜んでくれたのだから、そういうものがいいんじゃないか?
「あら? 新しい料理? 興味があるわね」
「それは、星見亭で出すのかい?」
「我も興味あり!」
「私も興味あるニャ!」
「じゃあ、みんなでどんな料理が食べたいか話し合いましょう」
私が戸惑っている間に話が新しい料理を出すことになってしまった。楽しそうに話す常連客とアリア。それにハイドとメルも入り、店内は明るい声で満たされていく。
「もう……。分かりました、新しい料理を作って見せましょう」
その雰囲気に押されて、私も決意が決まった。そして、皆と言葉を交わし、新しい料理について話を広げていく。
今日も星見亭は賑わいのある声が響き渡った。
◇ ◇ ◇
ここまでお読みいただきありがとうございます。
本作品は第1回GAウェブ小説コンテストの参加作品のため、規定文字数を越えたのと、キリが良い場面なので、ここで一旦完結とさせていただきます。
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ご愛読ありがとうございました。
コンテスト用に書いた作品ですので、ここで終わりになります。
次の新作は5/2に二作品公開予定です。ご期待ください!




