第百四話 三人の間合い
白くなった魔物が。
防護へ飛び込む。
光の壁が大きく歪んだ。
門の石柱から。
細かな欠片が落ちる。
「もう一度来る!」
レインが叫ぶ。
「どこを止める?」
トーマが風を集める。
魔物の前脚。
肩。
牙。
どこにも白い光がまとわりついている。
【魔力集中:後脚】
「跳ぶ!」
言葉と同時に。
魔物の身体が沈んだ。
「セレス、足元!」
門の外へ水が走る。
防護に触れた部分から霧になったが。
残った水が土を濡らす。
魔物が跳ぶ。
後脚が滑った。
狙いがずれ。
防護の端へ肩からぶつかる。
「トーマ!」
「任せろ!」
風が下から吹き上げる。
傾いた身体が。
門の中央から外れた。
◇
前なら。
三人で一体を動かすだけで精一杯だった。
今は違う。
セレスはレインの声を待つ前に水を広げ。
トーマはその水へ白い光が触れない角度から風を当てる。
レインも。
二人が作る一瞬を信じて動ける。
「次、左から二体!」
黒い魔物が走ってくる。
白い角を追っていた二体。
だが。
門前に落ちた白い光を避けている。
「白くなってない方は、異常が分かるのか。」
「なら傷つけるな!」
レインは門の内側を走る。
防護越しに。
二体の進路を見る。
「右を空けて!」
教師たちが下がる。
セレスの水が防護へ当たり。
青白い光の濁りを一瞬だけ洗い流した。
「今です!」
東から風が届く。
リディアの魔法だった。
防護の外側を横切り。
二体の魔物を北門から逸らす。
その後ろを。
ガレスが走っていた。
◇
剣が一閃する。
白くなった魔物の前へ。
土の線が刻まれた。
斬ったのは地面だけ。
魔物は急停止する。
ガレスが剣を返し。
刃の腹で顎を打ち上げた。
白い牙が空を向く。
「防護を一瞬開けろ!」
「危険です!」
「内側の白い残留だけを外へ出す!」
北門の教師が石柱へ手を置く。
青白い壁に。
人一人分の隙間が生まれた。
「レイン!」
ガレスの声。
説明はなかった。
それでも分かった。
内側の石畳を這う白い光。
剣では消せない。
外へ流す。
「トーマ、押して!」
風が背後から吹く。
レインは白い光の横へ剣を置く。
斬るのではなく。
刃に沿わせる。
光の先端が曲がった。
「セレス!」
水が細い道を作る。
白い光が水を追う前に。
風がまとめて門外へ押し出した。
「閉じろ!」
防護が戻る。
白い光は外の土へ落ちた。
◇
ガレスが後ろへ跳ぶ。
リディアの水が。
地面に円を描いた。
魔物を閉じ込める壁ではない。
白い光が広がる方向を狭めている。
「三人とも、聞こえますか!」
防護越しにリディアが叫ぶ。
「はい!」
「門の内側の魔力を安定させます。今なら魔法を使えます!」
リディアが両手を地面へ向ける。
引かれていた魔力が。
一瞬だけ学院側へ戻った。
セレスの周囲へ。
水が集まる。
さっきより多い。
「何をすれば?」
レインは門の外を見る。
白い角の魔物。
白化した魔物。
逃げようとする黒い二体。
全部を同じ敵として倒せば。
何が追ってきたのか分からなくなる。
「道を作る。」
「どこへ?」
「東の森へ。」
北から離れる道。
以前、魔物を逃がした方向。
「白い角も?」
「動けるなら。」
トーマが笑った。
「それなら得意だ。」
風で押し。
水で道を示す。
剣で進路を守る。
三人の間合いが。
初めて一つにつながった。




