第百十八話 二つの合図
森の奥で。
鐘が鳴った。
一度。
ガレスは立ち止まり。
自分の鐘へ手を置いた。
「返さないんですか。」
「先に確かめる。」
音は右から届いた。
魔力の流れは北。
二つの方向が違っている。
「鐘だけを追えば。」
セレスが右を見る。
「流れから離れます。」
「分けるか?」
トーマの問いに。
ガレスは首を振った。
「分かれるための情報が足りない。」
◇
セレスが水を左右へ伸ばす。
右の水は動かない。
北の水だけが引かれる。
ロイドは盾の縁を叩いた。
一度。
森の右から。
同じ音が返る。
「聞いている。」
ミリアが小さく言った。
「誰かが、こちらの回数を真似ています。」
ロイドが二度叩く。
返事も二度。
だが。
二度目の音は少し遠かった。
近づいているのではない。
誘っている。
「右へは行かない。」
ガレスが決めた。
その直後。
北から三度の鐘が鳴った。
◇
「どっちが本物だ?」
トーマが剣を抜く。
「どちらも、私たちの合図ではありません。」
リディアの水が。
七人の周りへ円を作る。
木の陰で。
白いものが動いた。
魔物ではない。
細い糸。
枝から枝へ張られ。
先に小さな金属片が下がっている。
魔力が流れるたび。
枝が引かれ。
金属片が鳴っていた。
「人が鳴らしてたんじゃない。」
レインは。
白い糸を見る。
【魔力流変動の伝達】
【設置者:特定不可】
「仕掛けです。」
「学院のものではない。」
リディアが言った。
◇
右から聞こえた音も。
北から聞こえた音も。
同じ糸でつながっていた。
一本へ触れれば。
離れた場所の鐘が鳴る。
回数を真似たのではない。
ロイドの盾が起こした揺れを。
糸が運んでいた。
「昨日の三度も。」
ミリアが息を飲む。
「私たちより先に誰かが鳴らしたとは限らない。」
「魔力の揺れが三回来た。」
セレスが北を見る。
「そのたびに、ここが鳴った。」
◇
レインは剣を抜かなかった。
糸を切れば。
どこから揺れが来るのか分からなくなる。
ガレスが布を結び。
位置だけを残す。
「持ち帰らないんですか。」
「仕組みを壊さず調べる者が必要だ。」
目的の一つは分かった。
鐘は助けを求める声ではない。
けれど。
安心はできない。
森の外まで届いたほどの揺れが。
北で起きていた。
その時。
糸に下がる金属片が。
一斉に鳴った。
一度でも。
三度でもない。
長く。
途切れず。
北から白い風が吹いた。




