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《REVELATION ONLINE》 ―人格診断みたいなVRMMOで、最悪の適性が出た―  作者: 如月 爐
綻びの中で

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アリス

思ったより長くなってしまったので、18時は1本だけの更新となります。申し訳ありません

 暗転。


 直後、視界の奥で、淡い緑色の光が明滅する。


 《REVELATION ONLINE》


 《ログインを確認しました》


 《ユーザー認証 カラスマ様》


 《ようこそ、REVELATION ONLINEへ》


 浮遊感。


 足裏へ伝わる石畳の感触。


 男が目を開くと、そこはグリーンテンペストの中央広場であった。ここに来るのは初めてこのゲームにログインした時以来。まだそれほど時間は経っていないが、なんだか懐かしいような、奇妙な感覚に襲われた。


 巨大な時計塔は緩やかに時を刻み、水を吐き出す噴水の前で談笑する人々。風に揺れる街路樹。


 イエローファクトリーまた違う顔をした街。排煙も、赤色灯も、怒号もない。


 代わりにあるのは、穏やかな喧騒だった。



 「……戻った、のか」


 カラスマは、自分の左腕を見る。


 そこには、何もなかった。



 死んでも、欠損は戻らない。それがこの世界のルールだということを、改めて理解する。


 周囲のプレイヤー達が、ちらりとこちらを見た。片腕を失った男は少しばかり目立つらしい。ここにいるのはその殆どが五体満足な初心者のプレイヤー、或いは、義肢をつけた者たち。それを放置しているように見える男は、この街では異物に見られている。


 「へぇ〜〜〜」


 不意に。


 真横から、嫌に低い声が飛んできた。


 「随分とまぁ、のこのこ帰って来やがりましたねぇ、おっさん」


 英国風のグレンチェック柄のケープ付きコート。ハンチング帽。蛍光グリーンのショートパンツ。右眼のモニターには、《怒》の文字。


 モニカ=モーン。


 女は腕を組みながら、じっとこちらを睨みつけていた。その様子を見て男は驚いた顔を見せる。


 「どうしてここに……?」


 「どうしてここに……?じゃねぇです。こーんな美少女を待たせておいて、なーにクールに返してんですかい」


 「待たせた覚えは無いんだが……」


 「ん?」


 「え?」


 モニカの眉がぴくりと動く。


 その瞬間、右眼のモニターの表示が「焦」に変わる。


 「あ、い、いやいやいや!今のナシ!ナシです!いや!そう!たまたま、ここに用があって来ただけで……」


 あまりの焦りよう。焦りすぎて口調が恐らく素に戻っている。


 男は冷静に思考する。ゲーム外では男はモニカと連絡を取ることはできなかった。考えられるのは、モニカが男のデスペナルティが空ける時間に合わせてここに来たという────


