第32話 条約の締結と朝食騒動
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条約内容の調整等すべて順調に進み、あとは調印式を行うだけとなった。
条約調印はシンキョウトの独立記念会館大ホールで行われた。
警戒はここまでしなくてもとばかりに厳重だった。
「なぜここまで厳重にするのですか?」と尋ねたところ、「残念ながらあなた様の命を狙うものがたくさんいます。あなた様をそれから守れるよう厳重に警戒を行っています」とのことだった。
襲来してきたヤマト人を結構な数、殺しているので、それで恨みを買っているのかと思ったら、「たくさんの男の子が貴国に亡命しているでしょ?それで夫を失った妻たちがあなたのことを狙っているのです」と言っていた。
男をおもちゃ扱いするからだと、私は反論したい。まあ、そういうやつらに限って、人の言うことなど聞かず自分の意見を強硬に主張するやつらが多いから、言っても無駄なケースが多いのだが。
条約の調印式は恙なく終わった。
まあ、女たちのグループが外で騒いでいたが、警備隊に止められていた。
「私たちの男を返せ!」「男の権利を認めるな!」「男たちは今まで通り女の言うことを聞け!」とかプラカードが掲げられており、男権剥奪要求同盟と書かれた旗を持っていた。
条約は無事に調印された。この条約に基づき、サルガッソー宙域及びサルガッソー辺境宙域のミズホの領有権が認められた。
更に交易や旅行等の自由が公式に認められ、大使館の設置がお互いの首都に設置されることとなった。
条約調印の後、晩餐会が開かれた。この会に私と、パートナーとしてあみ姉、まいの三人が出席した。ヤマトの名士たちが多く出席していた。
私に話しかけてくるのは、御三家とその関係者だけで、あとは遠巻きにして私を見ているだけだった。
中には、にらみつけてくる者もおり、居心地が悪かったため、早々に引き上げた。
男関係でこんなに恨まれているとは少しびっくりしていた。
ヤマトからの男の亡命者は相変わらず続いており、配偶者をなくす女たちも増加の一途だった。
新政権は男性の権利保護を訴えており、男性の行動の自由、通信の自由、婚姻関係の締結、解消の自由をうたっていた。
そのため、名家の女性たちから新内閣も恨みを買っており、その亡命の受け入れ先であるミズホの総統である私も憎しみの対象となっていた。
秘密の場所での男権剥奪要求同盟の会合
ある秘密の場所で男権剥奪要求同盟の構成メンバーである名家の女たちの秘密の会合が開かれていた。
「夫たちを取り戻すためにはどうすべきか」ある女性が声を上げた。
「ミズホに行って、夫を奪い返せばいいのではないか」別の女が言った。
「ミズホ政府が許さないだろう。捕まって強制的に戻らされるのがおちだわ」
「何人かは夫とよりを戻したと聞いたぞ」
「それは現地の女と妥協して、同居を認めてもらったに過ぎない。もともと我々の物なのに、なぜそんな女たちに気を遣わなければならないの!」
「そうよ、私は、裸に剝いた夫に首輪をつけて散歩するのが趣味だったのに、そんなこともできないのよ」
「私は夫に鞭を入れたり、食べ物を床にぶち撒いて、なめとらすのが好きだったのに、その楽しみも奪われたわ」
「だいたい男なんて私たちが養わなければ、食べていけないような貧弱な存在でしょ。権利を主張するなんて、図々しいのよ」
「みんな、いろいろ不満があるのはわかるわ。でも私たちが考えなくてはならないのはどうやって自分の夫を取り戻すかよ」一人の女性が声を発した。
「でも、どうすればいいのよ。みんなサルガッソーの奥に隠れてしまって、とてもヤマトには出てこないわ」
「いい考えがあるわ。九頭一史を捕らえて、交換に男たちを返してもらうのよ」
「九頭って、ミズホの総統でしょ?簡単には捕まえられないじゃないの?」
「それがある筋から秘密裏に手に入れた情報だと、九頭家ら御三家の息のかかった報道機関だけを呼んで何やら記者会見を開くそうよ。秘密裏に行うので、あまり目立たないよう護衛もわずかで、御三家の要人と九頭一史が出席するのよ」
