告白は地獄で
第2章「愛と悪意の熱」の冒頭回になります
愛とは、愛の正体とは、一体、誰が定義したのだろうか。
誰かを想うこと、幸せを願うこと。
或いは、
愛する誰かが、愛される世界であって欲しい、という傲慢。
なら
愛ゆえに、世界を壊してしまうことも、
愛の本質なのだろうか?
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漂流者達の、足音が響く。生活の呼吸、リズム。その全てが世界に刻まれていく。なら、その逆は。
旧文明時代に建造されたデータ保管施設。その最深部。
今では企業勢力すら存在を把握していない、忘れ去られた隔離領域。
「本当に、いいのかい?」
天井から伸びる無数のケーブルが、まるで根を張る植物のように空間全体へ広がっている。壁面を埋め尽くすサーバー群は既に機能を停止しているはずだったが、それでもなお、低い駆動音だけが絶えず鳴り続けていた。
「あぁ。二言はねぇ」
青白い光。
無機質な鉄の匂い。
冷却装置から流れ出る白煙が、床を這う霧のように漂っている。
その中央に位置する場所に、真紅の皮を纏ったソファーが置かれている。
「いやぁ、やはり君といると退屈しないなぁ」
「心にもねぇことを、ペラペラと。一体、何枚舌が付いてやがる?」
その対面には漆黒で染められた一人用のチェア。大理石の、磨かれた美しいテーブルを挟んで、二人のプレイヤーが対話していた。
「どうだろう、確かめたいのは山々なんだけど、ほら」
ソファーに身体を預け、組んだ足を机の上に投げ出している人物──その少年は、白色の礼装を纏っている。アンバランスなゴシック調の黒のインナー。そして、目元を隠したヴェール。
少年は自分の口に手を突っ込んだ、ように見えた。だが、物理法則に反して、少年の手は虚空を切る。否、正しくは、顔を貫通していた。
「半年くらい前に、どこかの誰かさんに、頭を潰されて殺されちゃったからね。おかげさまで、この有様。食事も満足に取れないんだ。同情してくれるかい?」
「自業自得だろォが」
その様子を苛ついた様子で見ていた男が口を開く。金髪碧眼。対面の人物と同じく中性的な顔立ちの美少年。黒いコートを羽織り、皮膚の下では、黄色いラインが微かに脈打つように発光している。
「まるで僕がヴィランみたいな言い方。照れちゃうな」
「喧嘩なら買うぜ?終わったあとでなァ」
「冗談だよ。ヴィルくんとは仲良くしたいんだ」
ヴィル、そう呼ばれた男は、不機嫌を隠そうともしない。反対に、少年は穏やかな笑みを浮かべている。
「それに、今回は、喧嘩してる暇なんてないんじゃないかなぁ」
「“A.Order”に“鬼札”、か。まともにやり合うのは久々かもしんねぇな」
暗い地下で、交わされる会話。声量は両者とも控えめなのに対し、纏う圧は、獣のそれ。
「彼らなら、舞台を飾るのに相応しい役者だ。実績も申し分ない」
「どォだか。腑抜けちまった奴も大勢いるだろ」
「君はそっちほうが都合がいいんじゃないかい?」
金髪の男は、ティーカップを手に取る。金縁に白色の伝統的なデザインのそれは、既に冷えきった紅茶をたたえている。
「てめぇがこの話に乗ってきた時点で、ない話なんだろ」
「ふふっ。やはり君は面白いな」
白髪の少年は微笑する。見る人が見れば、まるで彫刻のような顔立ちの彼は、殆どそのアバターを、現実世界の容姿と乖離させてないという。
「そんなに大事かい?君にとって。今回の──“戦争”は」
「当然だ。てめぇも知ってるだろ」
金髪の男は、飲み干したティーカップを乱暴に、床へと叩きつける。割れた白い破片が、黒い床へと散らばった。
「俺がなんで、このゲームをやってるか」
「聞いたことがなかったな。友人として教えて欲しい」
金髪の男は、その友人、という言葉を鼻で笑い飛ばす。それから、コートを羽織り直すと、チェアから立ち上がった。
「妹の為、家族の為だ。それ以外あるか?」
「実に君らしい。僕も全面的に協力しよう」
白髪の少年は笑う。露悪的な笑みを、隠しもせずに。
「せいぜい黒幕気取ってろクソ野郎」
「忠告どうもありがとう。ヴィルくんのそういう所、好、き、だよ?」
「告白は地獄で聞いてやるよ、アリス」
金髪の男はそう吐き捨てると、その場から立ち去る。後に残された、暴力の香り。白髪の少年は満足気に微笑んだ。
「ゲームの中でしか会えない家族、か。僕にはどうも、悲しい結末しか思い浮かばないよ、ヴィルくん」
白髪の少年の呟きは、虚空へと消える。モニターには、代わり映えのしない世界だけが、呪いのように刻まれていた。
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