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《REVELATION ONLINE》 ―人格診断みたいなVRMMOで、最悪の適性が出た―  作者: 如月 爐
愛と悪意の熱

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穏やかな時間

めちゃくちゃ遅れてしまって申し訳ないです。次回の更新は19時頃を予定しています

 暗い部屋の中で女は──否、少女が泣いている。


 壊れた感情のダム。それが収まるまで、男はただ困った顔をして宥めることしか出来なかった。


 少女は真っ赤に泣き腫らした目元のまま、男に、シャーロック、という人物について話し始める。


 このゲームのwikiを作っていたこと、軽薄な癖に誰よりも気を回す奴だったこと。字が下手だったこと。絵が上手かったこと。企業勢とのトラブルの末、この世界を去ってしまったこと。誰よりもこの世界を愛していたこと。そして──


 「あーしが知る中で……ぐすっ……世界で一番の……探偵でさぁ……」


 「そうか……」


 男はそれを聞いて、重々しげに呟いた。シャーロック。きっと少女に大きな傷を残しながら、それでも、未だにそれに縋ってしまうような存在。


 自分に、この世界がどう見えているのか。それを尋ねた少女は、きっと、自分にシャーロックを重ねていたのだろう、と気づく。


 自分が彼のようになってしまうことを危惧していた。そして、期待、していた。


 「……このゲームを辞めようとは思わなかったのか」


 「何回も考えましたよ。けど……」


 「けど……?」


 少女は自嘲気味に笑う。まるで、誰かに言い訳するみたいに。


 「気づいたらあーしも、この世界にすっかりはまっちまいやがりました。アイツはいないけど、アイツがこの世界で生きていたっていう、痕が、それ自体が、このゲームを続けちまう理由になりやがったんです」


