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《REVELATION ONLINE》 ―人格診断みたいなVRMMOで、最悪の適性が出た―  作者: 如月 爐
綻びの中で

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喪失/モニカの場合#4

モニカ編ラストです。ここまで書き切りたいのもあり、文字量が多くなってしまいました。次の更新は18時を予定していますが、所用により遅れてしまうかもしれません。

 人生とは、辛く苦しい、喪失の連続である。誰の言葉か忘れてしまったが、嫌に耳に残っている。


 私はどうだろう。学校にも行けず、社会にも馴染めず、ただ死んだように日々を送っていた私は。それを、時間の喪失であると、思っただろうか。


 

 「あれっ……場所ズレてる」


 その日はつい寝過ぎてしまったのもあって、いつもの時間……朝十時のログインに間に合わなかった。私の目の前に広がるのは、イエロファクトリーの狭い路地。いつもなら建物の中にログインするはず。


 私は嫌な予感がして、PIECE ALLに向かった。


 そこは、変わらず、見慣れた店構え。だけど、そこにあるはずのものがない。


 「看板……外れてる」


 見れば、地面に転がっていたそれに、誰かの足跡がついている。一つ、二つ、三つ。


 ここは人通りが少ない。風かなにかで外れたとしても、ましてや、店の前の看板など、普通なら、踏まれることなんてない。


 何が


 私は勢いよく、店の扉を開けた



 「あれ。遅かったですね。お待ちしておりましたよ」 


 

 そこには、異様な光景が広がっていた。



 店の中を埋める、黒と黄色の装甲を纏った集団。彼らは店を物色し、何かの機材を運び込んでいる。


 そしてその中央。いつも、彼が座っていた安楽椅子に腰掛け、本を片手に微笑みを向ける人物。白の礼装に、ゴシックな黒のインナー。目を引く純白の髪。人を惑わす、妖艶な赤色の瞳。


 その少年からは、喉の奥が焼け付くような悪意を感じた。


 「いいお店ですね。使い込まれて、生活の跡が残っている。実にリアルだ」


 「……アンタは」


 「おや?後ろの彼らのことは聞かなくていいんですか?」


 「答えろッ!!」


 その少年は暫し考え込むように宙を向く。私のことなどまるで意に介していないように。


  「僕の名は、アリス。M.O.Cという企業の代表を務めています。初めまして、モニカ=モーンさん」


 「それで、ウチに何の用で……」


 「“ウチ”?」


 少年はわざとらしく、とぼけた口ぶりで聞き返す。その口元に、歪んだ笑みを浮かべたのを、私は見ていた。


 「あぁ、そういう事……だったんだね?ToxicKICKのみんなに頼まれてさ。この家を買い取ることにしたんだ。だから、今日からここのオーナーは僕だよ」


 その慇懃無礼な口ぶりは、いつの間にか、年相応のような、砕けたものに変わり。


 「何を言ってやがります」


 「ふぅん……説明しないと分からないかな。不動産のNPC、いたでしょ。ここの権利をくれって言っても、既に人が住んでるの一点張りでさ。相場の五倍積んでも売らないって言うもんだから、困っちゃったよ」


 「……あ?」


 「あぁ、それで。相場の十倍で手を打つことにしたんだ」


 私は直感する。嘘だ


 「……メアリさんはオーナー権をウチの店主に譲渡した後、グリーンテンペストの病院に入った。工場勤務で肺がやられてたんだ。肉体を義体に換装する手術に、耐えられる年齢じゃなかった……」


 「あぁ、確かそんな名前だったかな?あのNPC。でも、“彼女”は快く売り渡してくれたよ?」


 少年はイベントリから取り出した鍵を見せる。この店のそれと全く同じ形、同じ模様のそれ。錆び感も見覚えがあるもので。


 それを見た瞬間、私の身体に、これまで生きてきて感じたことの無いほどの怒りが湧き上がった。



 「……ウチの店主は心配性なんだ。元の鍵をダミーにして、内側から新しく電子ロックをつけてた。……そして、メアリさんは女性じゃねぇ。五十二歳の男性だ」


 「……へぇ?」


 少年の口角が吊り上がる。おぞましい、底なしの悪意。これほど露悪的な人間を、私は見たことがなかった。


 「じゃあ君にお金を払えばいいのかな?」


 「……どうした」


 「ん?なにが?」


 「その鍵はどうしたって聞いてんだよ!!!」


 売買の交渉をしたというのは嘘。鍵を貰ったというのも嘘。だが、その鍵の形状や材質、情報は、プライバシーと防犯の観点から、ウチと、不動産であるメアリさんしか持っていない。


 私は背後の扉に目をやる。綺麗に再現しているが、明らかに、ずっと住んできた家の扉ではないものだ。扉ごと外して侵入したのか。或いは、何かで破壊したか。


 「…………じゃあ、一つしか、方法はないんじゃない?」


 「なに……が……」



 少年は明け透けに言い放つ。こいつ、全部わかって……


 「まさか……お前……っ!!!」


 「……PIECE ALL。だったかな。シャーロックさんは実にいい取り引き相手だった。けど……彼は道を違えたんだ。僕らに嘘の情報を渡した。自分の攻略Wikiから意図的に、僕らの知りえない情報を削除した。……悲しいなぁ。商売は誠実なのが一番なのに」


 「……アイツが?」


 「僕はね、考えたんだ。裏切りには、報いが必要だろう?だから、彼の一番嫌がることを考えた。もう二度と、そんな気を起こさないように。苦渋の決断だったよ、僕だって本当はこんなこと──」


