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35歳、年下御曹司に本気で溺愛されていました  作者: 真夜中


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32/35

蘇った過去


圭介は、その光景を黙って見ていた。


光莉が、自分ではなく、

蓮のスーツを掴んでいる。


震えながら。


それでも、はっきりと。


——“俺じゃなく、あの男を選んでいる”。


その事実が、じわじわと胸を焼いた。


「……何だよ、それ」


掠れた声が漏れる。


蓮は、光莉を庇うように立ったまま、

視線だけを圭介へ向ける。


「もう終わりです」


静かな声。


でも、完全に線を引く声だった。


圭介が笑う。

乾いた、壊れかけみたいな笑い。


「終わり?お前に何が分かるんだよ」


一歩、近づこうとする。


その瞬間。

蓮の空気が変わった。


光莉が、びくっと肩を揺らすくらいに。


「これ以上近づかないでください」


聞いたことがないほど、冷えた声だった。

怒鳴っていない。

なのに、ぞっとするほど怖い。


圭介の足が、そこで止まる。


蓮は続けた。


「光莉さんが、あなたを怖がっている」


その言葉に、圭介の表情が歪む。


「……怖がらせたのは、そっちだろ」


吐き捨てるような声。


「お前が出てきてから、

 こいつ、俺に逆らうようになったんだよ」


蓮は否定しなかった。


ただ、後ろにいる光莉へ、

一瞬だけ視線を向ける。

その目が、あまりにも優しくて。


圭介は、そこで完全に理解した。


——負けた。

取り戻したかった。

自分のところへ、泣きながら戻ってくると思っていた。


なのに。光莉は今、

自分じゃない男の後ろで、安心した顔をしている。

それが、耐えられなかった。


「……っ」


圭介が、壁を殴る。

鈍い音。


光莉の肩が、大きく跳ねた。


瞬間。蓮が反射みたいに、

光莉の頭を抱き寄せる。

音を聞かせないように。

怖がらせないように。


「大丈夫」


落ち着かせる声。

その自然な動きに、圭介の顔が引き攣った。


「……はは」

笑うしかない、みたいに口元が歪む。


「何なんだよ、お前ら。もう、だるいわ」


蓮は、少しだけ目を伏せた。


そして、静かに口を開く。


「……昔、助けてもらったんです」


光莉が、はっと顔を上げる。


蓮は続けた。


「あなたは、覚えてないと思いますけど」


圭介が眉をひそめる。


でも、蓮の視線は、

もう光莉しか見ていなかった。


「俺が高校一年の時です」


その言葉に、光莉の呼吸が止まる。


「駅前の路地で、先輩たちに絡まれてた」


遠い記憶が、ゆっくり浮かび上がる。

雨の夜。

社会人一年目の仕事帰り道。


細い路地の奥で、

誰かが怒鳴られている声が聞こえた。

見れば、高校生くらいの男の子が、数人に囲まれていた。


小柄で、細くて。

今よりずっと、声も高かった。

放っておけなかった。

怖かったのに、気づけば止めに入っていた。


『やめてください!』


そんなふうに、必死に声を張った記憶。

もちろん、喧嘩なんてしたことがない。

逆に腕を掴まれて、殴られそうになった、その瞬間。

今度は、その男の子が、光莉を庇った。


——あの時の。


「……え」


光莉の目が、大きく揺れる。


「あの子……?」


蓮が、少しだけ困ったように笑った。


「やっと思い出してもらえました」

柔らかい声。


「再会した時、全然気づかれませんでしたけどね」


成長して、背も伸びて。声も変わって。

あの頃とは、別人みたいになっていた。


でも。

蓮にとっては、ずっと忘れられない人になっていた光莉。


「ずっと、もう一回会いたかったんです」


息が、止まりそうになる。


圭介が、呆然と二人を見る。


蓮は、光莉の震える手を包み込んだまま、静かに言った。


「だから、、、


今度は、俺があなたを守りたかった」



光莉の胸が、強く締めつけられる。

こんなふうに、誰かに大切に思われていたことなんて、知らなかった。

蓮は、泣きそうな光莉を急かさない。


ただ、震える指を包んだまま、そこにいる。


まるで。

——やっと見つけた宝物を、

二度と失くしたくないみたいに。



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