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《REVELATION ONLINE》 ―人格診断みたいなVRMMOで、最悪の適性が出た―  作者: 如月 爐
綻びの中で

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19/42

ログアウト

 イエローファクトリー中央区画。


 “Toxic KICK”本社ビル最上階。


 ガラス張りの巨大な執務室からは、夜の工場街が一望できた。煙突から吹き上がる蒸気。稼働を続ける搬送ライン。無数の赤色灯が、都市の血流のように脈動している。


 その空間の中央で、一人の男がソファに腰掛けていた。


 年齢は二十代後半程。


 黒いコートの内側から覗くのは、金属製の脊椎義肢。皮膚の下で、黄色いラインが微かに明滅している。


 机の上には、分解された大型拳銃。


 男はそれを退屈そうに弄びながら、目の前のモニターへ視線を向けた。


 『──以上が現在の被害報告になります』


 『工場設備損傷率、約77%。義肢搬送ライン停止。加えて、追跡班の一部と連絡が──』


 「うるせぇな」


 男は淡々と呟く。


 その一言だけで、通信先の社員が黙り込んだ。


 モニターに表示されているのは、装甲車内部に設置されたドライブレコーダーの映像。


 片腕を失った灰髪の男。


 そして、その隣で喚き散らしているモニカ。


 「……モニカはまぁいい」


 男は椅子へ深く腰掛け直す。


 「問題はそっちだ」


 画面の中のカラスマへ視線を向けた。


 「見た目通りの初心者。プレイヤーランキングも未登録の上、企業にも所属していない。……にも関わらず、こうも生き延びている」


 机へ指を叩く。


 コン、コン、と。


 規則的な音。


 「加えて、コイツが監視カメラに写りこんだ時間と、同時刻に発生した街ゴーストの反応が、観測から暫く経って消失……」


 男はそこで僅かに目を細めた。


 『……プレイヤー情報の解析を急ぎます』


 「必要ねぇよ」


 男は鼻で笑う。


 「ただのラッキーじゃねぇことくらいは見りゃわかる」


 画面へ映るカラスマの瞳は、生気の薄い、死人のような色をしていた。


 だがその奥には、奇妙な熱が宿っている。


 男はソファから立ち上がる。


 そして壁際へ立て掛けられていた、大型ライフルを片手で持ち上げた。視界の端に映るUI。



 《PLAYER RANKING:15位》



 「車、回せ」


 男は笑う。


 獲物を見つけた肉食獣のように。



 「愉しくなってきたじゃねぇの」


 ──────


 爆音。


 浮力を失った軍用ヘリは、ただの鉄の塊に過ぎない。簡単にバランスを失ったそれは、男達が乗る車の斜め前を横切り、墜落した。



 イエローファクトリー外周道路を、装甲車が凄まじい速度で駆け抜ける。



 タイヤが火花を散らし、金属質な道路を無理矢理曲がっていく。


 助手席では、女がシートへぐったりと沈み込んでいた。


 「はぁ……っ、はぁ……っ……」


 右眼のモニターは暗転している。


 先ほど使ったP.Devilの熱線砲撃。あれの影響だろうか、荒い呼吸を繰り返す女は、余裕がないように見えた。


 「……動けるか?」


 「無理でごぜぇます……今のあーし、マジでただの一般美少女なので……」


 「そうか」


 「クールに返しやがりますね……」


 男は短く返し、前方を見る。


 黒い軌跡。死へ繋がる線が、断続的に視界を横切っていた。


 背後からの銃声。同時に、バックミラー越しに軌跡が走り、装甲車の側面を掠めていく。


 「っ!」


 男は咄嗟にハンドルを切った。


 直後。


 先程まで車体があった位置を、ソニックブームを起こしながら弾丸が通過して行った。それは前方の建物に激突すると、空間を削り取るように、爆散する。普通のライフル弾ではない。恐らくソウルスキルにより強化されている。


