グルス王国 5
知らない天井を見て一言。
「知らない、天井だ…」
これは言っておかなければならない。
現在、ユイトに運ばれてグルス王国内の宿屋で私は安静をとっている。ユイトは私とバルザックを連れてこの宿屋に戻ってきて手当てをして私が眠っている間にバルザックと事情説明をして、今はバルザックが外で買い出しユイトはキッチンに立って料理をしていた。
「まさかユイトは料理男子の称号すらも取るつもりなのか。」
よくある女性の料理が壊滅的で対称に料理の出来る男子通称料理男子。そんなユイトが家庭料理を振る舞う料理男子としてモテようと思っているのか。
重たい体を持ち上げて歩くのが辛いので這いずってでも確かめなければならなかった。
トントンとまな板を叩く包丁の音が鳴り響き、ジャワ〜っというなんか焼いてる音がキッチンから聞こえていた。
こ…これは、マジで料理できる人の音。まずいぞ、キャラクターが好感度上げようと必死になってる。これは…これは大衆に埋もれる存在となるぞ。非常に危険だ!
「ん?ホムか…待ってろもう少しで飯ができるぞ。」
這いずっていた音が聞こえたのかユイトは振り返り私に言う。
し…しまった。キッチンで振り向きも媚びに入るぞ!多分!
「よし…後は待つだけだ、ホム席につけるか?」
ユイトはこちらに来て動かない私を持ち上げて席につけてくれる。
クソッ…優男アピールも来てしまっては媚び媚びじゃないか。正直ここまで媚びてると虫唾が走る。
「ほら、もう少しでできるから待ってろ。」
トンッとユイトは私の前に料理を置いた、料理の匂いが私の鼻をくすぐりいい匂いだった。この匂いはしょっぱい匂いで嗅げば腹の虫が鳴る。
目の前に置かれる箸を手に取り気付けば手を合わしていた。
「いただきます!!」
自然と出た言葉。私の本能が叫ぶ、これを食せと。
目の前のカップラーメンを!!
「……………」
「そう言えばホム、お前貴族領で結構やんちゃしたみたいだが……よくやった。」
「……………」
「怒られると思ったか?…残念、そうじゃ無いんだよな。俺らの目的はこの国の王を殺す事、それすなわちこの国を滅ぼすと同じ意味でもある。その点だと今回の貴族領を攻撃したのはいい囮となってくれた、これでこの国の騎士団とか殆どが貴族領の警備に当たるだろう。このチャンスをしっかりと使わない手は無い、警備の手薄な国王の城は侵入し放題ってわけだ。」
「……………」
まずい、ユイトがめっちゃ話してはくれてるけど、さっきキッチンではカップラーメンに対して何を切って炒めていたのか気になりすぎて話が一ミリも入ってこない。
「さらに朗報で、今週に地下下水道の探索と討伐任務があるため国王の城にも侵入できるってわけだ。まぁ、その日に突入するわけじゃなく城の調査をメインとするから気負う必要はない。」
「……………」
カップラーメンうまい。
「国を滅ぼすって聞いてそこまでする必要はあるかって?」
言ってないんだけど。
「……………」
「確かにやり過ぎな感じもしなくはないが、国王の死ってのはこの世界じゃ滅ぶと同じなんだ。7つの国はほぼ均衡状態でこの千年やってきてそのバランスが崩れれば弱いところから攻撃される。弱いものいじめをして得るものがあるってわかっていてやらないわけないだろ?俺ら人間なんて何年経とうがその考えから抜け出せない弱い存在なんだ。全く醜いったらありゃしないな。」
随分と偏った見方してるけど分からなくもない。全員が全員そうだとは言えないが、虐めだったら虐めることによる快楽を得られる。そんなことする奴は時が立ち自身の罪悪感に押しつぶされながら生きていけばいいのに。
ああ、嫌なこと考えた…カップラーメン美味しい。
「…………」ズルズル
「まぁ、後のことなんてわからないし、滅んだ後どうするのかはそこの人たち次第だ。俺らはただ国王を殺すだけ、深くは考える必要は無い。」
………………
「そういえば…ズルズル…ユイトの…ズルズル…目的って何ですか?」
あ…思考と発言逆になっちゃった。まぁいいや聞かなきゃって思ってたし。
「ん?前にも話したろ?7人の異世界人をぶっ殺して7つの宝玉を集めて魔王を復活させるんだ。そして元の平和な世界を作るんだ。」
そうそれはあった時に聞いた話だ。だけど、私の聞きたいことはその先についてである。
「そうそう、そしてその後ユイトは何をしたいの?平和にしたいってのは目的だけどその後についても聞こうかなって。」
「平和になってから?………難しいな、千年も時間があってある程度のことはやったから特に無いかな。」
ユイトは悩むが特に無いと言う。それはちょっと寂しいと思うがその時になってじゃ無いとわからない人もいるだろう。
