第百三話 門の向こう
森の影が近づく。
枝が折れ。
黒い背が見えた。
一体。
二体。
その後ろにもいる。
「門前の個体と同じか?」
ガレスが尋ねる。
「違います。」
セレスが目を凝らす。
「角が白くありません。」
森から出た魔物の身体は黒い。
背に短い角が並び。
低い姿勢で地面を嗅いでいる。
以前、北方で逃げていた魔物と似ていた。
だが。
今回は逃げていない。
白い角の魔物を見つめ。
ゆっくり囲み始めた。
◇
「仲間じゃないのか?」
トーマが剣を構える。
一体が地面を蹴った。
白い角へ牙を向ける。
二つの身体がぶつかった。
防護の光が大きく揺れる。
白い角の魔物は反撃せず。
門へ身体を寄せた。
逃げ場を求めている。
「追われてたのは、あれにか。」
「まだ分からない。」
レインの目に文字が浮かぶ。
【個体間魔力差を確認】
【白化個体:流出】
【追跡個体:流入】
「白い方は魔力が外へ流れてる。」
「黒い方は?」
「周りから吸い込んでる。」
何を意味するのか。
尋ねる前に。
黒い魔物が白い角へ噛みついた。
白い光が牙へ移る。
黒かった口元から。
色が失われていった。
魔物が苦しげに身を振る。
牙を離しても。
白さは止まらない。
◇
「接触で移った。」
「だから防護が開かないのか。」
教師の一人が言う。
学院へ入れれば。
白い異常も内側へ入る。
だが。
このまま閉じ込めれば。
門前で白化した魔物が増える。
「北門は維持しろ。」
ガレスが振り返る。
「東の補助門から回る。」
「外へ出るんですか?」
「ここで待てば、もっと集まる。」
ガレスはレインたちを見る。
「三人は残れ。」
「でも。」
「命令だ。」
声は低かった。
前とは違う。
北方では同行を許された。
今は学院のすぐ外に。
何が起きているか分からない魔物がいる。
「先生一人で、両方を止めるんですか。」
セレスが尋ねる。
ガレスは答えなかった。
◇
「私も行きます。」
背後から声がした。
青いローブが風に揺れる。
リディアだった。
「北側の魔力が教室まで流れています。」
「生徒は。」
「校舎の南へ移動させました。」
リディアは門の外を見る。
指先へ光を集める。
けれど。
光は北へ引かれ、形を崩した。
「このままでは、学院内の魔法も安定しません。」
「なら防護を見ろ。」
「外側を止めなければ同じです。」
二人の視線が合う。
先に折れたのはガレスだった。
「俺より前へ出るな。」
「あなたも無理に前へ出ないでください。」
◇
東の補助門へ向かう。
レインたちは北門に残った。
白い角の魔物が。
防護の向こうで身体を低くしている。
黒い魔物は四体。
そのうち一体は。
口元から首まで白くなっていた。
動きが不自然に速い。
地面を掻くたび。
周囲の草から色が薄れていく。
「あれが門へ触れたら。」
トーマが言う。
白く濁った防護が。
内側へ膨らんだ。
石柱に亀裂が走る。
「下がれ!」
教師が叫ぶ。
防護が割れたのではない。
けれど。
白い腕のような光が。
門の隙間から内側へ伸びた。
近くにいた生徒へ向かう。
レインの身体が先に動いた。
剣を抜く。
光と生徒の間へ滑り込み。
刃を振り下ろした。
硬い感触はない。
白い光だけが二つに分かれた。
地面へ落ち。
消えない。
「近づくな!」
レインが叫ぶ。
切り離しただけだ。
止めてはいない。
白い光は地面を這い。
もう一度、生徒へ伸びた。
「レイン、右!」
トーマの風が横から叩く。
光の向きが変わる。
セレスの水が。
色の残る石畳だけを濡らした。
「こちらへ!」
水の流れへ押され。
白い光が門へ戻っていく。
レインは剣を構え直す。
三人とも。
もう残って見ているだけではなかった。
門の向こうで。
白くなった魔物が。
こちらへ牙を向けた。




