グルス王国 3
貴族領は、そこまでは広いわけではない。だから駆けつけた冒険者達は元凶を見つけるには苦労しなかった。貴族の豪邸が破壊される音や先に挑んだであろう冒険者や騎士団、警備隊の気絶して倒れている方向に進めばすぐに見つかった。
ただ、進むにつれて逃げ出す者が増えている。進む先々に倒れている人の数が増えていたのだ。誰も死んではいないが全員気絶している状況に、相手は誰も殺さない実力を持つ者だと確信して倒れている人の中には自身よりも格上の冒険者も見受けられて、その者が気絶させられてるのは相手の実力は全く本気ではないことが伺える。
進むにつれて冷や汗が止まらず破壊の音と共に貴族や冒険者の悲鳴が聞こえる。
しかし、次の瞬間。
辺りは静まり返る。
不気味なほどに静まり返り冒険者達一行は各々武器を手に取る。辺りを見渡すが気配も感じず、魔力の動きも感じなかった。しかし、体の悪寒は一切消えずまるで常に見られているかのように感じていた。
ガチガチッ
震える体に擦れて音が鳴る鎧。その音だけがこの空間を支配していた。滴る汗に緊張感が高まる。
そして、その時はすぐにやってきた。
「で…出てきやがあああぁぁぁ…ぁぁ…ぁ。」
冒険者達1人が声を上げた瞬間に何かが通り過ぎて1人を連れ去り遠くのところで破壊音が鳴った。
「う…うわぁぁぁぁ!!」
冒険者達は恐怖のあまり走り出す。元来た道を走り出す。そして、1人また1人と後ろの人間から姿を消して冒険者達は気付けば片手で数えられる人数になっていた。
「ば…バケモノが!!お…俺が相手ーー」
ドカンッ
立ち止まれば相手の餌食となる。
だから、もう逃げるしか選択肢はなかった。
だからこそ、真後ろに居た存在に気づかなかった。
ガッ
後頭部を掴まれ男は地面から足が離れた。掴まれる頭は指が食い込むように掴まれて締め付けられるかのようだった。
「あ…ああ!!」
魔力の防御があるはずなのに締め付けられる力になす術がなかった。
「フ…”フレイム”!!」
冒険者は手のひらを相手に向けて魔法を放とうとするが、何も起きなかった。
「!?…な…何で俺の魔力が無くなったんだよ」
その言葉を最後に冒険者は壁に叩きつけられ壁にめり込み意識を失う。
「ふぅ。」
小さく息を吐きゆっくりと辺りを見回す。
冒険者達が倒れ伏して辺りは気絶した者の道が出来ていた。
ガラッ
建物が崩れる音が耳に届く。
ゆっくりとそちらを向くと隠れきれてない太った背中が崩れた壁から現れその男は震えていた。
この男は見たことがある。先程奴隷を連れて平民街を歩いていた貴族だ。
どうやら奴隷には逃げられ逃げ遅れたようだ。
この貴族領を攻撃して回って見たのはこの国の貴族という連中はどんななのか。同じ人間という種でありながら考えの違いからどこまで非道にもなれる。
全員が全員酷いとは言えないが、私は全て同じに見えた。中には一般からいい貴族というのもいるのであろうが、奴らは奴隷問題に対して黙認をしていて周りに敵を作りたくないという考えでいた。
本当に良い貴族ならば奴隷問題に異議を唱えて周りに敵を作ろうにも続けられるはずだが、そうしていなかったのは何らかの理由をつけて逃げていたからだ。
だから、私はこの訳の分からない衝動に身を委ねた。
そして、気づいたらこうなってた。
私は、歩き出し太った貴族の男の背中を掴み引っ張り上げて気絶した冒険者達の中に投げた。
「ひ…ヒィぃぃぃ!!た…助けてくれ!!」
周りの気絶している冒険者達を起こそうとするが全員の魔力を吸収したから起きるのには時間がかかるだろう。だから、助けは無い。
「少しは自分で何とかしようとは思わないのか?他人に頼ってばかりじゃ何にもできないぞ?」
胸ぐらを掴みデブを持ち上げ腹に1発ぶち込む。
ここでデブを気絶させないように加減をする。
「ぐぅ…痛い…痛いよぉぉ。」
「この程度で根を上げるな。ここを襲う前にお前の家を覗いたがお前の奴隷も同じ事をされてたぞ?」
地面に叩きつけてうつ伏せになった背中をゲシゲシと踏みつける。
「お前らは自分がやってたことを棚に上げていざ自分に回ってくると被害者ヅラするのは見てて腹立つな。」
