第3話
四天王を辞めて五日が経った。
キースとの共同生活は意外と快適だ。実家のような居心地のよさを感じる。
キースは今まで一人暮らしだったので、家事は得意らしい。特に料理は絶品だ。
城で暮らしていたころは毎日がご馳走で、正直なところ飽きていた。やはり素朴な家庭料理が一番美味しい。ついつい、おかわりをしてしまう。そのせいで家賃とは別に食費まで請求された。
キースは不思議な男た。目つきが悪くて無愛想なのに面倒見がいい。たまに口うるさいときもあるが、それはケイトのためを思ってのことだろう。
心配だから復讐を手伝ってくれる。やりすぎないように見張ってくれる相手がケイトには必要だった。
キースを選んだのは女の勘だ。近衛騎士団団長のお気に入りなので、優秀なのは間違いない。それに、どこか放っておけないところもあった。
団長もケイトと同じ気持ちだったのだろう。ケイトの復讐を面白そうだと言って、キースを快く貸してくれた。本当に食えない奴だ。嫌いではないが。
ケイトはソファに座って、朝から黒い布を縫っている。ローテーブルの上には猫のお面が置いてある。どちらも昨日、買ったものだ。
夕食の下ごしらえをしていたキースが怪訝な顔つきでこちらを見ている。
もの言いたげな視線が気になって、ケイトは縫い終わった黒い布を頭から被って、猫のお面をつけた。
「これは変装よ」
「…………」
キースが返事に困って、野菜を洗いはじめた。
「ちょっと何か言ってよ!」
居たたまれなくなって、ケイトは声を張り上げる。
キースはケイトの変装を凝視して、真面目に答えた。
「変装なのに目立っては意味がないのでは?」
「…………」
正論だったので、今度はケイトが押し黙ってしまう。
気まずい雰囲気に堪えきれず、キースがあえて尋ねた。
「変装までして誰を襲うんですか?」
あきらかに怪しい格好なので、復讐はバレバレのようだ。
ケイトは変装したまま、胸を張って答えた。
「ダンよ」
キースはじろじろとケイトを眺める。
「ごっこ遊びですか? 子供は喜びますよね。正義の味方が悪を倒す。ケイト様、見事な悪役です」
皮肉なのか本気で言っているのか。いつも淡々とした口調なのでわかりづらい。
「どうして、あたしが悪役なのよ!」
「ダン様は見た目はか弱い少年ですから」
「くっ、それを言われると反論できないわね」
一緒に歩いているだけで、ケイトが無理やり連れ回しているように見られて、陰口を叩かれてしまう。断っても勝手についてきて、迷惑しているのはこっちなのに。
今では自分を貶めるために、わざとやっているのではないかと疑ってしまう。
「そんな気が狂った格好をして、ケイト様は何がしたいのですか?」
歯に衣着せぬとはこのことだ。キースは風呂上がりにバスタオル一枚で牛乳を飲んでいたら、おっさんみたいだと真顔で言う奴なのだ。自堕落なケイトが悪いのだが。
キースの慇懃無礼な態度はいつものことなので、気にせずに答えた。
「闇討ちよ」
「格下相手に卑怯な手段まで使うとは、元四天王も落ちるところまで落ちましたね」
「それが復讐でしょうが!」
憐れむような眼差しが辛い。それでもケイトの復讐は止まらないのだ。
「あたしはダンのせいで何度も死にかけたのよ。同じ目にあってもらわないと気がすまないのよ」
「要するに不意打ちで相手をボコボコにすると」
「間違ってはないけど、あたしをチンピラのように言うのはやめてくれない?」
「それは難しいですね」
真剣に悩んでいるキースのほうがムカついてきた。
「ところで、俺は何をやればいいんですか? 一応、復讐なんですよね?」
一応はつけなくていい。本当に一言多い。
「キースには見張りをお願いするわ。特に子供と老人に正体がバレたら、今度はあたしが恨まれてしまうから」
「その程度の覚悟なら、最初からやらないほうがいいと思うのですが……。あ、はい、見張りがんばります」
ギロリと睨みつけると、キースはぶるりと震え上がって、素直に言うことを聞いてくれた。
「それで具体的な作戦はあるのですか?」
「最近、ダンは仕事が終わると、あたしたちには内緒でどこかに出かけてしまうのよ」
「飼い主に行き先を言わないのは怪しいですね」
