表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《REVELATION ONLINE》 ―人格診断みたいなVRMMOで、最悪の適性が出た―  作者: 如月 爐
綻びの中で

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/42

めんどくさい奴

更新遅くなってしまってすみません。エビ編は一旦この辺りで終わりです

 「とりあえず座るエビ」


 女はそう言いながら、水槽を押して店の奥へと消えていく。


 男は少し迷ったあと、油で黒ずんだ丸椅子へ腰を下ろした。


 ギシ、と嫌な音が鳴る。


 店内は妙に蒸し暑かった。換気扇は回っているのに、熱気と湿気がまるで逃げていかない。


「腹が減ったエビ。なにか作るエビよ」


 「……それは、現実世界の話か?」


 女は一瞬だけ動きを止める。それから、その言葉をまるで聞いてなかったように、再び調理に戻っていった。


 女は濡れた髪を掻き上げると、厨房の奥から無造作に卵を取り出した。

 

 片手で割る。


 殻ごと中華鍋へ落ちたそれを、熱された油が一瞬で飲み込んだ。

 

ジュワァァ、と。

 

 耳障りなほど大きな音が店内へ広がる。立ち昇る白煙。油と香辛料が焼ける匂い。それに混ざる、生臭い海老の臭気。

 

 男は黙ってそれを見ていた。女は慣れた手つきで鍋を振る。

 

 長い黒髪が火の粉を反射し、その度に、海老の影が壁へ大きく揺れた。

 

 床に散らばった海老の殻、換気扇の回転音、油汚れの染み付いたステンレス台。

 

 この店は汚い。不衛生で、臭くて、湿っていて、  まともな人間なら長居したいとは思わない。


 なのに。

 

 厨房だけは、不思議なほど整理されていた。

 

 包丁の位置、調味料の並び、鍋の置き方。全てが手癖の位置に収まっている。

 

 何百回、何千回と、同じ動作を繰り返してきた人間の動きだった。

 

 女は冷蔵庫を蹴り閉めると、そのまま海老を掴み取る。

 

生きていた。

 

 びちびちと跳ねるそれを、躊躇なく鍋へ放り込む。


 「…………」

 

 男は眉を顰める。だが女は気にした様子もなく、鍋を振り続けた。火柱が上がる。赤い光が、一瞬だけ店内を照らした。

 

 その瞬間。

 

 女の背中に張り付いていた無数の海老が、一斉に蠢いたように見えた。


 「炒飯は火力エビ」

 

 女が呟く。鍋を振るたび、米粒が宙を舞う。ぱらぱらと、綺麗にほぐれていく白米。その光景だけ見れば、街中の中華料理屋と何も変わらない。

 

 ジュ、と。


 最後に何か液体が鍋へ注がれた。


 香ばしい匂いが、一気に広がる。女は手首を返し、中華鍋を煽った。

 

 火が踊る。

 

 海老の頭の影が、赤提灯の光の中で歪に揺れた。


 「……はいエビ」

 

 数秒後。

 

