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《REVELATION ONLINE》 ―人格診断みたいなVRMMOで、最悪の適性が出た―  作者: 如月 爐
綻びの中で

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32/42

アンポンタン共

長くなりましたが、PLEASE ALL編、これにて完結となります。モニカはメインヒロイン……かもしれません。

 男は、足を引き摺りながら、何とか立ち上がる。熱線。赤い地獄。これが、女が、モニカ=モーンが見ている世界。


 「なぜ、赤なんだ」


 男は、なんの気はなしに呟く。次の瞬間、再び膝に熱線が走った。


 「怒り、でさぁ。あーしは、ずっと怒ってるんです。この世界に」


 「世界に、か」


 男はその言葉に妙な違和感を覚える。が、思考をまとめる前に、右肩に強い痛みが走った。


 「結構頑丈でいやがりますね。普通ならもう立てない傷でしょうに」


 女の読みは当たっている。男はもう立つのがやっと。何回目かも分からない警告音が、脳内に響いた。女が敢えて致命傷になる箇所を避けているのは、男のソウルスキルを発動させない為だろう。


 「……俺には、分からない。俺にこのスキルを見せる為だけに、ここに閉じ込めたわけじゃないだろう」


 男は考えていた。女が何を思い、自分に問いかけたのか。何を思い、自分を殺そうとするのか。


 「さぁ、なんでしょうね」


 女は冷たく吐き捨てる。諦め、失望。或いは、虚しさ。そんな声色だった。


 「だが、アンタがそこまで執着する、シャーロックってやつのことは、何となくわかった」


 「……あ?」


 男は震える膝で立ち上がる。右腕で掴んだ机を杖にした、次の瞬間、


 「がっ……!」


 その手の甲を、熱線が正確に撃ち抜いた。手を離す。


 違和感。


 ただの木の机。貫通するくらいの威力を、あの熱線は持っている。なのに、机には、傷一つ付いていない。


 「……ソイツは、根っからの善人だったんだろう」


 「……何を根拠に」


 「アンタは無闇矢鱈に人を殺すようなタチじゃない。戦闘を楽しむタチでもない。ピンチには焦り、感情が揺さぶられたら怒る、普通の人間だ」


 男は考える。女の綻びを。


 「そして、優しい。俺があの時、手渡した拳銃を手に取って、躊躇していた。自分には殆どが非がないのに、その責任の、当事者になろうとしていた。そこに生まれる葛藤」


 「気の所為じゃないですかい」


 「今もそうだ。銃口を向ける手が震える。そして……」


 男は指を指す。それは、先ほど寄りかかっていた机に突きつけられており。

 

 「机を焦がさないように、出力を調整した。アンタの能力は結構繊細だ。戦闘中に気を使えるほど、簡単に扱える代物じゃない。だが、アンタはそうした」


 「それが、シャーロックとなんの関係がある」


 「これは俺の、推測になるが……シャーロックとは、アンタに、世界の見方、を教えてくれた人なんじゃないか?」


 その言葉に、女は息を飲む。その仕草を、男は見逃さない。


 「アンタの能力は、見え方、観測、視点。全て、己の肉眼を通して見る世界と直結してる。そして、それには何かしらの法則がある」


 「…………」


 「熱線を打つ時、タメが必要なのは、相手が本当に撃っていい相手なのかを見定めるため。照準を合わせるのは、再検証、と言った所か。そして、P.devilが破壊された後、空間が侵食される。アンタの視界が赤く染まる。怒りによって。能力の発動条件だからじゃない。共に世界を見る存在を、喪ったことへの……怒り」


 男はどうにも、女がただの衝動で、破壊を撒き散らす怪物には見えなかった。むしろ、その逆。自分を守る為に、力を振るうしか無かった、弱者。


 「アンタのおかげでわかったよ。この世界にも、息づいてるものがある。生活がある。文化がある。人がいる。魂がある。だからこそ、アンタも、シャーロックも、この世界を見るのが楽しかったんじゃないか」