 「……失ったものの、痕跡……か」


 男にとってそれは、開けられない扉であり、少女にとってそれは、PLEASE ALLだった。


 「……あーあ!なんでおっさんにこんな話しちまったんでしょう。変ですね、今日のあーしは……」


 少女は顔を背ける。その右眼に、「照」の文字が浮かんだのを男は見た。


 「俺も悪かった」


 「へ?」


 「事情を知らずに、アンタの過去に踏み入るような真似をした。すまない」


 男は俯く。きっと少女にとっては、ずっと消化できない思い出。男はその意味を、現実を突きつけることを、少女に問いかけてしまった。


 「あーしが勝手にテンパっただけでおっさんは……」


 少女は言い淀む。


 「……いや、おっさんも悪いです。悪い。……ばか」


 「……す、すまない」


 少女は小さく呟いた。それはきっと、男の言動以外にも、理由があって。


 「ちょっと、付き合ってくだせぇ」


 「……何にだ?」


 「こういう時は黙ってついてくるのがマナーでしょうが。ほんと……唐変木。なんもわかってねぇです、おっさんは」


 男は再び困った顔をした。割と重体ではあったが、少女に引き摺られるまま、例のオンボロ車に乗せられる。


 「……そういえば、なんでアンタ、自分で運転しないんだ?」


 「できねぇからです。あーしは未成年だから、ゲーム側でロックがかかっちまう。飲酒、喫煙もそう」


 「……なるほど。それは……少し、不便だな」


 「それに………」


 男は車を走らせる。オレンジ色の日差しが、優しく車内を照らした。


 「あーしは、助手席から見る景色の方が、好きなんでさぁ」


 少女はそれ以上、何も言わなかった。車内には、少しだけ、穏やかな時間が流れていた。


 少女に言われるがまま車を走らせた先は、見覚えのある中華料理屋。店の前に車をベタ付けし、店内に入っていく。


 「エビちゃーん。来ましたぜ」


 「おい、何しに来たエビか。お前ら」


 厨房の奥。暇そうにフライパンを洗っていた、海老頭の女。相変わらず嘘みたいな大きさの水槽に入っている。その声色から滲み出る、面倒臭いという感情。


 「久しぶり、か?」


 「できれば二度と顔見たくなかったエビ」


 女は辟易とした様子で呟く。用がないなら出ていけ、と言わんばかりの対応。嫌われてしまったのか。


 「エビちゃん、このおっさん嘘ついてやがりましたぜ」


 「何エビ?」


 「スキルの件、全部嘘っぱちだったそうで」


 「いや、それは……理由があって、だな」


 その瞬間、男の瞳に黒い閃光が走る。それは、投げつけられたフライパンによるもの。男はかろうじて頭を下げてそれをかわす。



 「やっぱりエビか!!適当なことばっか言いやがってエビ!!!」


 「い、いや!その時は俺もわからなかったんだ!包丁を投げるのをやめてくれ!」


 飛び交う調理器具。避ける男。事の発端である少女は、その光景を楽しそうに眺めていた。


 「説明は、する、騙してしまったことは謝るよ……申し訳なかった」


 「……モニカと来たってことは、なんかわかったエビか」


 「それがだな……」


 男は少女に視線を向ける。少女は手をヒラヒラと振って、好きに話せというジェスチャー。男は一つため息をつくと、女に、これ迄のことを伝える。



 「なるほどエビ。ま、でもToxicKICKなら大丈夫かもしれないエビね」


 「……?なんでだ?」


 「?聞いてないエビか?ToxicKICKにはモニカの」


 「だぁっーー!!?ちょ、ちょ、ストップ!止まれやがれです!エビちゃん!何話そうとしてやがるんですか!」


 急に少女が叫ぶ。かなり焦った様子の少女は厨房へと飛び込むと、女を引き摺って奥の方へと行ってしまう。


 「やめてよ!姉貴たちのことはまだ話してないんだから……」


 「話さないエビか?」


 「い、いや、またほら、めんどくさい事になりそうだし……」


 「あの男は話さなくてもめんどくさい事になるエビよ」


 「それは……!そうかもだけど……でも……あぁいや、……もう!!」


 「何モジモジしてるエビ。キモイエビ」


 一人取り残された男は、無言で天井を見上げていた。この店に来ようと思った時から、何かが明確に変わってしまった。そんな気がしてならない。


 少女達が戻ってきたのは、それから5分ほど経った頃だった。


 「……あー、コホン。それで、おっさんのソウルスキルについて、なんですがね」


 「変な口調エビね」


 「エビちゃんちょっと楽しんでやがりますね!」


 「なんのことか分からないエビ」


 「兎に角!今の時点で判明してることをまとめると……」


 少女は語る。ソウルスキル。それはこの世界において最も自由な概念であり、同時に、最もシビアに造られたシステムであると。


 「おっさんの攻撃予知能力と、ダメージを再現するみたいな能力。これは、どっちも、同じ性質のスキルでありやがります」


 「何故だ?防御と攻撃……正反対な気もするが」


 「それは有り得ないエビ。ソウルスキルの絶対の法則性に反しているエビ」


 「法則性?」


 「ソウルスキルは、第一段階の能力から、性質は変わらずに派生していきやがるんです。あーしのP.devilもそう。熱線と視界。エビちゃんのエビのスキルだって、できることは増えても、エビを生み出すという性質は変わりやがらないですし」


 つまり男──カラスマのソウルスキルも同じ。第一段階である黒い軌跡を見る能力と同様の性質が、第二段階のスキル“十三の指”にも引き継がれている。


 「結局、俺のスキルは……」


 「逆におっさんは、なんだと思いやがりますか」


 「……あの時見えたのは、空間に空いた穴、綻びだ。ゴーストと戦った時も、俺の目には、壊れるものが強調されて見えた。だから……終わりに向かっていく過程が見えるスキル……なんじゃないかと」


 「それも有り得ないエビね」


 「えぇ、有り得ないでさぁ」


 「じゃあ、一体……」


 男は思考する。軌跡。綻び。破綻。そのピースは、全て、同じところから来ている。だとすると……


 「ソウルスキルは全部、現実世界でも起こる現象で説明できるように作られてるエビ」


 「魔法やファンタジーの類いじゃねぇんです。あーしらの脳から作られたもの。だったら、あーしらが理解できる概念で作られてねぇとおかしいんでさぁ。ま、物理法則は無視してやがりますけどね」


 現実と同じ。人格を抽出して作られる力。その正体は、


 「あーしの仮説にはなりやすが」


 「エントロピー、その流れを見ること。そして、操作すること」


 「それが、おっさんのソウルスキルの、正体なんじゃねぇですかね」


 その言葉が、男の頭の中で、反響していた。

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