 「わぁー!?なんかよからぬ事を考えてやがりますね!まじで!絶対!偶然でさぁ!下衆の勘繰りはやめてくだせぇ!」


 「俺を待ってたわけではないのか」


 「待つかぁ!!!」


 次の瞬間。


 モニカの拳が、カラスマの顔面へめり込んだ。


 「ぐっ……!?」


 勢いよく仰け反るカラスマ。そのまま地面を数度バウンドして、噴水に勢いよく突っ込んだ。痺れるような痛みが広がる。


 周囲の初心者プレイヤー達が、ぎょっとして距離を取っていく。というよりは、痴話喧嘩でも見ているような雰囲気ではあったが。


 「なんなんですかアンタは!!」


 モニカは怒鳴った。


 「人に後始末全部ぶん投げやがって!その上、カスのごった煮みたいな茶会に連行される羽目になったんですよこちとら!!」


 「茶会?」


 「忘れやがれです!!」


 モニカは頭を抱えた。右眼には《苛》の文字が浮かぶ。


 男は頬を押さえながら、小さく息を吐いた。どうやら、終始無事に済んだわけではないらしい。しかし、これほどまでに憤るとは、きっと、きつい尋問でも受けたに違いない。



 「……すまない」



 男はずぶ濡れのまま噴水から起き上がると、女にそう頭を下げた。


 「すまないで済んだら企業も警察もいらねぇんですよ」


 「……で?」


 モニカは濡れ鼠になったカラスマを見下ろしながら、露骨に不機嫌そうな顔をした。


 「そのまま突っ立ってるつもりですかい。風邪ひきやすぜ」


 「風邪も再現されるのか、このゲーム」


 「知らねぇですが、少なくとも見てるこっちの気分は悪いです」


 「そうか」


 男は短く返すと、噴水の縁へ腰掛けた。服から滴る水が石畳へ落ちていく。


 グリーンテンペスト。


 穏やかな街だ。


 工場街のような死の臭いは薄く、人々は笑い、談笑し、武器よりも買い物袋を持って歩いている。


 まるで、本当に“生活”が存在しているようだった。


 「……少し、見て回りたい」


 不意に、男が呟く。


 「は?」


 モニカが怪訝そうに眉をひそめた。


 「折角戻ってきたんだ。この街を、ちゃんと見たことがなかった」


 「観光気分ですかい?」


 「そんなつもりはない。ただ……」


 男は周囲を見渡す。


 噴水前で笑う初心者達。露店で武器を眺めるプレイヤー。街路樹の下で寝転ぶ者。


 「ずっと出ずっぱりだったからな。ここに何があるのかを知っておきたい」


 モニカは暫し黙り込んだ。


 正直、あまり街をふらつきたくはない。今の自分は企業側から半ばマーク状態。加えてヴィルニア達の件もある。


 何より、


 「……あーしはアンタみたいな不審者のお散歩係じゃねぇんですがね」


 「そうか。なら一人で──」


 「はぁ〜〜〜〜……」


 モニカは盛大にため息をついた。


 「借りがあるのも事実でさぁ。今回だけですぜ」


 「なにか貸してたか」


 「もう黙っといてもらえますかい」


 女は乱暴に言い捨てると、そのまま歩き始めた。


 男も後を追う。


 グリーンテンペスト中央区画。


 露店通りには、初心者向けの武器や義肢、衣装類が雑多に並んでいる。ゲーム内でありながら、店員達は妙に生活感のある声で客引きをしていた。


 「へぇ。片腕仕様の義肢なんてのもあるんだな」


 「初心者街だからでさぁ。欠損プレイヤー向けの最低限モデル。安物ですがね」


 「……安物?」


 「安物でさぁ」


 モニカは即答した。


 この世界の単価は、SC(ソウルコイン)。と呼ばれている。稼ぎ口は、ゴーストを倒すか、殺したプレイヤーから奪うか。二つに一つ。


 男の視線の先にある義肢は、安物、というにはあまりにもゼロの数が多いように見えた。


 「……そうか、大変だな」


 「何がです?」


 「生きるというのは」


 男の言葉に、女は怪訝な顔を見せる。たかがゲームでしょうに、という言葉を飲み込んで、黙って先を歩いた。



 通りを抜ける。


 巨大な教会建築が、街の中央奥に姿を見せ始めた。


 汚れ一つない、白亜の外壁。周囲には霧のような粒子が淡く漂っている。


 そして、特徴的な塔の上部には、巨大な光輪めいたオブジェクト。


 「……宗教施設か?」


 「企業本部です」


 モニカは露骨に嫌そうな顔をした。


 「グリーンテンペスト最大手。“M.O.C”」


 「M.O.C?」


 「Mist Of Church。まぁ、簡単に言やぁ……イカれた信者共の巣窟でさぁ」


 その瞬間。


 ふわり、と。


 周囲の空気が変わった。


 霧。


 薄白い靄が、石畳の上を滑るように広がっていく。周囲のプレイヤー達がざわつき出した。


 「あっ……」


 「M.O.Cの……」


 「やべ、本物だ」



 人の流れが割れる。


 その中央。


 一人の少年が、静かにこちらへ歩いて来ていた。


 銀にも見える純白の髪。


 同じく、白を基調とした礼装。しかし、その下には黒色のゴシックなインナーを着ている。寧ろ、逆、白を着せられているように見えた。


 その背後には、霧の粒子が羽衣のように揺らめいている。


 柔和な笑み。


 だがその瞳だけが、どこまでも冷たい。


 「おや」


 少年は穏やかに笑った。


 「これはこれは。騒がしいと思ったら……戻ってたんだね?モニカ」


 女の顔から、表情が消える。右眼のモニターには、《嫌》の文字。


 「……教祖様がなんの用ですかい」


 「嫌だな、ここは僕の庭だよ。歩いていたら、君を見つけたんだ」


 少年は、小さく肩をすくめた。だがその雰囲気は、容姿とは似ても似つかない、否、真逆の──


《PLAYER RANKING:7位》


 「──アリス。」


 「ふふ、怖い顔。今日はそこの彼に挨拶を、と思ってね。だから、君は黙っててくれると嬉しいな」


 「っ……」


 あれほど警戒心を剥き出しにしていた女が、その柔和な笑みを向けられただけで、まるで蛇に睨まれた蛙のように固まってしまった。


 そして、その視線は、ゆっくりと、男──カラスマにも向けられる。


 値踏みするように。


 覗き込むように。


 「なるほど。君が次のシャーロック、というわけだね。“カラスマ”くん?」


 その瞳の奥には、底知れぬ空虚が広がっていた。

読んでいただきありがとうございます。良ければブックマークをしていただき、続きをお待ちいただけると嬉しいです

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