 その問いは次第に、男自身へと向けられる。


 「俺はこの世界が大嫌いだ。この世界にあるもの全てを憎んでいた。……だからこそ、正しく見れてなかったんだ。見なければ、無関心でいられる。心を感じずに、壊せる。そう思っていた。ただのゲーム、ただの娯楽と割り切れば、自分が傷つかないと」


 「だから今、その甘えを、捨てる」


 男は、その瞬間、初めて目を開く。世界を、視認する。薄暗い部屋。カビのついた椅子。そこに浮き彫りになる、磨かれた机。


 扉も、床も、壁も。その細部に至るまで、


 ここは、モニカ=モーンの心の深部。生きている世界なのだと。


 「ちゃんと見るよ。俺も。だから、教えてくれ。アンタが見た、この世界のことを」


 その瞬間、男の視界の端に、見慣れたUIが映る。


 《深度到達を確認》


 《該当ソウルスキル》


 《ERROR》


 《ERROR》


 《重大な欠損を確認》


 《再構成》


 男の黒い軌跡を見る能力。それは、ただの死のビジョンではない。男は理解する。自分の死、他人の死、事物の死。破綻。綻び。


 男の能力は、あらゆる事象の、終わりに向かうその過程。そこで生まれる、綻びを見る力なのだと。


 《ソウルスキル 第一段階》


 《完全解禁》


 《■■■■が進化します》


 《ソウルスキル:“十三の瞳”》


 《使用可能》


 次の瞬間、鮮烈に走るビジョン。男の視界には、この空間そのものの構成が映る。


 「……は、はは、はははっ!!!」


 次の瞬間、爆炎が迫る。


 瞳に、黒い閃光が走った。



 男は間髪入れず、先ほどの作業机の方へと飛ぶ。熱線がおかしな軌道を描いて爆ぜた。


 「なに……」


 再び、熱線の嵐、男はその中で、迷うことなく目を開いた。


 空間を掌握した女の視界。だがそこには、意図的に作られた穴がある。すなわち、綻び。それは、女が、怒りで染められなかった思い出の形。


 壊れかけた安楽椅子。壁に貼られた手書きのメモ。床に描かれたP.devilの絵。天井に空いた穴。丁寧に磨かれ、整頓された作業机。



 そして────


 

 「自分でも、気づいてないみたいだな」



 「何が……!お前は!!なんなんですか!!」


 男はその綻びに、ただ触れているだけでよかった。熱線はそこに届かない。それを繰り返し、距離を縮める。もう一つの、綻びへと。


 

 「アンタだ」


 男は、熱線に焼かれた掌を、女の頭にそっと置いた。


 「っ!!??」


 驚きに満ちた表情で、女は熱線を全放射。縦横無尽に飛び交う死の軌跡。だが、幾度繰り返しても、男には当たる気配がない。


 「アンタの世界の見方は、シャーロックに習ったものなんだろう。だから、アンタの視界はずっと、シャーロックと同じなんだ」


 熱線の勢いが徐々に弱まっていく。この広さの空間を掌握して、なおかつ熱線を操作しているのだ。魂力の消費も大きい。


 だが、それ以前に、女は、頭に置かれた男の手を、振り払えずにいた。


 「優しいアンタは、怒りに満ちていても、大切なものを壊せない」


 男は、まるで、誰かを宥めるように、優しい声で告げる。


 「もうやめよう。ここに、アンタの敵は、いないんだから」


  

 “貴女と見る世界は、美しかった”



 その影が、騒がしい誰かに、重なった気がした。



 モニカは、赤く染った義眼を閉じた。空間に、正常な色が戻る。



  「…うるせぇんだよ、アンポンタン共…………」



 その言葉を最後に、二度と、熱線が放たれることはなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。ここまでのお話を第1章「綻び」として、次話から第2章に入ります。


本当に沢山の方に読んでいただき、また反応を頂き、とても励みになりました。2章も楽しんでいただけると幸いです。更新が気になる方はぜひブックマークをしてお待ちください。

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