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《REVELATION ONLINE》 ―人格診断みたいなVRMMOで、最悪の適性が出た―  作者: 如月 爐
綻びの中で

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27/42

喪失/モニカの場合#1

少しテイストを変えて、モニカの視点でのお話になります

────喪失


 それは、誰にでも起こりうる、身近な悲劇。


 例えば、愛する家族の死。


 例えば、友人との別れ。


 例えば、夢が潰える日。



 人生とは、辛く、苦しい、喪失の連続である。そのようにして象られている。



 抗いようのない、運命に。人は、嘆き、哀しみ、或いは、憤り、諦念する。


 喪失とは、人の魂が、初めて覚える刺激なのだ。



────────


 私がこのゲームを始めたきっかけは、なんて事ない。SNSの広告文。


 『“貴方の魂は、どんな力になる?”』

 

 今思えば不思議だった。何故あんな言葉に惹かれたのか。だって、有り得ない。魂、なんて。そんなもの、誰も定義できないのに。


 

 初めてこの世界にログインした時のことを、今でも覚えている。哲学みたいな質問をぶつけられて、正直、辟易とした。


 

 《質問:7 貴方は人間の本質について、それを規定するものを何と考えますか?》



 「本質を、規定?」


 馬鹿馬鹿しい。ただのゲームに、なんでこんなことを聞かれなければならないのか。


 「……わかんないわ。愛とかじゃない?そういうの、よく聞くけど」


 

 咄嗟に出た言葉は、いつも、あの忌々しい長女が語っていたもの。


 愛。姉妹愛、家族愛。それこそが世界に光をもたらす。姉はそう信じてやまなかった。


 その時は、分からなかった。


 「んっんー?なんだい君は、そんなとこで、草臥れた顔をして」


 「……は?誰、おっさん」


 「おっさん!??おっさんだと!?私はまだお兄さ──」


 「はいはい。ナンパならお断りでーす」


 「まてまてまて!違う!断じてナンパではない!」


 グリーンテンペストの中央広場。やることも無く、ただ座って噴水を眺めていた時、ソイツは、随分とお気楽な顔をして話しかけてきた。


 「コホン。いや実は、わたくしこういうものでして……」


 「……世界、探偵?」


 手渡された名刺は、金の刺繍に縁取られ、真ん中にでかでかと、馬鹿みたいな文字が書いてある。恥ずかしげもなく。


 「そう!その通り!まさにその通り!わたくしはこの世界の探偵!すなわち!世界探偵!」


 「あー……ナンパって今こんな感じなんだ」


 「まぁまぁ、最後まで話を聞いてくださいよぉ、お嬢さん。あーし……こほん、わたくし、しがない探偵でござい。……である。この世界は謎に包まれている。ソウルスキル、魂力、そして、この世界を彩るありとあらゆるシステム!!その全てが、未だ謎のまま。ブラックボックスの片隅で、安らかに眠っているのです」


 「ナンパじゃなくて宗教勧誘だったか」


 「だから!人の話は最後まで聞きやがれってんだ!」


 急に大声を上げたソイツに、周りのプレイヤー達の視線が集まる。よく見ると、ソイツはおかしな格好をしていた。クラシックなロングコート。インナーは……何とかチェック?多分英国風のそれ。加えて、


 「だっさい帽子……」


 「な!?今あーしのハンチングをダサいと言いやがったか!?」


 変な形の帽子。ハンチング帽だと何度も訂正されたが、聞き流した。


 「で、私に何の用ですか」


 「いやいや!別に用と言うほどのことは」


 「じゃ、私ログアウトするんで」


 「あぁちょっとまっ────」


  プツン


 現実世界に戻ってきた私は、嫌に広いベッドの上で、時間を確認する。時計は遅々として進まない。暇潰しのためだったのに、変なのに邪魔された。なんだか、怒りがふつふつと湧いてくる。


  「……流石にもう行ったか」


 先程の自称探偵。あんな切られ方をしたら、普通の人間は怒って何処かに行く。


 そう思っていた自分が馬鹿だった


 「おお!!戻られましたか」


 「げ」


 ソイツは、いた。同じ場所に。同じ姿勢で。


 「……出待ちしてたんですか?」


 「……?ヒューヒュ〜」


 図星だったようだ。ソイツは下手な口笛を吹いて誤魔化した。ソイツは、その後もしきりに私に話しかけてきた。


 「あの」


 「はいはい!なんでごぜぇやしょうか、お嬢さん」


 「……なんで、私なんですか?」


 「ふむ?」


 「他にも、暇そうな人、いっぱいいるじゃないですか」


 私は周りを見渡して言った。確かに、フレンドと遊んでいるような人も見えるけど、大半はソロプレイヤー。かなり怪しい匂いのするこのゲームを、初日からやってる人間なんて、どれも似たようなものだ。


 「うーーん、強いて言うなら、探偵の、勘、ですかね」



 「勘?」



 「魂、とでも言うべきでしょうか。ともかく、あーしの魂が、貴女を助手にすべきだと!訴えているのです!!あぁ!取り出して見せてあげたい!私のこの脈動する魂!!」


 「……ふっ。なにそれ」


 「あ!今笑いましたね!いいですよ!こっちも出すもん出して──」


 「あ、それは普通に通報する」


 私は結局、この男の熱量に根負けして、ゲーム内の連絡先を交換した。


 男は、検証勢、と呼ばれているらしい。この世界の様々なものを、自らの目で見て、触って、確かめる。それをデータとして、多くのプレイヤーに公開する。それが男の生き甲斐らしい。


