第百十四話 声の先
一人で走った道と。
五人で戻った道は。
同じ森へ続いていた。
「トーマの声だった。」
レインが言うと。
本人が眉を寄せた。
「俺は、そんなこと言ってないぞ。」
「今じゃない。」
「別の世界線か。」
トーマは森を見る。
さっきまでの軽さが消えていた。
◇
けが人が運ばれていく。
ガレスは門を離れず。
レインから見えたものを聞いた。
「誰を助けろと言った。」
「分かりません。」
「ほかに誰がいた。」
「俺だけです。後ろからトーマの声がして。」
その先は白く崩れていた。
森も。
空も。
走っている自分の手さえ。
薄い雪の向こうにあるように見えた。
【照合履歴:断片】
【追加条件が必要です】
「続きを見られないか。」
セレスが尋ねる。
「今は、これだけ。」
「なら追うな。」
ガレスが言った。
「見えなかった先を、都合よく決めるな。」
◇
北門の外で。
眠っていた白い魔物が動いた。
前脚が土を掻く。
一度。
二度。
森の奥から。
小さな鐘が返った。
一度だけ。
「まだ誰かいる?」
ミリアが立ち上がる。
「調査に出た者は全員戻った。」
リディアが答えた。
白い魔物の目は閉じたまま。
それでも耳だけが。
鐘の方へ向いていた。
【外部接続:一時増加】
【方向:北】
レインは表示を読み上げた。
「鐘が接続を強くしたのか?」
ロイドが盾を構える。
「逆かもしれない。」
セレスは地面へ水を落とした。
「接続が強くなったから、鐘が鳴った。」
水は。
森へ向かって細く伸びた。
◇
今度は。
誰も走り出さなかった。
ガレスが二人の教師へ指示を出す。
門の防護を閉じ。
鐘が鳴った時刻と魔力の変化を記録させる。
「明日、もう一度調べる。」
「森へ入るんですか。」
「入るかどうかは、今夜決める。」
命を助けろと言った声。
北へ引かれる白い魔力。
誰も鳴らしていない鐘。
どれも同じ道の先にある。
けれど。
同じ答えにつながっているとは限らない。
レインは。
隣にいる四人を見た。
過去の自分は一人だった。
今は違う。
だから。
同じ声を聞いても。
同じ走り方はしない。