今度は蹴り上げて遠くに飛ばしてデブは気絶した。
「………これじゃあ人は変わらないか。時間だしそろそろ向かおう。」
私は盗賊団を壊滅させるために歩き出す。
私は探し続けなければならない、平和への正解を。
国から一時的に離れ森を抜けた荒野に聳え立つ巨大な岩を採掘し建物に建て替えた盗賊団アジト。それがギリ見える森の端にバルザックは火を焚いてホムの到着を待つ。
「……これをあいつ1人でやったのか。」
バルザックの持つ情報端末に流れる最新情報は貴族領襲撃事件で大勢の怪我人を出し一人として死亡者は出ないという異例な事件として出回っていた。
事件の犯人を特定しようにも魔力で動いている監視カメラなどは軒並み魔力切れが起きていて特定作業が難航していると出ていた。
だが、バルザックはこの犯人はホムであると確信していた。
それでいてバルザックはその事について特に思うところは無かった。自身が背負う物はそんな小事に惑わされるものではないのだ。
「まぁいい、計画に変更は無し。絶対に証拠を見つけ出す。」
「そう意気込むのはいいけど1番大変なの私だからね。」
突然声をかけるホムに思わず驚いて戦闘態勢を取ったバルザック。
「なんだホムか。驚かすな。」
「フフ…ごめんごめん。で?私が今から囮として突っ込む場所はあれ?」
戦闘態勢を解くバルザックに小さく微笑むホム。
ホムは遠くに見える砦を見る。
「そうだが、態々真面目に戦う必要はない。辺りを逃げ回るでもいい。俺もなるべく早く証拠を見つける予定だ、そして作戦終了には緑の照明弾を撃つ。それを見て判断してくれ。」
「了解。ちなみに作戦失敗した場合は?」
ホムは冗談を揶揄うように言う。
「1時間だ。戦い始めて1時間経っても俺が出てこなかった場合だけだ。」
「わかった。1時間出てこなかったら全員倒してアジトに突っ込む訳ね。了解!」
ホムはそう言い終えると地面を蹴り盗賊アジトに跳んで行った。
「マジかよ。本当若い奴は話聞かねえな。」
悪態をつくがそれでも顔は笑っていた。
バルザックはアジト付近まで接近してその周りにいる盗賊の視線を掻い潜り壁の窓から入り込む。
それと同時に外の離れた場所が爆発し中に居た盗賊が一斉に駆け出しほとんどもぬけの殻となった。
順調な滑り出しでバルザックはどんどんと階を上がって行く。
途中壁に隠れ見回りの盗賊を特殊警棒を取り出し魔力を込めそして、後ろから首を絞める。
「悪いな。」
気絶した盗賊をロッカーに隠し再び階を上がる。
途中何度も見回りと出会うが全員絞め落とし確実に数を減らし屋上へと到着した。
特に罠もなく要塞として使われていたためそれが仇となっていた。まさか忍び込める奴がいるとと思っていなかったのだろう。
バルザックが到着したのはいかにも資料室のように紙がたくさん置いてある部屋だった。
「アイツら見た目に反して契約書とか資料を割と大事にするタイプなんだな。要らねえギャップだな。」
資料を一通り目を通して呟く。あらゆる情報誌や流通の手順契約書などの保管部屋としてこの部屋は紙の投げ込み部屋なようだ。
そして、探す事数分でバルザックは自身が探していた資料を見つけることができた。
「これだ。これさえあれば……外から音がしなくなった?」
自身が資料を探すのに夢中になっていた数分で外の音が静かになっていた。ホムが囮として盗賊団を相手に戦っていた時はいろんなところに打ち付けられてるのか、爆発に近い音が聞こえたのだが、それがいつの間にか聞こえなくなっていた。
バルザックは慌てて窓の外を見ると倒れている盗賊団とホムを囲む盗賊団の中心に倒れているホムが居た。
ただその時のホムの様子はただ倒れてるのでは無かった。ホムは蹲り身体を抑えて何かを我慢している様子だっだ。魔力を感じ取れるバルザックや盗賊団もホムから目を離せず近づけなかった。しかし、危険は無いと思ったのか盗賊団の男の一人が歩き出し剣を取り出しホムに振り下ろそうとしていた。
ホムからは膨大な魔力が感じられそれも、魔力の種類は一つでは無く複数の魔力が合体しそれによる拒絶反応に身体が動かなくなっていたのだ。
