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腰掛け公爵令嬢のモットーは  作者: nobu
王都 御令嬢いちねんせい編
11/70

出席の準備とは

国王陛下の誕生日パーティへ出席する準備を進めるよう言われてから少し。

パーティ自体は暫く先だがご当主様の指示もあるし、準備は早いに越したことはない。

課題が無事提出できたこともあり、書籍館通いは一休みしてクライヴからパーティに必要な準備について指南を受けている。


「ドレスを新調いたしましょう」


早々、にこやかに提案され慌てて首を横に振った。昨日衣装部屋を覗いたら、やはり着た覚えのないドレスがいくつも吊ってあったのだ。


「まだ袖を通したことのないドレスがあるの」

「現在お持ちのものは急ぎ用意した既製品ですし、折角ですからきちんと採寸したものを作りましょう。フィッツロイが懇意にしている仕立て屋がございます。話は通しておりますので、コーネリアお嬢様の予定に合わせて一度屋敷へ呼んでみてはいかがでしょうか」

「…これから成長期を迎えるというのに、採寸しても」


つらつらと当たり前のように言われ一瞬流されそうになるが、思い止まる。

さすがに一度着たドレスはよろしくないかもしれないが、新品が既に手元にある。それを差し置きわざわざ新調する理由が分からない。

既製品だろうがお子様サイズだろうが、あれだけ繊細なレースやら輝石やらがついていればお安い買い物ではないのだから。

何よりすぐに着れなくなる未来も見えているのにわざわざ体にフィットしたものを作るのは、と再度首を振ったが、クライヴの薄い笑みは揺らがなかった。


「王家主催のパーティなのですから、それに向けて出来うる限りのご衣装を準備するのは高位貴族のマナーのようなものです」

「…マナー、ですか」

「王家に敬意を払うのはもちろんですが、仕立て屋に仕事を与えて保護するのも貴族の義務のようなものと捉えていただければ良いかと」


服装はTPOを弁えろ、金を使って経済を回せということだろうか。理解はするが、自分が稼いだ金でもないのでどうにも二の足を踏む。


「それにパーティに参加される他家の方々は、お嬢様の姿を通してフィッツロイを見ることとなります。半端な衣装では、ドレスの一つも用意してやれないのかと旦那様が侮られることとなりましょう」

「そういうものでしょうか」

「そういうものでございます」


うーん、と煮え切らない返事をする私の顔を覗き込みながらクライヴは励ますように頷いた。


「色々理由はございますが、あまり深くお考えにならずとも、お嬢様を着飾らせたいという旦那様や坊ちゃん達の願いを叶えてやる、くらいでよろしいのですよ」

「まあ」


軽やかに笑うクライヴにつられて思わず笑ってしまった。

さすがにそこまで開き直ることはできないが、仕方ない、この散財分はいつか返すとして今回はお言葉に甘えることとしよう。


「例年通りであれば、お嬢様が参加されるのは日中のガーデンパーティーでしょう。流行やマナーを踏まえてデザインを考えてくれますから仕立て屋の意見を聞きながら選べば大丈夫です」

「分かりました」

「靴やアクセサリーも仕立て屋と相談して選びましょうか。当日の振る舞いはマナーレッスンでさらうとして…あとは贈り物ですね」


贈り物、と繰り返す。

なるほど、誕生日のお祝いだもんね。しかしどんなものを用意すれば良いのか見当もつかない。


「皆さまどういったものをご用意されるの?」

「立場によって様々ですが、領地の特産物や交易品を献上されることが多いようです。それ以外では、薔薇の花束をお贈りするのが一般的でしょうか」


国を挙げての一大イベントであり当日含む数日間は王城の一部が一般公開されるらしく、薔薇をはじめ献上された品々は検疫のうえ王城内の各所に飾られ、訪れた人々の目を楽しませるのだという。

ちなみになぜ薔薇かというと、王妃様が一番お好きな花なんだそうだ。めっちゃ夫婦仲良いなこの国のトップ。


「お嬢様は個別に招待状をいただいていますから旦那様とは分けて何某かをお贈りいただくことになりますが、今回は薔薇の花束でよろしいかと。日にちが近づいたら庭園の見頃の薔薇を選んでもらいましょう」

「…そう、なるのね」


うーん、私の贈り物と称してお屋敷の薔薇を掻っ攫う行為に若干の引け目を感じてしまう。

あの美しい庭には恐ろしくお金がかけられ、庭師の人たちが多大な手間暇をかけて日々維持しているということを知ったせいかな。せめて連名とかに…できないか。


小さい声で応えを返すと、クライヴは少し考えこんだあと、そうですね、と頷いた。


「…お気にされるようでしたら、献上用として一株ほどお嬢様がお世話されますか」

「え?」

「尊い御身分の方でも、薔薇を殊の外好まれてご自身の薔薇園をお持ちであったりするのです。作業自体は庭師がおりますし、嗜みとして手掛けられるのも良いかもしれません」


礼儀作法、フィッツロイ家の一員としての心構え云々に厳しいクライヴからそんなお許しが出るとは。

庭仕事も薔薇に限ってはオーケーということだろうか。

部屋や書籍館のなかに閉じこもりがちな生活に文字通り陽光が差し込むのを感じ、思わずクライヴの顔を凝視した。


「…一応言っておきますが、実作業は庭師が進めます。お嬢様がお出来になるのは日々薔薇をご覧になって庭師を褒めることでございます」


…ねえちょっと!!

世話をするって言葉の意味、間違ってません!?


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