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美女たちとの無人島スローライフ ~何をしても「神」評価の男、規格外のサバイバル技術でのんびり楽しむ~  作者: 絢乃


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027 玲奈と洗濯

 朝4時30分。

 まだ薄暗さが残る森を抜け、俺は玲奈と2人で川に来ていた。

 空気がしんと静まり返り、時折吹く風が頬をひんやり撫でる。


 夜明け前のこの時間帯に、どうしてわざわざ川へ来たのか。

 理由は簡単だ。


「悠希さん、眠いところを付き合ってくださってありがとうございますわ」


 サファイアブルーのドレス姿が印象的な玲奈が、俺の隣で柔らかく笑う。


「かまわないさ。俺としても洗濯は早いうちに済ませておきたかったしね」


 そう、皆の服を洗濯するためだ。


『皆が寝ている間に洗濯を済ませ、物干し台を作って干してあげたい』


 それが玲奈の要望だった。

 皆の驚く顔が見たいという素敵な提案だ。

 あと、買ったばかりのポータブル洗濯機を早く使いたかったとのこと。


 俺の役目はボディガード兼アシスタントである。

 木の槍を持って周囲を警戒しつつ、洗濯後は荷物持ちとして衣類の詰まった籠を背負って歩く係だ。


「それでは作業を進めてまいりますわ」


 玲奈は洗濯機のバケツに川水を汲み、川岸の平坦な場所に到着した。

 俺は背負っていた籠を彼女の隣に置き、槍を持って周囲に目を凝らす。

 今のところ、何かが潜んでいるような気配はしない。


「さすがに全部を洗うのは骨が折れそうだな」


 洗濯するのは五人分の衣類やバスタオルだ。

 そこには下着なども含まれているため、結構な量になる。

 ポータブル洗濯機の容量だと、一度には洗いきれなかった。


「二回ないし三回に分けて洗う必要がありますわね。ですが、こういう環境だと最低限の清潔さを保てればいいわけですから、そこまで時間はかからないと思いますわ」


 玲奈が洗濯機の設定をしていく。

 最初にバケツを本体に入れて、次に内側の槽を入れる。

 最後に洗濯する衣類を投入し、亜希が作った石鹸を少し足す。

 準備が整ったら蓋を閉めて、クランクハンドルを回した。


 シャカシャカ、シャカシャカ。

 洗濯機の内部で水と衣類が攪拌され、小気味のいい音が聞こえてくる。

 本体が半透明なので、中の様子がよく見えた。


「いい感じじゃないか。石鹸のおかげで泡も立っている」


「ただ……思った以上に力仕事ですわね。もっと軽々と回せるものかと思っていましたわ」


 そう言いつつ、玲奈は凄まじい勢いでハンドルを回す。

 何に該当するのかは不明だが、彼女の頭上には『高』の字が躍る。

 ステータスの項目が【狩猟】【採集】【農業】【製作】【料理】【医療】の六つであることを考えると、おそらく【医療】が上がっているのだろう。


「とりあえず第一弾はこれで終了ですわね。“すすぎ”や“脱水”はあとでまとめて行いますわ」


 玲奈は洗濯水まみれの服を取り出し、空の籠に入れた。

 それから次の服を洗濯機に入れて、再びクランクハンドルを回す。

 洗濯機の容量が思ったより大きくて、二度目で残りの衣類が全て入った。


「さすがに二度目だと水が足りないんじゃないか?」


 一度目の洗濯で、洗濯水の大半が衣類に含まれている。

 そのため、二度目は明らかに水分が足りていない様子だった。


「かまいませんわ! サバイバル生活では妥協も必要でしょう?」


「まぁな」


 玲奈の発言に、俺は内心で驚いていた。

 お嬢様っぽい雰囲気なので、妥協を許さないと思っていたのだ。

 実際には非常に合理的な性格をしており、サバイバルに向いていた。


「玲奈って、何だか不思議だよな」


「不思議? どうしてですの?」


 玲奈が作業を続けながら俺を見る。

 俺の視線は彼女の顔だけでなく、ぎょろぎょろっと全身に向いてしまう。

 豊満な胸、スリットからちらりと見える太ももも、大胆に開かれた剥き出しの背中……実に素晴らしい。


「全体的に不思議だよ。例えば実験に参加した動機も想像できないし。参加報酬の2000万円が端金に思えるような裕福さを感じる」


「仰る通り、わたくしの家は裕福ですわ。父がファッション関連の企業を経営しておりますから。ですが、この実験に参加したのは、そういう背景があったからこそですわ」


「というと?」


「贅沢な話だとは自覚しているのですが、何不自由なく過ごしてきたがために、未知の体験に飢えているのですわ」


「なるほど。ビジネスに喩えて話すのは、親の影響とか?」


「そうなりますわね。高校生の頃から父のお仕事に参加させていただいておりますので」


「高校生から!? すげーな」


 玲奈は「ふふん」と誇らしげに笑った。


「もちろん形だけの参加ではなく、きちんとした実績もございますわ。例えばわたくしの着ているこのドレス、これはわたくしが企画したものです。デザインから広報まで、全てわたくしが手がけていますわ」


「それで全く同じドレスを買ったのか」


 晴菜や亜希と違い、玲奈が着替えとして買ったのは同じ服だった。


「このサファイアブルーを基調としつつ、ゴールドの紐や装飾で上品に仕上がっている点が素晴らしいのです。深めのスリットを入れたことで大人のセクシーさも感じられるでしょう?」


