グルス王国 4
「まぁ、渡す気ないのは知ってるし手配犯として俺も追われてるから逃す気はないのも知ってる。でも、同じ人間としてさ会話で解決できるならさーー「やっちまえ!!」…だよね。」
ユイトの話を遮り走り出す盗賊団は各々武器を取り出し魔力を纏う。
ユイトは魔力を持たないこの世で唯一の存在である。魔力とは自身を守る武器であり防具である。それを持たない存在は魔力によって洗練された武器には通常ならば敵うことなど天地がひっくり返ってもあり得ない。
ユイトは鉄の棒から剣へと構築しそれを構える。依然としてユイトは魔力を持っていないため魔力を纏わない。盗賊団の1人がユイトに対して片手に持つ剣を振り下ろす。
「……そいっと。」
ユイトは剣を避け、盗賊団の剣を持っていない方の腕を斬り飛ばす。
「うわっ!いでぇ!!くそがーー」
盗賊は斬られた腕を押さえて止血のために魔力を回したところをユイトは盗賊の首を剣で分離させた。
また飛んだ首に盗賊団は足を止めた。
目の前の理解不能な存在に恐怖した。何故こいつは魔力がないにも関わらずここまで強く恐ろしいのか。
「魔力とは、約千年前に異世界人達がこの世界に降り立った際に流れてきたものであった。」
ユイトは語り始める目の前には盗賊団がいるにも関わらず。それだけの実力があるのだとユイトはすでに確信していたのだ。そして、その語りに全員が耳を傾けていた。
「長い年月をかけて人間はその魔力に対して適応すべく身体を変化させた。よって出来た臓器が魔力貯蔵器官。もはや魔力は自分の身体を操るように操作ができる。しかし、お前らは魔力に対して慣れすぎた。」
ユイトは剣を盗賊団に向けると前に居る盗賊が身体をびくつかせる。
「君達は魔力を使う際に偏りが激しい、攻撃ならば利き腕、防御なら攻撃されそうな部位とか、他のところには注意が入っていない。薄い魔力の壁は鉄を斬るのとそう変わらない、だから俺は君たちを斬れると言うことだよ。」
そしてユイトは剣を構える。
「さて、ここまで話しといてまだ対策をしないお馬鹿さんは居ないだろうね。」
「やっちまえ!!」
「「「うぉぉぉぉぉ!!」」」
ユイトの余計な一言で怒らせた盗賊団一同は一斉に走り出す。そして、ユイトの忠告通り彼らは1人残らず魔力を利き腕と逆の腕に魔力を溜めていた。至極単細胞な奴らだと思う。しかし、ユイトには魔力は見えないのでその事にはどうでも良かった。
振りかぶった魔力を纏った剣はユイトの頭を正確に捉えてそのままならば頭を裂くことなど容易い。
しかし、ユイトは笑った。
「まぁ、俺は力のゴリ押しで魔力を斬ること出来るんだけどね。」
振り下ろされるよりも早くユイトの剣は魔力を纏った剣に当たりそのまま止まることなく剣を裂き盗賊の身体を裂いた。
「…さっきの説明いらないじゃん。」
うずくまるホムのツッコミにユイトは笑いながら他の盗賊も斬り裂いていく。
「ハッハッハ…でも、こうやって説明すれば全員が焦って全身に魔力を平均的に纏ってくれるから斬るのに苦労しないんだよね。」
その言葉を聞いて慌てて魔力を戻そうにもすでに遅かった。ユイトは瞬く間に切り裂き盗賊団の数を減らしていく。
しかし、そこでユイトの剣の刃が折れる事が起きた。
「ん?想定よりも魔力が多かったか。悪かったよ下に見過ぎてた。」
「れ…錬金術師…よくも俺の盗賊団を。許さん!」
わらわらと震えて魔力が揺れている童顔マッチョ。彼は体に保持している魔力を解放し辺りに突風が発生する。
「”強化”!”硬化”!…これは未だに破られていない俺の必殺技だ。」
童顔マッチョは銀色に身体を変化させて鉄のようになりそのままでかい巨体で突進する。その一撃は鉄の塊が恐ろしい速度であった。
想定よりも早い突進にユイトも反応が遅れて正面から受けてしまう。衝撃は身体が浮く程で普通に受ければ確かに全身の骨が衝撃だけで砕けるだろう。
ただ、ユイトはギリギリで後ろに飛ぶ事ができて衝撃を減らし両腕でガードも出来たため両腕の骨が折れる程度で済んだ。
着地と同時に分解、構築で腕の骨を再生を図った。
しかし、このままでは再生の繰り返しとなってしまうのでユイトは落ち着き相手をよく見た。
再び突進を繰り出す一直線に飛ぶ童顔マッチョをユイトは避けるが、童顔マッチョは障害物を自身のポーズの穴を作る。
「さらに!”大地創造”!」
童顔マッチョが声を上げた瞬間にユイトと童顔マッチョを閉じ込めるかのように大地の壁が出来た。外からは仲が見えないためホムとバルザックは中の様子を知ることはなかった。
壁に当たった際にその童顔マッチョは勢いを更につけるため壁を蹴り更に速度を上げる。
「確かに、これを必殺の技として使うのは良いな。よく考えられてる。」
ユイトは弾けながら飛んでくる童顔マッチョを避けながら言葉を続ける。壁に囲まれた中、中心で避け続けるユイトはまだまだ余裕であった。次第に早くなっていく童顔マッチョだが、彼の脳裏には疑問が生まれている。
