第一陣の波に乗り
オーガスト様の抱擁がトドメとなって余りにも耳目を集めすぎたため、私達はそろって別の休憩スペースへと移ることとなった。
「別に君は好きにすればいいだろう、オーガスト」
「そんな邪険にしなくても。お姫様からあんまり離れたくないんだろう?任せときなさいって」
その自信の意味はすぐ分かった。オーガスト様は社交がとてもお上手だったのだ。
例えば誰かがアルバート様に声をかけてきても、あっという間にオーガスト様がその相手を代わっていて、それがまたびっくりするくらい和気藹々と円満に挨拶が終わる。
魔法のように場をオーガスト様がコントロールしている。時たまオーガスト様の家名に鼻を鳴らす人がいても、私に不躾な眼差しが注がれたとしても、オーガスト様が話し始めるとみんなオーガスト様に夢中になる。
私達はオーガスト様の添え物で、何の憂いもなく添え物でいられた。驚くべきことに!
次期公爵として比較的場慣れしているはずのアルバート様が目を丸くして言った。
「オーガスト、君はすごいな」
「中身のない会話は大の得意なんです。身内を除くフィッツロイより格下の相手なら任せてください」
絶妙に情けないけど恰好いい!
オーガスト様への好感度は爆上がりである。
罪悪感からかオーガスト様はとても働き者で、挨拶が落ち着くとちょっと待ってて、と言い残してすいすい人混みの中へ消えていき、そして暫くすると何事もなかったかのように戻ってきた。
「城の方が少し騒ついていた。そろそろ主役の登場じゃないか」
「へえ。じゃあついでに第三王子殿下がどの辺り歩かれるか調べてきてよ」
「え、今戻ったところなのに?」
「頼むぞ、オーガスト」
「アルバート様まで!でも頼むぞって言われたら悪い気しない!」
ぶつぶつ言いながら再び人混みに消えるオーガスト様を見送り、薄情にも私たちは再びお茶をいただく。
それから少しして、離れたところで人のざわめきと拍手が聞こえた。拍手は伝播していき、庭園中に響き渡った。
「ああ、いらっしゃったみたいだね」
人の背ばかりで姿は見えないが、アルバート様とフレドリック様も立ち上がり拍手を始めた。私も同じように手を叩く。
拍手が止み、それでもどこかそわそわした空気が漂っていた。
「これから王家の皆様がそれぞれ庭園を回られるんだ。第三王子殿下がいらしたら、コーネリアもご挨拶しよう」
「はい」
なるほど、それで先ほどオーガスト様にその調査を頼んだのか。同じようなことをしてお目当ての王族の近くに行くのだろう、ぱらぱらと人の動きがあった。
ああ、オーガスト様も戻ってきた。
「お待たせ。第三王子殿下は第二王女殿下とともに向かって右から二番目、たぶん外周寄りを回られると思います」
「有難う。私達はこの挨拶が終わったらお先に失礼するが、オーガスト、君はどうする?」
アルバート様の問いかけに、オーガスト様は顎に手を置いて頷いた。
「では、それまでご一緒させていただいても?人混みになりますし、壁は多い方がいいでしょう」
「…お前、本当にコーネリアを狙ってるんじゃないだろうね?」
「剣に手をかけるなって。これ、肯定しても否定しても怒られる理不尽なやつだ、知ってる」
遠慮のないやりとりも楽しそうで、友情っていいなぁとにこにこ見つめていると、オーガスト様が恨みがましい目でこちらを見た。
「あいつの瞳孔開き気味だったからね。思うほど微笑ましい感じじゃないからね。」
オーガスト様が言った通り、辺りは王族に声をかけてもらおうとする人たちでやや混み合っていた。
その程度で済んでいるのは、パーティ自体が日暮れまで開催されるからだろう。
王族たちはこれから日暮れまでの長い時間を過ごすなかで、楽団の音楽をともに鑑賞したり、近くにいる者を招いてお茶をすることもあるのだという。
知遇を得たいと思う者ほどご挨拶のタイミングを見計らうそうだ。
私は御当主様からささっと挨拶をして迅速に撤退するよう求められているため、この第一陣の波に乗る。
オーガスト様が第三王子殿下が通りかかるであろう付近の場所を確保してくれた。
アルバート様とフレドリック様に挟まれ、オーガスト様は二歩ほど離れた場所にいる。オーガスト様は私達と別れたら別の王族の方の元へ向かうらしい。派閥的なやつだろうか。
「…いらしたようだ」
アルバート様がぽつりと言う。
人垣を割るようにして、二人の王族が微笑みながらやってくるのが見えた。
特別授業で目にしているはずの第三王子殿下であったが、服装が違うだけで醸し出される高貴さが桁違いだ。白い大礼服の金糸の装飾が眩しい。
お小さいながらもすんごい王子様感である。
そして未だ幼い弟を守るようにして手を引く王女様の可憐なこと!同じく金糸で全身を刺繍された薄い桃色のドレスは芸術品のようだ。白い陶器のような艶かしい肌、烟る睫毛、すっと伸びた鼻筋、そして熟れはじめた果物のような唇。うひゃあ!美少女!
護衛らしき人がぴったりとついているとはいえ、この二人だけで行動させて大丈夫?誘拐されない?
思わず妙な心配をしてしまうくらいお二人は眩かった。
でも第三王子殿下なんて私とほとんど年は変わらないというのに、お二人とももう立派な王族だ。周りを囲むようにして話しているのは意外と年配の方が多い。そんな彼らに穏やかに微笑みながらニ、三声をかけながらゆっくりと歩む姿は堂に入っていた。




