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腰掛け公爵令嬢のモットーは  作者: nobu
王都 御令嬢いちねんせい編
10/70

庭園で

今日は一日お屋敷でお勉強の日だ。

まずは領地について。ざっくりとは教えてもらっていたが、地図をもとにクライヴからより詳細な地理、産物、歴史を聞く。今日は古森を有する南側についてだ。


王国の三大公爵家はそれぞれ古森と接しているが最もその範囲が広いのがフィッツロイ公領であり、それ故に希少な薬草の群生地を多数有することが特色として挙げられる。珍しい毛皮を持つ魔獣もとれるそうだが、これは古森の悪い方の影響だろう。

フィッツロイの本家は練度の高い騎士団を有しているほか、冒険者と呼ばれる何でも屋が人里に出てきた魔獣を狩っているらしい。


冒険者かあ。


次は大陸語の授業の予定だが、約束の時間まで少しある。気分転換に、とメイに促されるまま庭園を歩きながら、先ほど聞いた話を思い返した。


冒険者は、冒険者組合に所属し斡旋される依頼をこなすことで報酬をもらうそうだ。依頼内容は多岐に渡るが、フィッツロイ公領の依頼は古森や魔獣に関連し総じてレベルが高いらしく、公領を拠点とする冒険者はランクの高いベテランが多いらしい。


落ち着いたら、冒険者もありかな。


常に誰かの視線に晒され形式ばったイベントばかりのせいか、自由な暮らしぶりがとても魅力的に思える。孤児院で暮らし、貴族の世界を学び、冒険者として働いたら人間社会も結構満喫したことになるのではなかろうか。

まあそれももう少し成長してからだろうと切り替え、整えられた庭園に目を向けた。

鮮やかな発色だったり、甘やかな薫りだったり、森や下町ではお目にかかったことがない花ばかりだ。


「きれいね…これは百合かしら」

「…へえ」


見覚えのある形の花を見つけ近づく。

独り言のつもりだったが、そばで作業をしていた庭師が頭を下げて返事をしてくれた。


横向きに咲く薄桃の小ぶりな花はなんとも可憐だ。その横は八重咲の大輪、奥のものは花弁にフリルが入りグラデーションが美しい。

葉の伸ばし方まで計算されているようで、森に自生しているものと比べて箱入り感が半端ない。直截的に言えば高そうだが、正しく高いのだろう。


ふと、その横に根から抜かれた束が数本寝かされているのを見て首を傾げた。


「お仕事中にごめんなさい。これは?ダメになってしまったの?」

「とんだお目汚しを。こいつは、美しい花をつけるために余計な奴を抜いたもんです」

「もういらないということ?」

「へえ」


ふうん、と頷く。間引かれた百合は緑の小さな蕾をつけている。ぴんと伸びた茎はみずみずしい。


「…これを、いただくことはできる?」

「お嬢様、百合の花をご所望でしたらお好きなものを届けさせます」


メイの言葉に頷いた。


「ええ、ではこれを。少しでいいわ。根もそのままで」

「よろしいのですか」

「どんな色なのか咲くまで分からないのも素敵でしょう?」


そう言うと、メイは一拍置いてから承知しました、と頭を下げた。


「鉢植えにしますか、それとも花瓶に挿しましょうか」

「…そうね、花瓶に水を入れて根ごと挿してほしいのだけど、お願いできるかしら」

「次のレッスンからお戻りになるまでにご用意しておきます」


メイが庭師から百合を受け取る。

どうせ捨てるなら貰おうかな、くらいの軽い気持ちだったが、結局受け取るのも花瓶を探すのもそれを生けるのも使用人の仕事だということに気づいて内心頭を抱えた。

日々のんびりと暮らしている私と違ってメイは一日中働いているというのに、完全に余計な仕事を増やしている。考えなしの主人で申し訳ない。


「我儘を言ってごめんなさい。花はいつでもいいわ」

「この程度、我儘のうちには入りません。…お嬢様は百合の花がお好きなのですか」


メイから個人的なことを聞かれたのは初めてで、少し驚く。


「清らかで、凛としていてとてもきれいだと思うわ。でも、どうして?」

「いえ、お嬢様がこうして何かにご興味を持たれることはあまりないように感じましたので」

「…そうかしら」


私はメイの態度が珍しいと思ったけれど、そもそもメイは私の態度が珍しいと思ったようだ。

そんな無気力に見えていたのだろうかと思い返してみれば、心当たりは確かにあった。口数は意図的に減らしているし、欲しいものを聞かれてつい先日も断ったばかりである。

しかし、そういった現状を鑑みるとやはりこの思いつきは軽率だったように思えてくる。


「…やっぱり、変なことをお願いすべきではありませんでした。花を見たければまた庭園を見せていただければ良いのだし、それは戻してこようかしら…」

「いいえ。ちょうどお部屋の花を増やそうと思っていたのです。お嬢様がよろしければ、どうかこのままで」


怖気付いた私の気弱な意見をすぱっと叩き切ったメイはいつもの無表情だ。

欲しいって言いましたよね、という副音声が聞こえるよ…。本当に貴族令嬢って難しい。

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