(何故こいつは避け続けられるんだ。すでに俺の最高速に近い動きになっていると言うのに、この速度に来た奴らは1人残らず木っ端微塵にしたと言うのに。)
童顔マッチョはこのままでは行けないと思い更に速度を上げる。
「最高速度だ!これに触れた所から骨は砕け散るだろう!さぁどうする錬金術師!」
物凄い速度の体当たりがユイトに迫り来る。
しかし、ユイトは笑っていた。
「いいね。…フルパワーを試すにはもってこいだ。」
そう言うと、ユイトは自身の強化スーツの操作板をいじる。
”フルパワーチャージ”
機械音がなりユイトのスーツは膨張し煙を噴出させていた。そのままユイトは拳を構えた。
童顔マッチョも自身を信じて止まず笑い顔で迫る。
「10万……」
ユイトが呟いたその次の瞬間に衝撃が走った。凄まじい衝撃で土でできた壁が弾け飛んだ。
土煙が晴れ目の前には童顔マッチョの胴体をユイトの腕が貫いていた。ユイトは貫いた腕を抜き取ると胴体から血が流れた。
「これで俺のフルパワーはある程度は有効だと証明できた。これのおかげで俺は戦える。……さて、もう出てきて大丈夫だぞ。」
ユイトは大きめな岩に向かって声をかけると、そこから薄汚い白い布だけで体を纏った人たちが現れた。
「さぁ諸君、約束通り復讐の機会を設けてあげたよ。武器は好きにとって構わない、存分にやって良いよ。」
そう言ってユイトは彼らの前に武器を構築して山のように置いた。彼らはその武器を取りゆっくりと童顔マッチョの周りに集まる。
「お…お前らなんで……牢屋から出てやがる…奴隷の分際でーーー」
ブンッと音が鳴ってその次にはグチャッて音が鳴った。
それは鈍器が顔面を叩きつける音で顔面の骨を少しづつ砕く音でもあった。音は絶え間なく鳴りやがて音が消えた。
「ホムやそこのおっさんは知らなかっただろうけどあいつらのアジトには盗品だけじゃなく奴隷も居たんだ。搬入先はグルス王国。彼らはその奴隷だ。」
ユイトはうずくまるホムの元へと向かい刺激しないようにゆっくりと背中に手を当てた。
「それにしても結構な人数の魔力を取り込んだみたいだな。多分、中じゃ暴れ回ってるんだろうな。」
ユイトはホムの現状を観察して言い当てる。
魔力の持たないユイトが何故そのような事がわかるのかは謎だが、それ以上にホムが緊急事態なので誰も気にしなかった。
「今のホムには変換機能は動いてない。変換して自分の魔力に出来てないことから、このまま放置すれば身体が爆散するな。」
ユイトはホムの肩を持ちゆっくりとだが立ち上がらせた。そしてユイトはちょっと申し訳なさそうな顔をした。
「今のままだとここら一帯を消しとばす威力を、ホムお前は持ってるんだ。方法は他に無い、悪いが頑張ってくれ。」
ユイトは片腕を握りしめ肘を引いてーー
ドゴッ
「うッ……お…おええぇぇ。」
ホムの腹へと拳を叩き込みホムは諸々吐き出した。
「吐き出せ、そのイメージなら魔力も吐き出せるはずだ。」
ユイトはホムの魔力の放出が出来ていないことから、強制的に吐き出させるために吐き出すイメージに最も近いものを選んだのだ。
そのおかげかホムは諸々吐き出すと同時に魔力も一緒に吐き出されていた。ユイトはホムを離しホムは再び前に倒れて吐き出しながらうずくまる。ホムが吸収した魔力はかなり膨大なため吐き切るまでかなりの時間を要するだろう。それまでの間ユイトは悩んでいた。
「さて、こいつどうしよっか。」
問題はここに倒れてるホムを守ったであろうおっさんだ。ただの善意で助けた可能性もあるだろう。
だが、そうでなかった場合は?
ユイトは自然と右手には剣が握られていた。そしてその剣を振り上げようとしたその瞬間。
剣は持ち上がる事は無かった。
「ホムお前。」
剣の刃を持つホムは地面に這いつくばいながらも信じられない力で握っていた。刃を掴む手からは血は出ていなかった。
「……魔力操作。」
「そ…その人……は…殺し……ちゃ…だめ。」
ホム自身も辛いはずなのだが、それ以上にこのおっさんを助けようとしている。
ユイトは考えられる可能性を思い浮かぶが、ホム本人がダメと言っているから始めから悩む必要もなかった。
「わかったよ。…もういいからホム、お前はもう寝ろ。」
「う…ん。」
剣からするりと落ちた手と同時にホムは頭を落としゆっくりと寝息をたてた。
ユイトも剣を分解して地面に膝をつけてしゃがみ込んでホムの寝顔を覗き込んだ。寝息を立てて眠る姿は完全に幼い子供のようだった。その寝顔にユイトも笑みが溢れてホムの頭を撫でた。
ユイトは再び奴隷達に向き合いボロ布から錬金術で一人一人に服を構築する。奴隷達は感謝を述べてそれぞれが歩き出した。それをユイトは見送り再びホムとバルザックの方は向いて。
「よし、一旦帰るか。」
ユイトはホムとバルザックを担ぎグルス王国へと歩き出す。