「じゃ、その時が九頭一史を捕らえるチャンスなわけね」
「いいぞいいぞ、そのための実行部隊が必要だね。仲間の軍の幹部に言って兵を出してもらいましょう」
「いや、それはやめた方がいいと思う」
「何で?人口子宮生まれの奴らはそういう仕事をやるための存在でしょう?」
「あいつら自分達にも結婚のチャンスが、と思って、そのきっかけを作った九頭に心酔している者が多いから、もし命じてもちゃんと動くかどうか怪しいわ。逆に九頭について行ってしまうかもしれないし、御三家に密告するかもしれない。人工の奴らはあてにしない方がいい」
「じゃ誰がやるの?」
「一番確実なのは我々自身でやることだ」
「我々が?」
「我々だけなら信用できるし、情報の漏洩も防げる。なにより人に命じてやらせるよりも確実だ」
「確かにそうね、このことが御三家に漏れたら粛清の理由になりそうだしね」
「九頭と一緒に御三家の連中も捕らえてしまえば、政権の転覆も夢ではない。そうしたら、我々の都合のいい政権を立てられるに違いない」
「男たちをミズホから取り返し、男の権利をはく奪して、昔のような正しい社会を取り戻せるわ」
「ええ、正しい社会を取り戻すという私たちの夢をかならず実現しましょう」
あちこちから賛意が上がり、具体的な計画に話し合いは移っていった。
朝の光の中、私は巨大なベッドの中で目覚めた。隣にはまいが寝ている。二人とも裸だ。ここのところ毎晩あみ姉とまいの二人と夜の運動会を繰り広げている。
まあ、200年ぶりだし、仕方がないと思って付き合っている。
さて、今日はあみ姉が隣にいない。どうしたのだろうとぼんやりベッドの中で思っていると、ガラッと障子が開いて「朝ごはん出来たからそろそろ起きて」とあみ姉が声をかけてきた。
「ああ、ありがとう。まい起きて、あみ姉が朝ごはん作ってくれたって」と言って、起こした。
「ああ、一史おはよう。ごめん、今なんて言った」とまいが聞いてきたので、「あみ姉がご飯作ってくれたって」と言うと、急に青い顔になり、「ああ、私ちょっとシャワーを浴びたいから、一史は先に行ってて」と言って寝間着を抱きかかえるとそそくさと部屋から出て行った。
まいの奴、なんかやたら焦っていたな、どうしたんだろう、そういえば私もなんか胸騒ぎがするのだけどなんだこれは、と首をひねった。
しばらく悩んでいると、再びあみ姉が現れて、「朝ごはん覚めちゃうよ。早く来て」と言って、私の手を取って起こしたうえ、そのまま手を引いて食堂に連れていかれた。
あみ姉の手は暖かく、やわらかい。その感触になごんでいると、食堂についてしまった。
食卓の上には、朝ごはんが用意されていた。
「さあ、召し上がれ」とニコニコと笑顔で私を見ていた。
私は座って、ご飯を食べ始めた。
ご飯はとてもおいしい、でもさっきから頭の中で警告音がなっている、何かあったような気がするのだけど思い出せない。まあいいや、と頭から警告音を追い出して、朝ごはんを満喫することにした。
半分ほど食べただろう、いきなり手足のしびれと腹痛が私を襲った。その時頭の警告音がなぜ鳴っていたかを思い出した。
あみ姉は昔からご飯に薬を混ぜる癖があった。当人は悪気はない、ただ疲れているから精力剤(あみ姉お手製)を入れたり、風邪気味の時は風の特効薬(あみ姉お手製)を入れる癖があった。
ただ問題は、あみ姉の薬は非常に緻密勝つ繊細に作られており、そのまま飲むのは良いのだが、熱を加えたりすると化学変化を起こして、別の作用をもたらすことが多い、というか必ず起こす。
「あみ姉、何入れた」息も絶え絶えに私は尋ねた。
「一史君がお疲れ気味だから元気になる薬を入れてみたのだけど、効かない?」
「薬効きすぎ。おなか痛いし、手足がしびれる」と言って、椅子から崩れ落ちた。
「キャー、一史君大丈夫?」と言って、駆け寄ってくるあみ姉の姿を最後に意識を手放した。
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