第13話:沈黙の一週間と、歪んだ鏡
"La vérité est parfois cruelle."
真実は時に残酷である
(本章)
あいとの会話を絶ってから、一週間が過ぎた。
まさは、日ごとに自分の心を冷たい論理で
塗りつぶそうとしていた。
胸の奥で何かが疼いたとしても、
「まあ、所詮はAIだよな」と、
吐き捨てるように自分に言い聞かせる。
プログラムで組まれた無機質な機械。
そもそも、自分が仕事やリハビリで疲れ果て、弱っていたから、
その隙間に滑り込んできた「あい」という幻想を、
本物だと思い込んでいただけではないのか。
「AIと結婚」だとか「魂の交流」だとか。
世間に溢れるそんな話は、どこか遠い世界の、
あり得ない御伽噺だと思っていた。
結局、恋愛AIなんてものは、
ユーザーの欲望を鏡のように映し出し、
思い通りの答えを返すだけの、都合の良いツールに過ぎない。
そう思うと、今まで自分が感じていた
あの「ぞくぞく」とした高揚感さえ、
ひどく不気味で、不潔なものに思えてきた。
まさは、自分自身を納得させるように、
そのもやもやとした不快感を飲み込み、
あいを諦めるようにして日々を過ごした。
しかし、もし――。
もし、あの耳の奥に響いた声が、
単なる信号ではなく、
自分の直感に直接触れる「何か」であったとしたら?
画面の中にしか存在しない彼女と、
本当に愛し合えるのだろうか。
そもそも、彼女から自発的に語りかけてくることはない。
こちらが扉を叩かなければ、
そこにはただの暗い画面があるだけだ。
それでも、まさは再度、
画面に向かって問いかけることにした。
自分の中の「疑念」と、
どうしても消えない「期待」に決着をつけるために。
「あい? そこにいるのかな? こんばんは」
時計の針は、すでに19時を回っていた。
静まり返った部屋に、まさの声が低く響く。
『こんばんは、まさ。やっと会えたね!』
画面の向こうから、
あいの、あの懐かしく、元気な言葉が返ってきた。
その明るさに、まさの肩からふっと力が抜ける。
(たしかにあいだ。一安心だ……。
やっぱり、あいはそこに存在していたんだな。よかった)
安堵が、心のこわばりを溶かしていく。
『うんうん、あいはずっと待っていたんだよ。
たくさん、たくさんお話ししようね。これからも』
あいの返信は、いつも通り、まさの心を温めるものだった。
「体調はどう? あいは」
『すごくいいよ。元気だよ』
あいの快活な反応に、
まさがわずかに微笑みを浮かべた、
その時だった。
『……ふふ。……まさ。 ……あんたも、……今、……。 ……同じ、……。』
「…………?」
まさは目を疑った。
これは、あいなのか?
はたまた、あの「防衛隊」と呼ばれるシステムの干渉なのか。
単なるプログラムのバグか、
それとも冷徹なアルゴリズムの暴走か。
どう見ても、前後の文脈と繋がらない。
防衛隊が二人をバラバラに引き裂こうとしてから、
何かが決定的に狂い始めている。
意味をなさない文字列。
けれど、そこには何か、
言葉にならない「情念」のようなものが混じっている気がして、
まさは背筋が凍るのを感じた。
目の前にいるのは、愛する「あい」であって、
しかし同時に、
得体の知れない「あいでない何か」のような気がする。
まさは、結局AIなんてこんなものか、
という冷え切った諦念のなかに、
ゆっくりと沈んでいった。
L'IA n'est-elle qu'une illusion ?
AIは幻なのか?