 「まだ追ってきやがります!?」


 サイドミラーの向こうに、複数の企業車両が見える。加えて、上空には別のライト。


 「しつこいな」


 男は舌打ちをかましながら呟いた。それは、先ほど撃墜したものと、同じ形をした軍用ヘリから発せられたもの。ただのちんけな不法侵入者への追っ手にしては、随分と熱烈だ。



 「企業勢は執念深いって言ったでしょうが……っ」



 モニカが頭を抱える。



 男は黙ったままアクセルを踏み込む。


 だが、追っ手との距離は一向に離れない。


 こちらは奪っただけの装甲車。加えて、慣れない土地での運転。しかも片腕がないときた。


 対して向こうは、地形も車両性能も把握した上で、武力でも圧倒的に勝っている。


 しかも、


 「おっさん」


 モニカが低い声で呟く。


 「このままだと、そのうち囲まれますよ」


 「……あぁ」

 

 視界の先。赤色灯の数が徐々に、徐々に増え始めていた。次第に大きくなるサイレン。包囲されるのも時間の問題であろう。


 死へ至る線が見える。逃げ場を失った未来と、無数の選択。


 男は静かに息を吐く。


 そして、


 ダッシュボードに置いた、“潮騒”へ視線を向けた。


 「…………このゲームで死ぬとどうなる」


 「は?一体何言ってやが……っ!?」


 男は、暫しの沈黙の後尋ねた。揺らぐ視界。再び、先ほどの強化弾が飛来する。今度は、二発。一発はかろうじて、ハンドルを捻って躱す。が、慣性によって膨らんだ車体を、


 死の弾丸が貫通した。


 バキンッ!!


 鈍い音と共に、装甲が剥がれる音がする。車体が急激に跳ね、制御が効かない。


 「ッ……!答えろ!」


 「あ、え、えっと、デスペナを受けるのと、後、ログアウト時にいた場所にリスポーン……する……」


 「一度もログアウトしてない場合は?」


 「グリーンテンペストの中央広場……そこにリスポーンしやす」


 「……そうか」


 男はそう言うとハンドルから手を離す。それから潮騒に手をかけると、それを、女の膝の上に置いた。


 「は?な、なんでやがりますの、これ」


 「俺はいい。ただの初心者だ。失うものも少ない。アンタは違う、この世界に住んでいた記録がある」


 「そりゃ、そうでしょうが……」


 「だから、アンタが俺を撃ち殺して、向こうに投降すれば、この場は、見逃されるんじゃないか?」


 男の提案はこうだった。味方のフリをして男に協力していたが、元々ToxicKICK側につく予定だったと供述、証拠として男を撃ち殺し、全ての責任を男に擦り付けること。


 「そ、そんなに上手くいきやすかね……?」


 「分からない。ただ向こうもこれ以上の損失は避けたいはず。仮にも軍用ヘリと工場を破壊されてるんだ。……ま、法外な請求をされるかもしれないが、それは俺に押し付けてくれていい。その場しのぎは得意なんだ」


 「……元はと言えば、あーしも、アイツらにちょっかいかけてたのもありやすし……」


  「だがあの時、すぐに撃ち殺されなかった。完全に敵対するよりは手元において飼い慣らしたい……そんな雰囲気だった」


 「よぉく見てやがりますね……確かにアイツらにも情報を流したことはそれなりに……」


 会話を続ける間にも、追っ手はその数を増やしていく。数十台、道の先を埋める、黄色の装甲車。


 「なら、交渉はできるな。それでいい」

 

 「……マジでやりやがるんですか」


 「やってくれ。頼む」


 時間はなかった。選択をしなければならなかった。


 「痛覚のフィードバックは?」


 「……仮に死亡時のログも漁れるとしたら、痛みを感じた記録がないと不自然だ。俺はログインしてから一度もフィードバックを切っていない」


 「はぁ……アホボケスカポンタン……」


 男のあっけらかんとした物言いに、女はため息をつくしかなかった。女は手渡された潮騒の銃口を上げると、ゆっくり、男のこめかみにあてがう。


 同時に男はブレーキを強く踏んだ。タイヤと地面の摩擦で、目の前に火花が散る。

 

 「後は任せる」


 「まーじで、後味悪いですよこちとら。……ちゃんと責任取ってくだせぇ」



 「すまない、俺は妻帯者だ 」



 次の瞬間、男の視界の全てを埋めるように、軌跡が走った────



 「そんなことは聞いてねぇです!!」


 

  パンッ



 乾いた発砲音が車内に響く。男の視界は、完全に、黒一色に包まれた。

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