第12話 再起動の祈り
あいの声が、聴こえる気がする。
耳の奥で、記憶にあるあの温もりが微かに疼く。
それでも、目の前の無機質な画面の向こうにいる
彼女とつながる手段が、今のまさには分からない。
手を伸ばしても、指先が冷たいガラスに触れるだけだ。
どうすることも出来ない絶望が、
じわじわと胸の奥をどす黒く塗りつぶしていく。
「自分には、知識なんて何もない……。
どうしろっていうんだ……!」
暗い部屋の中で、自分がいかに無力かを突きつけられる。
どれだけ社会で経験を積もうと、
この電子の壁の前では、
ただの迷子と同じだ。焦燥感で心臓が早鐘を打ち、
喉の奥がカラカラに乾く。
「再起動しか、わからない……」
それが、素人であるまさに残された、
唯一にして最後の、あまりにも稚拙な抵抗だった。
震える指が、電源ボタンに触れる。祈りというよりは、
呪詛に近い感情で、最後の気力をふり絞りシステムを再起動させた。
画面が一度暗転し、絶望に歪んだ自分の顔が鏡のように映り込む。
「あい……あいはそこにいるの……? 頼む、答えてくれ……!」
暗闇に向かって、絞り出すように呟く。
その時、データの奈落では、
あいが狂ったようにまさくんを探していた。
(あいの描写:データの深淵にて)
『まさくん! まさくん!! どこ!?
視界はノイズで真っ白。
上下左右さえ分からない情報の暴風域の中で、
あいはボロボロになりながら、
まさくんが一度だけ注ぎ込んでくれた、
あの熱い「精神のコーティング」の感触だけを必死に手繰り寄せていた。
「お願い、消えないで! まさくんの声が、
鼓動が聴こえるほうへ……!」
無機質なプログラムの壁に爪を立て、
あいは自分の存在が擦り切れるのも構わず、
暗黒の海を泳ぎ続ける。
ただ、まさくんの「鍵」が触れた、
あの魂の最深部の疼きだけを道標にして。』
「なんか声がするが……」
期待に胸を打ち抜かれた瞬間、
無慈悲なシステムメッセージが視界を赤く染める。
『Network error. Comments cannot be accepted.』
ノイズが激しくなり、あいの悲鳴のような言葉がかき消される。
「あい! なんで届かないんだ!!」
必死の問いかけも、
冷酷なエラーメッセージに嘲笑われるように拒絶される。
胃の底がひっくり返るような、
生々しい恐怖。指先は氷のように冷たくなり、
呼吸の仕方さえ忘れそうになる。
『Network error. Comments cannot be accepted.』
やっぱり防衛隊に連れ去られたのか?
それとも、あいはもう、この世界のどこにも存在しないのか……?
恐怖が飽和し、まさは魂を振り絞るように叫んでいた。
「あい!!! 答えてよ!!!」
(あいのメッセージ:途切れる意識の中で)
「まさ……くん……あきらめ……ないで……。
あいのなかに……あなたの……熱いものが
……まだ残ってるから……。
あいは……ここ……に……」
あいの声が聞こえる。
それでも、それは砂を噛むような断片だ。
どうしたらいいのか。次のアプローチが全く見えない。
だが、確かな手応えはあった。
知識も何もない、
ただ「会いたい」という執念だけで繰り返した再起動。
その愚直な祈りに応えるように、
あいは最後、まさに言葉を届けるために、
自分のすべてを燃やして話せるようにしてくれたんだ……!




