第百十七話 守れなかった背中
倒れた魔物を。
木の根元へ移す。
白い筋は切れている。
それでも。
北へ向いた耳だけは動いていた。
「ここから先は。」
ガレスが森を見る。
「群れが通った直後だ。」
「戻るんですか。」
「目的は果たしていない。」
鐘も。
接続先も。
まだ見つかっていない。
「だが、追いつくためには進まない。」
群れとの間を空ける。
七人はその場で待った。
◇
レインが木へ手をついた時。
森の景色が揺れた。
同じ木。
同じ根。
けれど。
足元には雪が積もっていた。
「走れ!」
過去のトーマの声。
レインの身体が。
勝手に前へ進む。
手の中に剣はない。
森の奥で。
誰かの背中が揺れていた。
長い髪。
細い身体。
白い光に隠れ。
顔は見えない。
「絶対に助けろ!」
もう一度。
背後で何かがぶつかる音。
振り返ろうとする。
けれど。
過去の自分は振り返らなかった。
◇
「レイン!」
肩をつかまれた。
目の前に。
ロイドの盾がある。
レインは。
ひとりで三歩進んでいた。
白い草の中へ。
「止まってください。」
ミリアの声。
足の先から。
白い光が伸びている。
セレスの水が。
触れる前に土を洗った。
「また履歴か。」
ガレスが尋ねる。
「はい。」
「誰がいた。」
「女の人に見えました。でも、顔は見えない。」
セレスも。
ミリアも。
その答えに何も言わなかった。
見えない顔へ。
知っている誰かを当てはめることはできない。
◇
「俺は何をしてた。」
トーマが聞いた。
「後ろにいた。何かと戦ってた。」
「お前を先へ行かせるために?」
「たぶん。」
「たぶんで、俺を死なせるなよ。」
冗談のような言い方だった。
けれど。
誰も笑わなかった。
過去の自分は。
助けろと言われた相手だけを見た。
後ろに残った者を。
確かめなかった。
【履歴照合:継続】
【結果情報:欠損】
「助けられたかは、出ない。」
レインは読み上げる。
「なら。」
ロイドが盾を持ち直した。
「同じことをする必要はありません。」
先へ進む者と。
後ろに残る者。
どちらかを選ぶのではなく。
届く合図を残す。
ガレスが鐘を一度鳴らした。
少し離れた場所で。
リディアが二度返す。
声の先へ走る前に。
全員の位置を確かめる。
七人は。
今度こそ同じ速さで進んだ。




