026 深夜の訪問者(修正版)
夜更けの静けさが拠点を包み込む。
草木も眠っており、虫の鳴き声すら聞こえてこない。
俺は布団の中で横になりつつ、どうにも眠れずにいた。
(やっぱり今の防衛環境だと不安だな……)
クマガラスのような猛獣がいつ迫ってきてもおかしくない。
拠点の門は閉じているものの、カラスの知能とクマの力があれば簡単に開けられる。
三条の報復も油断できない。
そんなことを考えると、眠気が吹っ飛んでしまったのだ。
瞼を閉じながら、安物の布団を右に左にとゴロゴロする。
少し動くたびに、竹の床がミシミシと音を立てた。
「朋絵ちゃーん……ふふふ、コイツは久世でぇ……俺の……子分……」
境野のふざけた寝言が、静寂に包まれた夜の拠点に響く。
「これで……借金……チャラっすよぉ……」
晴菜の寝言も聞こえてくる。
1位に固執するだけあって、夢の中でも大変そうだ。
(そういえば、今日はなんだかんだで晴菜から“契約料”を支払ってもらっていないな)
晴菜は積極的に誘惑してきたが、結局、今日はそこまで止まりだった。
二人きりになるタイミングがなかったからだ。
(いかんいかん、こんなことを考えるとますます眠れなくなるじゃないか)
二日目に支払われた“契約料”のことを想像すると興奮してしまう。
あれですら序の口だというのだから半端ない。
「ん?」
妄想に耽っていると、気配を感じた。
(拠点の外……いや、中にいるぞ!)
いつの間にか不審者の侵入を許していた。
妄想はしていても、決して油断はしていなかったのに。
心臓が一気に高鳴る。
俺は静かに体を起こし、壁に立てかけてある木の槍を掴んだ。
強く握りしめ、ブラインド代わりのバスタオルからそっと顔を出す。
相手が隙を見せていたらひと思いに――。
「……って、亜希かよ」
気配の正体は亜希だった。
「晴菜さんがよかったですか?」
「えっ」
ドキッとする。
妄想していたのがバレたのかと思った。
「は、晴菜のことなんか、考えていないよ? 本当だよ?」
「そうですか」
亜希は素っ気なく言い放つと、俺のシェルターに近づいてきた。
「中に入ってもよろしいですか?」
「え? あ、うん、いいよ」
俺は槍を壁に戻し、亜希をシェルターに招き入れた。
バスタオルを垂らして外からは見えないようにする。
「どうしたんだ? 亜希も外敵を警戒して眠れなかったのか?」
「いえ、その点は全く気にしていませんでした」
亜希はかぶりを振り、スカートの裾をギュッと掴んだ。
その手を見た時に、ふと視線がずれて白いニーハイに目が行く。
深夜に二人きりで、外からは見えない状態……。
俺が童貞だからなのかもしれないが、否応なく脳内がピンクに染まる。
「その点は? じゃあ、何が気になっているんだ?」
俺は興奮を押し殺すように、上ずった声で尋ねた。
なるべく平静を装っているが、童貞にこのシチュエーションは厳しい。
「悠希くんと晴菜さんのことです」
「俺と晴菜……?」
「何かありましたよね? 初日の夜か、もしくは二日目の朝に」
「えぇ!?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまう。
どういうわけか、亜希は俺と晴菜の関係を見抜いていたのだ。
「隠しても分かりますよ。明らかに距離感が変わったので」
「えっとぉ……それはぁ……」
亜希が確信している以上、適当なウソを並べても意味がない。
俺は目を泳がすことしかできなかった。
「別に、二人がどういう関係でもかまわないんです。だって、私と悠希くんには、互いの行動を束縛するようなものが存在しないわけですから」
亜希はそこで言葉を区切ったあと、「でも」と続けた。
「悔しいじゃないですか」
「悔しい……?」
「悠希くんとキスをしたのは私のほうが先のはずです。ですよね?」
「あ、ああ、そうだな……」
「なのに、いつの間にか晴菜さんとの距離が縮まっていて……悔しいです」
どうして亜希が悔しがるのか分からない。
ただ、何に対して悔しがっているのかは分かった。
(とはいっても、俺はどう返事をすればいいんだ……?)
悩んでいると、突然、亜希が俺を押し倒した。
布団の上に背中をついたが、それでも竹が「ミシィ!」と大きな音を鳴らす。
「お、おい……!」
「ごめんなさい、悠希くん。でも、負ける気はありませんから、私」
そう囁くと、亜希は俺の胸に手を添え、唇をゆっくり近づけてきた。
かすかな柔らかい息遣いが伝わり、体温の熱さで心臓がもっと早くなる。
「この前は晴菜さんに邪魔をされてしまいましたが……今日はその心配もありませんよね?」
亜希がそっと唇を重ねてきた。
一度、二度……と、軽いキスを何度もしてくる。
俺は拒むことなく受け入れた。
「んっ……」
やがて、そのキスが濃厚になっていく。
亜希は俺の口内に舌を差し入れてきた。
熱い吐息が入り混じり、互いの舌が絡み合う。
亜希の呼吸は浅く速く、俺の心臓はドクン、ドクンと高鳴りっぱなしだ。
彼女の甘い香りが嗅覚を刺激し、気持ちを高めてくれる。
「はぁ……んっ……悠希くん……」
亜希の手が、シャツ越しに俺の体を撫でる。
慣れていないのであろうぎこちない手つきがかえって気持ちいい。
「亜希……」
俺も応じるように亜希の首筋へ唇を移し、ちろりと舌先を這わせた。
彼女の頭に手を回し、髪を撫でながら、耳たぶをパクッと咥える。
俺の息が耳に掛かると、亜希は恍惚とした表情で震えた。
「悠希くん……悠希くん……!」
亜希が何度も俺の名を呼ぶ。
いつもよりも艶めかしい声色で。
そして、俺たちは――。
◇
次の日。
朝、眠っていると誰かに体を揺さぶられた。
「ん……?」
重い瞼をどうにか開けようとする。
しかし、疲労感が残っているせいで瞼が重い。
「起きてくださいまし、悠希さん。起きてくださいまし」
ひそひそと耳元で囁かれる。
仕方がないので目を開けると、そこには玲奈がいた。