 玲奈はスリットを指で摘まんで、チラチラと動かした。

 これには思わず「ぶほほ」とニヤけてしまう。


「さて、次はすすぎと脱水ですわね」


 玲奈は洗濯機に備わっている排水ホースを伸ばした。

 ホースの先端にあるキャップを開け、洗濯水を地面に流す。

 川ではなく川岸の土で排水を行うのは配慮によるものだろう。


「ここまでで進捗率は半分といったところか」


「そうですわね」


 玲奈は休むことなく次の作業に進んだ。

 洗濯機に綺麗な川水を補充し、先ほどと同じ要領ですすぎを開始する。


「そういえば悠希さん、昨夜は楽しそうでしたわね」


「ん? 何のことだ?」


 首を傾げる俺に対し、玲奈はニヤリと笑って答えた。


「亜希さんとのことですわ。真夜中に仲睦まじいようで」


「ぶっ!」


 思わず吹き出してしまう。


「ど、どうしてそれを!?」


「どうしても何も、あれだけ音を立てていたら目が覚めてしまいますわ。竹の床がギシギシと派手に鳴り響き、亜希さんの艶めかしい声も聞こえてきましたから」


「ぐっ……!」


「ご安心を。わたくし、口外はいたしませんので」


 玲奈は上品に笑った。


「そ、そっか……。助かるよ……」


「ですが、いずれはわたくしもお相手していただかないといけませんわね」


「え?」


「だって、晴菜さんともいい感じなのでしょう?」


「なぜそこまで……!」


 驚く俺に対し、玲奈は「あはは」と笑った。


「今のは引っかけでしたが、その様子から察するに当たっていたようですわね」


「なっ……!」


「そういう異性との危険な関係も含めて、ここでは楽しみの一つですわね」


「じゃ、じゃあ、玲奈ともいつか、本当に……!」


「それはどうでしょう? 先ほどの発言は冗談ですから」


「な、なんだ……」


 安堵のような、拍子抜けのような。

 そんなよく分からない声を漏らしつつ、俺は妄想を膨らませた。


 もし本当に玲奈とそうなったら――。

 亜希との一件があったからか、具体的なシーンが頭に浮かぶ。


 ベッドの上で抱き合う俺と玲奈。

 仰向きで寝そべる彼女の鎖骨を、俺は舌先でなぞっていく。


『はあっ……悠希さん……』


 玲奈が快楽の声を漏らし、俺の髪をくしゃくしゃにしてくる。

 彼女のドレスは少しずつずれていき、白い肌が露わになり、そして――。


「……悠希さん、聞こえてますの?」


「はっ!」


 玲奈の声で、俺は現実に引き戻されてしまった。


「ど、どうしたんだ?」


「洗濯が終わりました、と言ったのですわ」


 玲奈が不機嫌そうに頬を膨らませる。


「失礼、ぼーっとしていたよ。ご存じの通り寝不足でね」


「しっかりしてくださいまし」


「すまん、すまん。じゃあ、戻ろうか」


「はい!」


 玲奈はポータブル洗濯機の入った籠を背負う。

 一方、俺の籠には大量の衣類が入っている。

 右手で槍を持ち、二人で森に向かおうとする。


 しかし、その瞬間。

 茂みの向こうから、異様な生き物が姿を現した。


 カラスの頭をした、ツキノワグマのような個体。

 二足立ちしていて、前肢の爪が尋常ならざる長さと分厚さだ。

 ヤクでも打ったかのようにギョロッと見開いた目が俺たちを捉えている。


「クマガラス……!」


 境野が言っていたキメラだ。

 実物を目にすると、たしかに「妙なクマ」と表現したことに頷けた。

 頭を見ていなければ、俺もクマと思っていただろう。


「カァァァァァ!」


 クマの遺伝子が含まれているせいか、低音のカラス声を発している。

 異形の姿と相まって、俺たちに強い不快感と恐怖感を与えた。


「ひっ……」


 玲奈が小さく悲鳴をあげる。


「下がっていろ、玲奈。アイツは――俺が倒す」


 俺は背負っている籠を地面に置いた。

 槍を構えてクマガラスを睨む。


(まずいな……)


 強気の言葉とは裏腹に、内心では焦っていた。

 問題はクマガラスが森から出てきたことだ。

 つまり、拠点までの退路が断たれている。


(大丈夫……! 竹槍でツキノワグマを倒したことだってあるんだ!)


 大きく息を吐いて心を落ち着かせる。


「カァ! カァ!」


 クマガラスは小刻みに首を曲げながら、こちらを嘲笑うかのように鳴いている。

 自分から攻めてくるのではなく、俺たちが動くのを待っているようだ。


(相手は二足立ちだし、境野を襲った前肢の引っ掻き攻撃には警戒しないとな)


 じわり、じわりと距離を詰めていく。

 そして、覚悟を決めると――。


「うおおおっ!」


 俺は突撃した。

 体を回転させて、威力を最大限まで高めた一撃を放つ。

 サバイバルの一環で身に着けた実践的な槍術をいかんなく発揮する。

 その攻撃はクマガラスの胸部を捉えた。


 しかし――。


 バキッ、と嫌な音が鳴る。

 それと同時に、槍が折れてしまった。

 まるで鉄板のような硬さだ。


「嘘だろ……?」


 粉々になって舞い散る槍の破片を眺めながら、俺たちは絶望した。

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