 「なんでそんなことするのさ」


 「なんでとは?ミスモニカ。貴女は時折言葉足らずですよ」


 「うるさいな……なんでって言うのは、わざわざ自分で見つけた情報なのに、他のプレイヤーにタダであげちゃうの、勿体なくない?いつも金がないって騒いでるのにさ」


 「あぁ、それはですねぇ……」


 男の顔を見た。右眼が小型のモニターになっていた男は、そこに、「想」という文字を浮かべていた。


 「恩返し、ですよ」


 「恩返し?」


 「とは言っても、このゲームではありませんがねぇ……昔、プレイしていたMMO。右も左も分からないあーしを、助けてくれたのは、他でもない攻略Wiki……そして、それを作り上げてくれた先達たちです」


「はぁ」


 「いいですか?情報とは、誰かに渡って、初めて情報たり得るのですよ」


 「よく、わかんない」


 「ふむ。少し、長い話になります……アレは、あーしが赤ん坊だった頃まで遡り……」


「いや、大事なとこまでカットしてよ」


 男は、こんな話をしていた。古い時代。まだ、ネットが普及しだした頃……今でこそ考えられないが、当時、ネットで得られる情報というのは、なんの信憑性も無いものだった、と言う。


 デマや憶測が飛び交い、あることないことが囁かれる。それは、何も事物に限った話ではない。印象や噂だけで、他人を攻撃する。貶める。挙句、命を奪う。


 男はその様を見ていた。何かをするわけでもなく、ただ黙って。その時、男の胸に芽生えた感情は、


 無力感


 「あーしは思ったんです。必要な情報が届かないだけで、人はこうもおかしくなる。不幸になる。ただ、誰かが、キーボードを打つことを億劫がらなければ、防げた悲劇があるのです」


 綺麗事だった。結果論に過ぎないそれは、純粋な善意ではなく、自分がそれをしたら、きっと、同じことをしてくれる人が現れるに違いないという、切望に似た祈り。悪く言えば、他力本願。甘え。


 「それが、このゲームで検証勢をやる理由とどう繋がるの」


 「……それはね、このゲームが余りにも、現実と同じような質感……本物の質感を、纏っているからだよ」


 「本物の、質感?」


 「例え本人にその気がなくても、人格を暴かれる、それが細分化されて、ラベリングされる。人の魂に、誰かが勝手に色を塗ることができる。……そんな世界で、もし、誰しもが好き勝手に、自分の都合のいいことだけを話したら、どうなると思う?」


 男の声は、いつになく優しかった。優しくて、哀しい声。


 「……人格否定?誹謗中傷……多分、嫌いな奴を叩く材料になる」


 「もっといえば、争いの火種になる。それは……実に悲しい。世界を面白くするための技術が、人のうちにある凶暴性を剥き出しにする……そんな悲劇が、いくらでも起きてしまうんだ」


 「…………たしかに」


 「……んっんー!!とにかくですよ!わたくし!考えました!自分が体を張って検証する!それをデータにとる!そうやってこの世界を暴いていけば、いずれ、とんでもないものに出会えるのではないかと!!」


 「そんな無理に声張らなくても」


 「ええい!人がいい話をしている時に!」


 気がつけば、私は笑っていた。いつぶりだろう。人と話して、笑みがこぼれるなんて。


「というわけで、ですね。ミスモニカ。貴女にはそのお手伝いをして欲しいんです」


 「……できるかなぁ」


 「いや!むしろ!貴女しかできない!貴女のその、……えーと、なんでしたっけ?」


 「P.devil」


「それそれ!“侵食型”にしては珍しい、いや実に珍しい機能のついたそれ!それを活かさない手はない!!」


「はぁ……」


 正直気は乗らなかった。でも、この男が“できる”と言うと、それが嘘に聞こえなかったのは事実だ。


 「大丈夫ですよ。貴女は横で見ててくれればいい」


 「見てるだけ?」


 「情報の信頼性とは、実証者と、観察者が、相互に観測することで成り立ちます。つまり、見ているだけ、ではありません。見ることで、情報に価値を付加するのです」


 「大袈裟だなぁ……たかがゲームのデータ一つ……」


 私がそう口走った時、男は、目を細めて笑った。


 「たかがゲームのデータ一つ。ですが、それはきっと、何万人もの人の助けになります。そう思うと、こう、すごくコスパがよく感じませんか?」


 「台無しだよ……もう」


 その時からだった。私の、このゲームに対する見方が変わったのは。或いは、変えられてしまった。他でもない、この男に。


 「おじさんのことはなんて呼べばいい?」


 「だからおじさんではなく──」


 「もういいってばそれ」


 「ふぬぬ……」


 悔しさなのか怒りなのか、分からない表情を浮かべる男。右眼のマークにはクエスチョンマーク。なんだか、どうでも良くなってしまった。


 「こほん、そうですね……通り名、の方がよろしいですかね」


 「なんでもいいよ」


 「名前というのは情報の塊であって……まぁいいでしょう。これからじっくり教えて差し上げますからねぇ!」

 

 男は、一息つくと、胸を張って、声を上げた

 


「────私の名はシャーロック!世界探偵!シャーロック!」



 「そのまんま」



 「なにおう!判別しやすくていいでしょうが!」



 私はまた笑った。ソイツは……シャーロックは、私にとって、ただの記号では、無くなってしまった日。


 ずっと昔みたいな、遠い記憶

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