第百十六話 白い群れ
森の中は。
音が少なかった。
鳥は飛び立ったはずなのに。
羽音さえ聞こえない。
先頭のガレスが手を上げる。
全員が止まった。
土の上に。
白い足跡が並んでいる。
一体ではない。
「六。」
ロイドが数えた。
「奥にもあります。」
セレスの水が。
窪んだ跡を順に満たしていく。
十一。
十二。
その先で。
水が一斉に弾けた。
◇
「来る!」
木々の間から。
白い影が走り出す。
門前で見たものより小さい。
黒い角。
白くなった口元。
群れは七人を見ていない。
北へ走っている。
「道を空けろ!」
ガレスの声。
全員が左右へ分かれる。
けれど。
一体がロイドの盾へぶつかった。
仲間に押され。
進路を変えられなかった。
「止める!」
ロイドの足が沈む。
トーマの風が盾の背を支えた。
セレスの水が。
魔物の足元を外側へ流す。
巨体が横を向いた。
「首は斬るな!」
レインは。
口元から伸びる白い筋へ刃を入れた。
一つ。
二つ。
切れた光が土へ落ちる。
魔物の脚から力が抜けた。
◇
倒れた一体を。
後ろの群れが飛び越える。
足跡の白さが。
触れた草へ移っていく。
「このままでは学院まで道が残る。」
リディアの水が。
七人の後ろへ壁を作った。
群れの最後尾が。
急に向きを変える。
北へ進まず。
水の壁へ牙を向けた。
【外部接続:増加】
【行動干渉を確認】
「操られてる。」
「全部か?」
「分からない。でも、あれは自分で向きを変えてない。」
白い光が。
魔物の首を引く糸のように伸びている。
森の奥から。
学院の方へ。
◇
「トーマ、上!」
風が枝を揺らす。
乾いた葉が降る。
白い筋へ触れた葉だけが色を失った。
線の位置が見える。
「セレス、印を!」
水が。
白い筋の左右を走る。
レインはその間を踏み込んだ。
一度では届かない。
ロイドの盾へ足をかける。
「上げるぞ!」
盾が持ち上がる。
身体が高く跳んだ。
剣を振る。
白い筋だけが途切れた。
魔物は水の壁の前で止まり。
その場へ崩れた。
◇
群れは。
北へ消えていった。
追わない。
七人は倒れた二体を調べる。
ミリアの光が。
胸の動きを確かめた。
「生きています。」
「白い部分は。」
「増えていません。」
倒さなくても。
止めることはできた。
けれど。
森の奥へ続く十二の足跡は。
どれも同じ方角を向いている。
逃げているのか。
呼ばれているのか。
その答えだけが。
群れと一緒に北へ消えた。