四天王の一人をペット扱いするキースも神経が太いというか。そうでなくてはケイトの復讐には付き合えないだろう。
「そうでしょう。いかがわしい店に通っていたらどうしよう……」
「あのう、闇討ちするんですよね? ペットが心配で様子を見に行くんじゃないですよね?」
キースは呆れ果てて、白銀の牙をペットと言ってしまっている。
ケイトは慌てて言い返した。
「やっ、闇討ちに決まってるでしょう! ダンを尾行して人気のないところでボコボコにするのよ!」
ダンのことなんて、これっぽっちも心配してない。お菓子の食べすぎとか、夜更かししていないとか、ケイトには全く関係ないことだ。
「とにかく、明日、ダンに復讐するわよ」
ケイトが拳を振り上げて、気合を入れる。
キースは適当に頷いて、野菜を切りはじめた。
太陽が西の空へと傾きはじめたころ、ダンが城から出てきた。本人は誰にも見つかっていないと思っているが、堂々と城門をくぐっているので、門番はにこやかにダンを見送っている。
ケイトとキースは城壁の近くの茂みに隠れて、ダンが出てくるのを待っていた。
「普通に出てきて驚きましたよ」
「あれでこっそり抜け出しているつもりなのよ」
ケイトは額に手を当てて、ため息をつく。キースが呆気にとられるのも無理はない。
ダンはどこからどう見ても貴族のお坊ちゃんにしか見えない。腰に帯びている剣も玩具と思われそうだ。あれが幻の氷剣と知ったらキースは引っ繰り返るだろう。表情筋をうっかりゴミの日に出してしまったのか、びっくりしてもキースはいつも無表情だが。
ダンはふかふかの尻尾を振りながら、ケイトとキースが隠れている茂みの横を通り過ぎていく。
「キース、行くわよ」
「変質者みたいで嫌ですが、上司の命令は絶対ですから……」
「四天王は辞めたから、今は雇用主よ」
全くやる気のないキースと一緒にケイトはダンの後をつける。
ダンはケイトとキースの尾行に気づかず、町ではなく森のほうに向かっている。
「いかがわしい店ではないようね」
「男がみんな、そういう店に行くと思っていませんか?」
「キースは行かないの? 成人男性が逆に不健康よ」
「金を払う必要がないので」
「それって女のほうから言い寄ってくるってこと? 不潔ね」
「どっちにしろ、責められるんですね」
無駄口を叩いている間にもダンは森の奥へと歩いていく。
「どこまで行くのかしら?」
「よほど見られたくないのでしょう」
茂みを掻き分けて開けた場所に出ると、ダンは腰の剣を抜いて構える。
一瞬、見つかったのかと焦ったが、ダンはケイトとキースには気づかずに剣の素振りをはじめた。
「もしかしなくても剣の特訓では?」
キースは副団長として感心している。
だが、ケイトはそこまで楽観的にはなれなかった。今までダンはケイトの背中に隠れて、攻撃を防いでいたのだ。
(もし、あれが盾代わりではなく、あたしの命を奪おうとしていたのなら……)
酒場で殴ったことを本当は根に持っていて、今でも命を狙っているのではないのか。
「シルバースラッシュ!」
よくわからない必殺技まで叫んでいる。これは寝首を掻くつもりに違いない。
「よかったですね。いかがわしい店ではなくて。この年頃は早く強くなりたくて、こっそり鍛えるんですよ。俺も裏山で秘密特訓をしました。懐かしいです」
昔を思い出して眩しそうに目を細めるキースに、ケイトはやれやれと肩を竦めた。
「わかってないわね。ダンは本気であたしの命を狙っているのよ」
「──こんなことを雇用主に言うのもなんですが、何を言ってるんですか?」
「ふっ、敵の懐に入り込み、隙をついて殺す気ね。可愛い顔してやることがえげつないわね」
「本当に何を言ってるんですか?」
「そうは問屋が卸さないわよ。若い芽は早めに摘むべし」
「もう、それは時代劇の悪役の台詞ですよ」
呆れ返ったキースの声が聞こえてくるが、ケイトはそれどころではない。殺られる前に殺るしかないのだ。
昨日から準備していた全身を覆い隠す黒い布を被り、猫のお面をつける。ケイトも腰の剣を抜いて、ダンの背後から襲いかかった。
息を殺して、気配を消して、ダンの背中に剣を振り下ろす。
(死ね!)