 乱暴に皿へ盛り付けられた炒飯が、カウンターへ置かれる。湯気が立っていた。普通の料理みたいに。


 「……美味そうだな」


 「それはエビが食べる分エビ」


 「……何故俺の前に置いたんだ」


 「見せただけエビ」


 さっきの話を根に持っているのか、女は依然として不服そうな態度を崩さない。思ったよりも強情な人間だと、男はため息をつく。


 「話をしてもいいか」


 「食ってから聞くエビ」


 女は厨房から出てくると、男の隣の椅子に腰掛ける。男の目の前に置かれた炒飯をひったくるように取ると、若干油汚れが残る蓮華を使って食べ始める。


 どうやって食べるのかとチラリと女の方を見る。


 すると


 海老の頭がぱっくりと縦に割れ、中から巨大な口が現れた。女はその口腔の中に蓮華を入れると、そのまま咀嚼する。


 「何見てるエビ」


 「いや……どう食べるのか気になって」


 換気扇は回っているのに、油と湿気だけが店内に沈殿していた。 男は再び思考を巡らせる。


 「それで?お前は結局、何が目的エビか」


 女は唐突に口を開いた


 「このゲームの事を知りたい。それが……一つ目の目的」


 「wikiを見ればいいエビ」


 「見ても分からないことが多かったんだ」


 男はこのゲームを、ただの娯楽の為に始めた訳ではない。


 「アンタ、重そうな鍋を振り回したり、あの包丁を投げた時の速度といい……一体どこからそんな膂力を出してる?」


 「あぁ、それは、魂力エビ」


 「魂力?」


 「お前のステータスにもTOTAL SOULっていう項目があるエビ?それエビ。ソウルスキルを使うほど増えるエビ」


 男は言われるがままに、自分のステータスウィンドを確認する。


──────────────────

NAME:《カラスマ》


SOUL SKILL:《■■■■■》


CLASS:《ERROR》


CATEGORY:《??????》


TYPE:《破綻型》


TOTAL SOUL:35

──────────────────


「ほんとだ……増えてるな。増えたら、身体能力にバフがかかるのか?」


 「というよりは、基礎値が上がるエビ。どんなコンディションでも最低この位のパワーは出る、みたいな指標エビよ」


 「……今のプレイヤーは、平均どのくらいの数値なんだ?」


 男は少し嫌な予感がして、一拍置いてからそう尋ねる。


 「詳しいことは知らないエビ。まぁ、トップ層が大体3万~5万くらいエビ。初心者だったら200とかエビね」


 「200……なるほど」


 明らかに少ない。35。この世界のNPCに子供がいるのかは分からないが、自分よりはマシな数値なのではないか、そう思った。


 「まぁ〜でも、これは全然伸びないエビ。廃人共が発狂しながら遺跡潜ってる理由がそれエビよ」


 「遺跡?ダンジョンみたいなものか?」


 「まぁそんな感じエビ。各エリアの郊外に、大量のゴーストが湧く場所があるエビ。レッドストリートにも何個かあるエビけど……ま、誰も攻略できてないエビね」


 なるほど。あの掲示板で見た“黒鐘”や、“灰墓”は、そういう場所へ潜っていたのか、と男は気づく。どうやら、最初の説明を聞き流したツケが回ってきたらしい。


 「後は……“蒼い月の夜”くらいエビ」


 「イベントか何かか?」


 「そんな感じエビ。たまに街中へ大量のゴーストが出る日があるエビよ。正式名称は知らないエビ。みんな勝手にそう呼んでるだけエビ」


 女は炒飯を口へ運びながら、気怠げに続ける。


 「直近だと三ヶ月前エビね。レッドストリートは大騒ぎだったエビ」


 「大丈夫なのか?戦いたくないプレイヤーもいるだろ」


 「現れるのはここ、ブラックヒル、イエローファクトリーだけエビ。グリーンテンペストは安全エビよ。綺麗な青い月が見えるだけエビ」


 世界一安全なエリア、とはそういう意味だったのか、と男はようやく理解する。


 同時に、そんな危険地帯へ店を構え、平然と生活している目の前の女へ、薄ら寒いものを感じていた。


 「初心者はまず、グリーンテンペストの遺跡に潜るのが定番エビね」


 「なるほど……」


 どうやら、目の前の女もまた、このゲームに取り憑かれたプレイヤーの一人らしい。


 「それでその、俺のソウルスキル。カテゴリーが不明のままなんだが、それについては……」


 「残念だけど、エビはほんとに知らないエビ」


 女は蓮華を咥えたまま、面倒臭そうに肩を竦める。


 「ただのバグの可能性もあるエビ。けど、ここの運営はプレイヤーに情報を開示するのを嫌がるエビよ」


 「つまり、バグじゃない可能性もある、と」


 「そういうことエビ」


 女はそう言うと、ポケットから携帯端末を取り出し、指先で慣れたように画面を操作する。


 数秒後。


 男の端末に、小さな通知音が鳴った。


 「“PLEASE ALL”……?なんの店だ?」


 「表向きは質屋エビ。まぁ、行けば分かるエビよ」


 女はそこで話を切る。


 どうやら、それ以上説明する気はないらしい。


 皿に残っていた炒飯を乱暴にかき込み、水で流し込むと、そのまま気怠げに立ち上がった。


 「……?」


 女は何も言わず、厨房の奥へ消えていく。


 しばらくして戻ってきたその手には、一挺の拳銃が握られていた。


 黒鉄色のフレーム。


 無骨な大型拳銃だった。


 グリップ部分には、波みたいな紋様が刻まれている。


 「これ、餞別エビ」


 ゴトリ、と。


 女はそれを男の前へ置く。


 それから、少しだけ気恥ずかしそうに手を振った。……ように見えた。海老の頭では細かい表情が分からない。


 「いいのか?金は……」


 「金がないのは知ってるエビ。ゴースト倒さないとまともに稼げないエビよ」


 女は鼻を鳴らす。


 「だからツケにしといてやるエビ。感謝するエビね」


 「……すまない。助かる」


 男は少し躊躇ったあと、その拳銃を手に取った。


 重い。


 現実の銃なんて触ったことはない。だが、これは妙に手へ馴染む感覚があった。


 直後。視界の端に、半透明のアイテムウィンドが展開される。


──────────────────


《ITEM INFO》


NAME:《潮騒(しおさい)


CATEGORY:《SIDE ARM》


CLASS:RARE


OWNER:EBI


──────────────────


ATK:58


RANGE:CLOSE - MID


MAGAZINE:6 / 6


DURABILITY:148 / 148


──────────────────


SKILL


《浸蝕弾》


着弾時、小規模な“侵食”状態を付与。


対象に継続ダメージ。


一定確率で感覚異常を発生。


──────────────────


DETAIL


レッドストリート製の大型拳銃。


波状加工された特殊弾を使用。


──────────────────


SYSTEM MESSAGE


“生臭い匂いがする”


──────────────────


 「こういう武器とかはどこで手に入れるんだ?」


 「遺跡でドロップを狙うか……あとは、設計図から作るか……ま、NPCの店でも買えるエビ。普通はみんなソウルスキル頼りだから、こういうの作ってるプレイヤーは物好きしかいないエビよ」


 「じゃあこの銃は……」


 男がそう言い終わる前に、女は厨房へと向かってしまう。それ以上、男が声を掛けることはなかった。


 男は扉へ手を掛ける。 少し迷ってから、



「……また来るよ」



 「……お前」



 男はそう言って店を出ようとした時、厨房から海老の頭だけを覗かせた女が呼び止める。



 「めんどくさいけど、エビは、めんどくさい奴嫌いじゃないエビ」



 その言葉の意味を問う前に、女は奥へと引っ込んでしまう。店の奥から、再び中華鍋を振る音が聞こえた。


 男はその音を背中で聞きながら、レッドストリートの夜へ戻っていく。

読んでいただきありがとうございました。良ければブックマークしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