ここでバルザックは想定外の行動に出ていた。
窓から飛び出し着地からホムの元へと走り盗賊団を掻い潜り剣を特殊警棒で弾いたのだ。
(何やってやがる俺は……こいつに注目を浴びてる時こそ逃げるチャンスだってのに。)
自身でも驚く行動にもうやってしまった事を後悔するが、すぐに考えを切り替えてホムの前に立つ。
突然現れたバルザックに盗賊団は、全員が武器を取り出し一斉に走り出す。
流石に1対複数はバルザックにとって圧倒的不利な状況だった。
どうあがいても道連れにできて2人か運が良ければ3人でこの場においてはほとんど意味のない事であるが、だからと言って諦めてただやられるのは癪なので覚悟を決めて特殊警棒に魔力を最大に込める。
高らかに上げた特殊警棒を両手で掴み地面に叩きつける。そこのことにより地面が割れて砂塵が舞い上がる。
突撃してきた盗賊団は突然の砂塵に突っ込み一瞬だが呆気に取られる。バルザックは魔力を探知し盗賊団のメンバーを魔力を込めた特殊警棒で魔力に守られてる身体を、それ以上の力で叩き込む。
「そこか。」
相手が油断しているこの一瞬を逃さぬようバルザックは、さらに探知で別の盗賊団を見つけ距離を詰める。今度は横一線の振りかぶりで足を攻撃し相手を倒し蹴り上げ別の盗賊団のメンバーに蹴り飛ばし下敷きにする。
そしてすかさず次のメンバーの所は移動し上からの叩きつけで振り下ろそうと飛び上がる。
「とりあえずこいつで終いだ!」
一瞬で貯められる最大の一撃を込めて振り下ろす。
パシッ
そんな音が聞こえてバルザックは驚愕する。
振り下ろした特殊警棒は相手の脳天を確かに潰す威力がある一撃だったのだがーー
「舐めてんじゃねぇぞおっさん。」
次の瞬間に砂塵が吹き飛び辺りの視界が開けた。
目の前には童顔の顔をしていて、顔に似合わずおかしな筋肉をした大男が現れた。その鍛え抜かれた手の中にはバルザックの特殊警棒が掴まれていてバルザックはあまりのギャップや衝撃に持ち上げられた状態のままぶら下がってた。
「”アクア・ストライク”」
巨大な拳に水を纏いぶら下がるバルザックの腹に叩き込むと、水が貫通し弾ける。
体内では、自身の持つ水分が震えて体に衝撃が走り全身に痛みが広がる。水に押し出され体が浮きホムの元へと着地する。
「ガハッ…」
口から吐血し地面に手をつく。
砂塵が晴れたためバルザックとホムを盗賊団が囲む。
「うう…うううッ」
ホムは未だ身体を抑えて蹲り身動きが取れない。バルザックも言わずもがな、体の内部破壊の為体の中が暴れて脳からの電気信号がまともに届かず動けていなかった。
「へへへ…身ぐるみを剥ぐとしてどうしてやるか。」
「男は殺して女はアレだな。」
「へへへ…後が楽しみだーー「あ…どうも。」……あッ!?」
盗賊団の1番端っこに居た男の頭が飛んだ。
その頭は先程の童顔マッチョの背中に当たった。
盗賊団一同の視線はゆっくりと頭が飛んできた方向へ向かった。
「あ〜どうも、そちらのお二人に用があるものです。とりあえず退いてもらってもよろしいですか?」
その声の元はホムには聞いたことがある声で、その声のおかげで体の魔力の抑えが少しだが和らいだ。
男はフード付きローブを着ており顔は見えなかった。
「………」ジリジリ
しかし、この荒野そこまで熱いわけではないが日陰もないこの場所では流石にフード付きローブは暑そうだった。
盗賊団は頭を飛ばしたこの男に敵意を向け今か今かとタイミングを伺っていた。
そして先に動き出したのはフード付きローブの男だった。彼はローブを掴み勢いよく脱ぐと
「あっついわッ!!」
勢いよくローブを地面に叩きつける。
その際に現れた顔に全員目を疑った。
例え盗賊団であろうがその顔は知らぬ人間はいなかった。黒い髪に一部金髪メッシュに青白いライン模様が入った黒いスーツに袴のズボンを履いている。
服装については知らないが顔と紙の色は誰もが共通して覚えていた。
「…れ…錬金術師の弟子…ユイト。」
盗賊団の誰かが言った。
そしてユイトはにっこりと笑った。




