第百十五話 森へ戻る理由
翌朝。
北門の前には。
三本の細い杭が並んでいた。
「鐘じゃないんですか?」
トーマが尋ねる。
「音だけを追うな。」
リディアが答えた。
杭には糸が結ばれ。
先に小さな布が下がっている。
風が動けば布が揺れる。
魔力が流れれば。
杭に刻まれた光が移る。
「目と耳の両方で確かめる。」
ガレスは。
森へ続く道を見た。
◇
学院長と司書も来ていた。
「森へ戻る理由は三つ。」
学院長が言う。
「ひとつ。白化した魔物との接続先を探す。」
「ふたつ。昨日の鐘を確認する。」
司書が続ける。
「三つ。レイン君が見た履歴が、この場所でしか開かないのかを確かめる。」
「記憶を追うためだけには行かないんですね。」
ミリアの言葉に。
学院長が頷いた。
「過去は、今いる人間を危険にさらす理由にはならない。」
レインは。
その言葉を胸に置いた。
見たいものがある。
けれど。
見えたものに引かれて進めば。
過去の自分と同じになる。
◇
森へ入るのは七人。
ガレスとリディア。
レインたち五人。
北門には教師が残り。
杭の光を記録する。
「合図を確認する。」
ガレスが鐘を持ち上げた。
一度。
異常の確認。
二度。
退路の確保。
三度。
すぐに離れる。
「四度鳴ったら?」
トーマが聞く。
「俺たちの合図ではない。」
「昨日の鐘も。」
「数が同じでも、こちらの合図とは限らない。」
誰かが真似たのか。
偶然なのか。
それを確かめるためにも。
決めつけない。
◇
森の端へ着く。
ロイドが前日の目印を見つけた。
枝の周りに置いた三つの小石。
位置は変わっていない。
だが。
枝の先だけが白かった。
「触らないで。」
ミリアが止める。
淡い光を近づける。
「生きていた部分から、何かが抜けています。」
セレスの水が。
白い先端を避けて流れる。
北へ。
森の中へ。
「昨日より強いです。」
【周辺魔力流:偏移拡大】
【観測点追加を確認】
クロニクルの表示が変わる。
学院。
北門。
森の端。
三つの点が青い線で結ばれた。
その線は。
森の奥へ続いている。
「追えるか。」
ガレスが尋ねた。
「途中までなら。」
「途中で止める判断も、お前がしろ。」
レインは頷く。
戻る理由を持ったまま。
七人は森へ入った。




