5.ふーみーチャンネル
「どーもー! ふーみーチャンネルのふみと――」
「みつです!」
「「私(僕)たち、幼馴染カップルでーす!」」
死ぬ程恥ずかしい……。素顔を晒して僕は一体何をやっているのだろう……。
カメラの前でにこやかに手を振ってはいるものの、内心穏やかじゃない。これはある意味羞恥プレイと言っていいだろう。
「ふみちゃん、いやマイハニー! 今回は何をするんだい?」
僕はこんなこと言わない……。
本当の僕はこんなキャラじゃないんだ!
史佳のために自分を誤魔化してるだけなんだ!
カップルが出演する動画。これは中高生に人気があるそうだ。理由はよく分からない。
再生数も動画によっては、ミリオンを超えるものもある。そのバズり具合から、実際には付き合っていないビジネスカップルなんてあるくらいだ。
今の僕と史佳の関係が、それに当てはまる。
「今回は……愛するみっくんの大好物! ピザを作りたいと思います!」
「よし! ハニー! さっそくやろう!」
「だーめ! みっくんは座ってて。今回は私が作ってあげるんだから!」
「え? 僕は何をしたらいいの?」
白々しい。撮影前の史佳との打ち合わせで、僕は出来たものを食べて感想を述べる役となっている。
「ピザの評価だけしてくれればいいから」
恐らくここで、編集後の動画にはこうテロップが入るだろう。
『※今回のみっくんは置物です』
そして動画はここから、史佳の料理パートに入る。
チーズを振りかけるところからピザが焼き上がるまで、およそ10分くらいに纏められる。
料理に使用する食材は全て、校條家が経営する食品会社のもの。オーブンももちろん、校條家のメーカのものだ。
露骨にロゴをカメラに映すようなことはしない。さりげなく、自然な形で見えるようにするのだ。
ステルスマーケティング、略称ステマ。あたかも、カップルのイチャイチャ動画を装った巧妙な企業の宣伝。僕はそれに加担することになった。
今回は動画ではサブリミナル効果で、校條家の商品を視聴者に刷り込むようにするらしい。
どうしてこうなったのか。それは二週間前に遡る。
そう、史佳が僕に相談したいことがあると言ったあの日だ――。
★★★★★
「みつ……あのね……」
「うん……」
昨日屋上で話した時とは違い、史佳から重苦しい感じが伝わってきた。たった一日で、こうも人は変わるものだろうか。
昨日の夜、収益化の可能性が出てきたことに浮かれていた僕が馬鹿みたいだった。史佳は苦しんでいたと言うのに呑気なものだと思う。
一体何があったのだろう。僕がお願いしたコメント操作のことで、何か言われたのかもしれない。
「もしかして、僕の動画のこと?」
「うん、一応そうかな」
「どういうこと?」
「みつはうちの会社が、動画サイトで製品を宣伝してるのは知ってるわよね?」
「うん」
僕が知らないはずはない。お気に入りの動画を見る時、動画が始まる前にいつもコマーシャルが流れるのだ。
「みつが昨日あげた動画、再生数が多かったでしょ? あれ実は校條家の関係者がかさ増ししてたの」
「そうなの!?」
僕は僕自身の力で再生数を勝ち取ったと思っていたが、校條家に手の平で転がされていたらしい。
頭を抱えてその場に蹲りたい衝動に駆られるも、史佳の悩みを聞くと言った手前そんな無様な姿は見せられない。
まあ、史佳に助けを求めた時点で十分無様なんだけど……。
「それでね、そのことがお父さんにも伝わったみたいなの。それ自体は特に問題がなかったんだけど、お父さんがあることに気付いたの」
「あること?」
「動画サイトに広告を打つより、動画自体で宣伝、工作した方が製品を認知してもらえる。そして、その方が安上がりだってこと」
巨万の富を得ている校條家でも、節約をしない訳じゃない。宣伝効果が同じであれば、当然安価な方を選ぶ。
でも、動画サイトに広告費を支払えばいろんな動画にCMが流れるのだから、動画自体で宣伝するよりも多くの人に見てもらえるはずだ。
「本当に? 単純な視聴回数だけで考えれば、広告費を払った方がいいと思うけど?」
「よく考えてみて。たった数秒で商品の宣伝されても、すぐに忘れちゃうでしょ?」
「確かに……」
「広告はいろんな人に見てもらうことよりも、見た人に覚えてもらうことが重要なの。そう言う意味で、動画そのものを広告にした方が効率的でしょ?」
言われてみればそうだ。興味の無い商品を短い時間でPRをされたところで、記憶に残らないし買おうとは思わない。
だけど長時間宣伝されれば、記憶には残る。その商品を覚えてさえいれば、いずれ興味が湧いて買ってしまうかもしれない。
「それはそうとして、それが史佳の悩みと何が関係あるの?」
商品の宣伝動画は、その商品を作った会社が制作すればいいだけのこと。史佳とは直接関係がない。
「私ね、お父さんに言われたの。校條家を継ぐことになるんだから、自分の会社の商品は自分で宣伝しなさいって」
「史佳も動画を投稿するってこと?」
「そう言うこと。でもね、私一人じゃ駄目なの」
「どうして?」
「私一人じゃ、同世代の女の子か大きなお友達にしか見てもらえない。流石に偏りすぎちゃうの。だから――」
★★★★★
そして、今に至る。
僕は史佳にお願いされた。一緒に動画に出て欲しいと。史佳から「こんなことみつにしかお願いできないの!」何て言われたら、断れなかった。
動画で僕達がカップルという設定にしたのは、史佳の戦略。カップルということで男女両方から見てもらえる。
投稿を始めてすぐ、再生数がとんでもないことになった。現在、累計200万再生を突破している。
校條家の工作もあるのだろうけど、これは凄い。
「みっくん、ピザのお味はどう?」
「うーん……少なく見積もっても一億点! パーフェクトだよハニー!」
yeah!!