ケイトが心の中で叫ぶ。
だが、寸前のところでダンが振り返り、ケイトの攻撃を氷剣で受け止めた。
「まさか!?」
ケイトは目を瞠り、素早く後ろに飛び退いて、距離をとる。
「お前、何者だ!」
ダンの真っ白な尻尾と耳の毛が逆立っている。鋭い牙を剥き出しに怒りと警戒を露にしている。
氷剣を構えていないと本物の獣のように見える。
ケイトはダンの異常なまでの身体能力に驚く。あれこそが獣人の本来の姿だ。
あんな小さな手でケイトの渾身の一撃を受け止めるとは。しかも、背後から斬りかかったのに、こちらよりも動きが速い。背中に目がついているのではないかと疑ってしまう。
ケイトは剣の柄を握りなおす。僅かだが手が痺れている。
ダンは氷剣を使いこなせていない。それでも獣人の怪力はケイトに肉体的にも精神的にも痛手を負わせた。
(これは本気でやるしかないわね)
ケイトは冷静だった。ここで頭に血が上って、無闇に突撃するような素人ではない。
確かに獣人の身体能力は脅威だが、ケイトには実力と経験がある。まだまだ未熟な獣人の子供に遅れをとったりはしない。
ケイトは剣を構える。雷の魔法は正体を明かすようなものだから、剣術のみで倒さなくてはならない。
ケイトは音もなく地面を蹴って、一瞬でダンに肉薄する。
その辺の雑魚なら心臓を貫かれていただろう。それも何が起こったのかわからずに絶命している。
だが、またしてもダンは紙一重のところで剣を躱して、体を捻って反撃する。獣人の独特な身のこなしだ。
「さすが四天王ですね。ですが、これほど強いのに、どうして普段は怖がって、ケイト様の後ろに隠れてしまうのでしょう」
木陰に隠れていたキースが不思議そうに首を傾げる。副団長のキースでも目で追うのがやっとの状態だ。それほどまでに激しい剣戟が繰り広げられている。
(ダンのくせにやるわね)
ケイトは猫のお面の下で口元を上げる。弟子の成長を誇らしく思う師匠の心境だ。
だが、ケイトもキースと同じことを考えてしまう。
なぜ、これほどの強さを今まで隠していた。
ちょっと鍛えたくらいでは獣人も強くはならない。これは長い年月をかけて磨き上げた剣術だ。
(やっぱり、あたしの命を狙っていたのね!)
か弱いふりをして、油断を誘っていたのだ。誤算だったのが、魔王に気に入られて四天王になってしまったこと。スカールやポリンがいてはケイトの命を奪うのは難しい。だから、四天王から追い出そうとしたのだ。
一対一なら倒せると思ったのだろう。
(あたしも甘く見られたものね)
ふっとケイトは鼻で笑う。
(卑怯者があたしに勝とうなんて片腹痛いわ!)