 「ペラペラと、嘘ばっかり……」


 私は拳をきつく握る。最悪のシナリオが、私の脳内で反響する。


 「……それで。彼が懇意にしているNPC。彼は色んな場所で、色んなNPCと関わっていたらしい。好感度、っていうのかな?そのマスクデータは、彼が最もよく知っていただろう」



 それは────



 「────最期まで、彼らは、僕の味方にならなかったよ」


 

 「お前ぇぇぇぇっ!!!!!!」



 気がついたら、身体が動いていた。インベントリから取り出した拳銃を少年に向ける。続けざまに発砲。だがその弾丸は少年に当たることはなく、庇うように現れたToxicKICKのプレイヤーによって防がれる。


 「くそっ……!!くそっくそっくそっ!!」


 私は空中にP.devilを一斉展開。照準を合わせる。



 が、



 「勿論、君のことも調べてあるよ」



 その刹那、複数の発砲音が雷鳴のように響き、弾丸の雨が降り注ぐ。私は机を盾にしてそれを何とか防ぐが、展開したP.devilは、全て撃墜されてしまった。


 「強力なソウルスキルだ。羨ましい。僕も君と同じ力があったら、こんなに頭を使わなくても良かった」


 「だが、強力なスキルというのは往々にしてデメリットもわかりやすい。君の場合、実に顕著に現れる。それを媒介にしなければ、君は熱線を放てない。加えて、短くない時間のタメがいる」


 攻撃手段を失った私は、襲い来る弾丸の嵐から、ただ身を隠すしかなかった。惨めに、生き延びるしか無かった。


 壊れていく。穢されていく。白色の悪意が、私たちの居場所を侵していく。


 「君とはもっと、建設的な話ができると思っていた。残念だよ、モニカ=モーン。君の姉達は、もっと聡明だったのに」


 「お前っ!姉貴たちに何をした!!」


 「いや?彼女らには何もしていない。君のことを話したら、簡単に従ってくれた」


 ToxicKICK……そういう事か。私の姉2人は、ToxicKICKの傭兵として雇われた。だがそれは、合法的に私に構えるからというなんの整合性もない理由。それを利用された。


 「シャーロックという男に騙され、犯罪の片棒を担がされた憐れな少女。心まで犯されていたとは。可哀想に。あんな男と、ただのゲームデータの為に、その美しい時間を奪われた」



 「あ……?」



 その瞬間、全ての世界の音が、止まった気がした



 「同情するよ。きっと辛く苦しい日々だったのだろう?」




 「ぁ゛ぁぁ゛あ゛あ゛ぁ゛ーーっ!!!!!」



 私の声帯から出たとは思えない声。それを最後に、視界が、赤く、赤く染まった。



 その先の記憶は、思い出したくない。私はその場にいたプレイヤーを、残らず殺した。私の身体には、無数の弾痕が残った。



 「……驚いた……よ……隠していた、な……」


 「違ぇよ。今、できるようになったんだ」


 「ははっ……!なんて……不平等……!!!」


 グシャリ


 なにかの頭を踏み潰す音。私たちの居場所は、赤く彩られた。



 その日の夜。再びこの場所に、ログインした私は、昨日まではなかったそれに気づく。シャーロック、彼の机に置かれていた、見覚えのあるそれ。


 


 彼が使っていた右眼の義眼と、ハンチング帽。相変わらず下手くそな字で書かれた書き置き。

 


 『ミスモニカへ。こんな形での別れになってしまって、本当にすまないと思っている。


私は耐えられなくなってしまった。この世界を愛しすぎたんだ。


 企業勢、彼らはNPCを労働力として拉致し、武力によって従わせていた。そのやり方、NPC達の居場所やデータは、私が提供したものだった。


 プレイスタイルの違いと、割り切ることが、私にはどうしてもできなかった。彼らに間違った情報を流し、wikiからデータを意図的に削除した。


 ミスモニカ。いや、モニカ=モーン。君がこの世界に残るのであれば、これを役立てて欲しい。


 感情が分かりづらいと、よく言われると言っていた君は、誰よりも優しく、聡明であることを私は知っている。そして、誰よりも、人の心を知る者だと。


 断言する。君は、この世界で最も優れた探偵だ。世界探偵の私が言うのだから、間違いないだろう?



 そんな君と見る世界は、実に美しく、楽しいものだった。ありがとう。


 シャーロック』



 「……私が、じゃ、ねぇです……」



 「私たちが……あーし達が!!!作ったものなんじゃねぇのかよっ!!!!!」

 

 絶叫。堰を切ったように、想いが溢れて止まらなかった。私は、心を許した人間に裏切られた。いや、違う。先に裏切られたのは、彼の方なのだ。


 世界の為に、良かれと思ったそれは、世界を傷つける毒になった。


 そして何より、その記録は、積み重ねた思いは、私の中で、光り輝く宝物だったのに。


 彼は消してしまった。それを、まるで誤字を修正するみたいに。ワンボタンで。消した。



 「あ、ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!!」



 《警告》


 《プレイヤーの過度なストレス上昇を確認》


 《脳への影響:極大》


 《痛覚の許容範囲を超えています》


 《メンタルアウト確認》

 

 《強制ログアウトを開始します……10、9、》

  

 脳内にUIが響く。もう、どうでもよかった。私は、自分で抉り出した眼球を踏み潰す。


 

 《8、7、6》


 それから、彼の遺した右眼を手に取る。ぐちゅ、嫌な音が頭骨の中で反響する。


 《5、4、3、》


 私は力の限り、それを自分の空いた眼孔へと叩き込んだ。溢れる赤黒いエフェクト。痛覚のある世界とは、こうも不便なのか。



 《2、1》



 そして視界は暗転する



 《0。強制ログアウト》

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