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《REVELATION ONLINE》 ―人格診断みたいなVRMMOで、最悪の適性が出た―  作者: 如月 爐
綻びの中で

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十三の指

 落下した金属製アームが、工場全体を揺らした。


 爆音と火花。吹き荒れる熱風。砕けた床材と義肢の残骸が、雨みたいに降り注ぐ。


 男は床へ叩きつけられ、そのまま数メートル転がった。


 「っ……が……!!」


 肺から空気が漏れる。視界が揺れる。耳鳴り。それでも男は、無理矢理顔を上げた。


 白煙の向こう。崩れたアームの下敷きになった、“黒い塊”が見える。


 ……やったのか?


 その瞬間、視界端のUIが激しく赤く点滅した。


《WARNING》


《WARNING》


《深刻なダメージを確認》


《アバター損壊率:31%》


《緊急処置を推奨》


 「……は?」


 そこでようやく、違和感に気づく。



 ──左肩が、妙に、軽い。



 男は恐る恐る、自分の身体へ視線を落とした。



 そこにあるはずの、左腕が、なかった。



 肩口から先が、綺麗に消えている。切断面から、赤黒いエフェクト粒子が断続的に零れ落ちていた。


 数メートル先。ばら撒かれた義肢の中に、自分の左腕が転がっている。指先だけが、痙攣みたいに小さく震えていた。


 「ぁ……」


 遅れて痛みが来る。


 焼けるような熱が肩口から脳天へ突き抜け、視界が白く弾けた。VRの筈だった。仮想の肉体の筈だった。


 「──ッ、ぁぁぁぁぁッ!!」


 絶叫が工場へ響く。



 その時だった。




 ギギギ



 金属が軋む音が響く。それは、まるで、男を嘲笑う、悪魔のように。



 有り得ない、と、男の顔が強張る。



 ────崩れたアームが、ゆっくりと、持ち上がっていた。



 下から伸びるのは、黒い、腕



 目の前の現実を、男が受け入れる前に、それは、姿を現した。



 工場灯の黄色い光の中で、ノイズ混じりの怪物が、冥府の底から這い出てくる。輪郭は乱れ、片腕らしき部分は潰れ、身体の一部も崩壊しかけている。



 だが。


 まだ動いている。



 「はは……チートかよ……」



 怪物がこちらを見る。


 次の瞬間、“消えた”。


 「ッ!!」


 反射的に動こうとして、遅れる。左腕の喪失により、バランスが保てずにそのまま転倒。黒い腕が、男の右足首を掴んだ。


 「がぁっ!?」


 床へ叩き伏せられる。油と血液エフェクトが飛び散り、そのまま工場床を引き摺られる。背中が焼けるように痛む。


 視界が明滅した。


 怪物の腕が、ゆっくりと持ち上がる。



 黒い刃。首をもたげる、死をもたらす旋律。



 自分は今から殺される。それを、理解した瞬間、視界全体へノイズが走った。



────────────


『あのね、お父さん』


『もうだめー!って思った時はね』


『自分の顔を触って』


『えい』


『ふふ。指で口角を上げるんだ。そうするとね、少しだけ、楽になるでしょ?』


────────────




《ユーザー認証:承認》


《ユーザー名:カラスマ》


《ソウルスキル:■■■■■■》


 



  ────世界が、軋む。


 ゴーストの輪郭が崩れ、その内側に無数の軌跡が浮かび上がっていく。潰れた腕。乱れたノイズ。崩壊しかけた構造。その全てを食い破るように、死の匂いが漂っている。



 それはもう、限界だった。



《深度到達を確認》


《第二段階────解禁》


《ソウルスキルが進化しました》


《ソウルスキル:十三の指》


《ソウルスキルを発動しますか?》




 男は、自分が何を見ているのか分からなかった。


 ただ、理解だけがあった。



 ──壊れる。




 男の右手が、無意識に伸びる。


 振り下ろされる黒い刃。


 その直前、男の指先が、“ソレ”へ触れた。


 瞬間、黒い怪物の輪郭がぶつり、と歪んだ。




 強化ガラスと呼ばれる、通常のガラスを高温で焼き上げ、急速に冷やすことにより、表面に強力な圧縮応力層を形成、強度を引き上げた物質がある。



 普通のガラスなら割れてしまうような衝撃を受けてもビクともしないそれは、



 ただ、ある一点、ある一点に、弱い衝撃を与えるだけで、



 一瞬にして、崩壊する




 男の指に触れられたゴーストは、“上から巨大な圧力”を掛けられたみたいに、身体が沈み始める。



 「──■■■■■■■■ッ!?」



 初めて、怪物が声らしきものを上げた。


 ノイズ混じりの絶叫。工場全体が震え、周囲の機械アームが狂ったみたいに火花を散らす。


 それは一瞬にして、外側から圧縮されたように見えた。崩れかけていた輪郭が一気に収縮し、ノイズが潰れ、存在そのものが耐え切れなくなったように軋み始めた。


 そして。


 


 ──ボゴンッ。




 黒い塊は、床へ押し潰されるように圧壊し、そのまま跡形もなく消失した。


 蒸気の吹き出す音だけが、静まり返った工場へ響いている。


 プシューッ、と。


 コンベアは、何事もなかったみたいに動き続けていた。



 ガシャン。



 ガシャン。


 

 男は床へ倒れたまま、しばらく動けなかった。荒い呼吸。心臓の音。焼けるような激痛。そして、自分が今、何をしたのか。


 ゴーストは消えた。それだけが、現実だった。

読んでいただきありがとうございます。良ければブックマークしていただけると嬉しいです。

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