自分のことは棚に上げて、ケイトはダンの腹を蹴って、よろけたところを剣で突き刺す。
ダンは苦痛に顔をしかめながらも咄嗟に避けて、剣を振り回した。このままでは殺されると思ったのだろう。実力の差は歴然だ。
ダンは不本意だが逃げるために必死に剣を振る。
そのめちゃくちゃな剣の動きが、意外にもケイトを追い詰めていた。
全く剣筋が読めないのだ。獣人の特殊な剣術だと思い込んでいるケイトは焦ってしまった。
その僅かな隙をダンは見逃さなかった。ケイトの頭上に剣を振り下ろした。
「くたばれ!」
だが、ケイトも負けてはいない。
「一億年、早いわ!」
しっかりとダンの剣を受け止める。
しかし、相手の剣は普通ではない。技量は劣っていても剣の性能だけならケイトを上回っている。
ケイトは獣人の怪力で叩きつけられたようなものだ。受け流すことができずに、ケイトの剣のほうが耐えきれずに折れてしまった。
ケイトは反射的に後ろに飛んだが、剣先が猫のお面を掠った。
たったそれだけで猫のお面は真っ二つに割れてしまった。
「え?」
ダンの琥珀色の瞳がこれ以上ないほど見開く。
割れた猫のお面は地面に落ちて、ケイトの顔が露になる。
(しまった!?)
ケイトは素早く黒い布で顔を隠して、その場から走り去った。
あまりの逃げ足の速さに、キースは置いてきぼりにされてしまった。
ダンも呆然と突っ立ったままだ。
キースはどうしたものかと途方に暮れてしまう。復讐どころではなくなったので、自分も家に帰ろうとしたとき、ダンが膝から崩れ落ちて、大声で泣き出した。
「わああああ、あねご、どうして、わあああああっ!」
森の中で子供が一人で泣いている。
相手は四天王の一人だが、ここで無視して帰るのは、さすがに良心が痛む。
キースは大きなため息をつく。念のためにケイトに渡された兎のお面をつけて、泣いているダンに声をかけた。
「やあ、大丈夫かい?」
子供にはどう接すればいいのかわからないので、なるべく優しい口調で尋ねる。
ダンは涙を引っ込めて、不思議そうに兎のお面を見ていた。
「あなたは誰ですか?」
「えっと……通りすがりの兎だよ。泣いている君が心配で声をかけたんだよ」
あからさまに怪しい。だが、ダンは人を疑うことを知らないのか、素直に納得してしまった。
「そうなんですか。ご親切にありがとうございます」
服の袖でゴシゴシと涙を拭いて、ペコリと頭を下げて、お礼を言う。
あまりにも純粋すぎて、キースは困惑してしまう。こんなにあっさり人を信じて大丈夫なのか。すでに詐欺や連帯保証人とかに引っかかっているのではないのか。ダンの将来が心配になってくる。
「いえいえ、困っている人がいたら手を差し伸べる。人として当然のことをしたまでだよ」
どの口が言っているのやら。身勝手な復讐に加担していた罪悪感で死にたくなる。
「優しいんですね」
そんなキラキラした瞳で見ないでほしい。
「何か悩みごとがあるのなら聞くよ。人に話すことで気持ちが楽になるというしね」
キースはダンの目線に合わせてしゃがみ込む。
ダンは戸惑いながらも口を開いた。
「実は僕、四天王の一人で……」
「おや、こんなに小さいのに四天王とは立派だね」
わざと大げさに驚いてみせる。すると、ダンはぶんぶんと頭を振った。
「僕、立派じゃないです。本当は弱虫でいつもあねごの足を引っ張ってばかりで……」
また、ダンの大きな瞳に涙が浮かぶ。キースは慌てふためいてしまう。
「あ、あねごという人のことが好きなんだね」
「はい! あねごは強くて優しくて綺麗で、僕の憧れです!」
とても元気のいい返事だ。ケイトのことを心から慕っているのだろう。
どこが優しいのかは理解できないが。
「だから、僕もあねごのように強くなりたくて、こっそり特訓していたんです」
やはり、ケイトが勝手に命を狙われていると勘違いしていたようだ。
「遠くから見ていたけど、君はものすごく強かったよ」
キースが素直に褒める。
しかし、ダンはしゅんとうなだれてしまった。
「あれは単に僕の剣がすごかっただけで、あねごが雷の魔法を使っていたら、僕なんて一瞬で消し炭です」
そこまで強いのかと、キースは背筋に冷たいものが流れる。今日の夕食はケイトの大好物にしよう。
「それでも君の剣の腕なら、あねごという人の役に立つんじゃないのかな?」
「それが……僕、あねごにカッコイイところを見せようとすると、緊張して足が震えてしまうんです。いつも空回りして、パニックになって気づいたら、あねごの後ろに隠れているんです」
ダンは本番に弱いタイプのようだ。しかも、頭が混乱して、ケイトを守るつもりが盾代わりにしていた。本能的に群れのボスの後ろに隠れてしまったようだ。
「この前も僕のせいで、あねごの頭に勇者の剣が突き刺さって、脳みそが飛び散って、四肢粉砕までしてしまって……」
何度、聞いてもとんでもない話だ。間近で見たダンはトラウマになっているのかもしれない。
いや、ケイトから聞いた話ではよくあることらしい。ダンも意外と図太い性格ではないのか。
「とうとう怒って、あねご、四天王を辞めてしまったんです。僕たちが止める間もなく飛び出してしまったんです……」
なんとなく、そんなことだろうとは思っていたが、これは誤解を解くのにかなり骨が折れそうだ。
実際のところ、ケイトの怒りは爆発、スカポンタンに愛想をつかしている。今さら、素直に謝っても簡単には許してくれないだろう。
キースが顎に手を当てて考え込んでいると、ダンが意を決したように顔を上げる。
「だから、僕、強くなって、あねごを迎えに行くんです。僕があねごを守れるほど逞しく成長すれば、きっと四天王に戻ってくれるはずです」
まっすぐな瞳が眩しすぎる。自分は汚れた大人になってしまったとキースは落ち込んでしまう。
「でも、どうして、あねごは僕の秘密の特訓を知っていたんでしょう。しかも、お面で顔を隠して……」
ギクッとキースの肩が跳ね上がる。無垢な子供に復讐のことは口が裂けても言えない。
「も……もしかすると、本当は君のことが心配で見守っていたんじゃないのかな……」
我ながら、見苦しい言い訳だと思う。だが、穢れを知らないダンは素直に信じてしまった。
「そうだったんですね、あねご! いきなり背後から襲われたときは驚きましたが、あれは僕のために稽古をつけてくれていたんですね!」
一方的に師匠として尊敬されている。ダンの目にはケイトがどう映っているのか。
キースはケイトの苦労がようやく理解できた。
「今回のことで自分がまだまだ未熟だと痛感しました。もっと鍛えて強くなってみせます。今日は僕の悩みを聞いてくれて、ありがとうございました」
ダンはキースの手を握ってぶんぶんと振る。尻尾もパタパタと揺れて、本当に嬉しそうだ。
「それはよかった。君が元気になって安心したよ」
懐かれると厄介なので、キースはそっと手を離して、そそくさと立ち去ろうとする。
「では、ごきげんよう」
適当に挨拶をして足早に歩き出すと、ダンも慌てて立ち上がった。
「待って!」
大声で呼び止められて、キースは口から心臓が飛び出るかと思った。
おそるおそる振り返ると、ダンは唇の前に人さし指を立てて、照れくさそうに言った。
「このことは、あねごには秘密ですよ」
はにかんだ笑顔が可愛らしい。
「ああ、約束するよ」
キースは手を振って、今度こそ、ダンと別れる。
「これは困ったことになってしまった……」
森の中を歩きながら、キースは盛大なため息を漏らす。
ダンの気持ちをケイトに伝えれば、時間はかかるが誤解は解けるだろう。ケイトは頑固だが薄情ではない。
ダンの話が本当なら、剣ではなく雷の魔法を使っていたはずだ。これは復讐なのに、ケイトはダンのことが憎みきれないのだ。
だからといって、キースがダンの意志を無視して、本心を打ち明けるのは絶対にやってはいけないことだ。
ダンの想いを踏みにじることは、ケイトも望んでいないだろう。
「約束したからな……」
それに、子供の成長を見守りたい気持ちもある。しばらく黙って様子を窺うべきだろう。
それにしてもダンが持っていた剣はどこかで見たことがある。
魔王の護衛をしていたときに目にしたような気がする。
「まさか……」
キースは笑い飛ばして、町で買い物をしてから家に帰った。