「ちなみにホムは?」
「私はひたすら美味しいものを食べ続けます。未知なる味を探究し続けます、それには多分終わりはないので。」
そう終わりのない旅を私は続けたい。まぁ流石に1人は嫌なので誰かを道連れにしよう。
「終わりのない旅。異世界行くたびに人はいたけど基本は1人だったこの千年間は時々つらく思った。誰かと一緒だったらどうだったのかな。」
ユイトの千年に及ぶ旅は終わりの見えない旅に見えたのだろう。結構残酷な話だ、終わりのない旅を始めていつ来るかわからないスタートをユイトは待ち続けた。そんな狂気の世界を生きたユイトはまともに見えてどこかネジが外れてるのだ。
「たらればは、良くないよ。自分が選んだ道に後悔はあっても決めてしまったのだからそこから生きていかなくちゃ。人生は生きるか死ぬかの2択なんだから。」
「ほぼ生まれたてのホムンクルスにそれを言われるとは思わなかった。」
「私だって日々生きてるし成長してますから。」
「食事量については成長しないで。」
「それは無理。」
話は自然と終わり私に眠気が襲いベットに再び戻ることにした。ユイトはまだ作戦までには時間があるから休んでていいと言ってくれた。
ベットに入った私は、ふと思った。私は何故この時代で起こされたのだろう、何のために生きているのだろうと。
難しいことは考えると眠くなる。
私は静かに意識を落とした。
ホムが寝静まり俺は考えていた、その後についてだ。
ホムに言われて自分自身でも気にはなっていたのだ。確かに長い間、魔王復活という出来るかも分からない目標に向けて向かってきたからその後のことを考える余裕はなかった。俺には何があるのだろうか、その後にしたい事って。
「………俺は何がしたいんだろうな。」
正直悩むなんて久しぶりだった。毎日不安で俺に異世界人を殺すなんて大それたことが出来るかわからなかった。教えを守って毎日毎日鍛錬して不安を疲れで押しつぶしていた。
誰かとその話をして共感なんてされるわけないから、孤独に感じていた。その時ふと窓の外を見てみた。
窓の外の向かいの店ではスイーツ店なのだろうか、カップルがずっと食べさせ合いをしていた。
「…………彼女欲しい。」
まさかのやる事見つけてしまった。
しばらくしてバルザックが食材を買い出しから戻ってきて、そのタイミングでホムも起きた。
調理に買って出たのは意外にもバルザックで、手先が意外にも器用で魚を捌いて刺身を綺麗に並べる。魚に小麦粉をつけてバター焼きにしてムニエルも作った。そしてそこに炊いたご飯に箸を置いて一食分を作った。
「おおお…美味しそう!」
「見た目よし、匂いよし、後は味だけど絶対美味いな。」
「1人だと自炊が嫌でもやるからな。どうせ食うなら美味いもんって決めて色々と調べて作ってたんだ。」
好評な意見にバルザックも多少は喜んで席に着く。
「まぁ色々迷惑かけたからな、存分に食ってくれ。話も食ってからでいいだろ、飯を不味くはしたくないしな。」
「そうだな、取り敢えず。」
「「「いただきます」」」
3人はそれぞれ箸を持ちそれぞれ食事を始める。
刺身を醤油につけて口へと運び噛むと柔らかく一緒にご飯も入れる事により炊き立ての暖かさとひんやりした刺身の食感が俺は好きだ。
ムニエルも匂いが良く皮も良い焦げ具合で塩味が良さそうだ。
柔らかく塩味のある皮にバター風味の身が柔らかく口の中で溶けるようになくなる。
「美味しい!!」
「うん、美味いなこれ。」
ユイトとホムは絶賛しながら箸は止まることはなかった。
バルザックも自身で作った料理を味わいながらしっかりと食べる。この時3人は目の前の食事に楽しみ幸せな時間を過ごした。
「…さて、腹も膨れたし話してもらおうか。元警備隊隊長バルザックさん。」
ユイトはどこから取り出したのか紙束を机の上に取り出した。ユイトの言葉に1番衝撃を受けたのはホムだった。
「え?…元団長?団長じゃなくて?」
「騙してて悪かったな。そこまで調べたなら俺の目的も知っているかとおもうが。」
バルザックは一瞬は驚いたが再び冷静になり呼吸を元に戻した。魔力や力は弱いがこのメンタルはずば抜けて良いようだ。隊長になれたのもこのメンタルのおかげだろうな。
「まぁ、調べる時間と金はあったからな。目的はおおよそかな、だから本人から直接聞きたいんだ。」
「はぁ……俺の目的はこの国の大臣と騎士団の政治的、社会的な抹殺だ。だからあいつらを潰す為に証拠となる物を見つける為郊外の盗賊団のアジトを狙ったんだ。」
バルザックは観念したように答える。
それから警備隊を外された理由について、当時盗みを働いた泥棒を捕まえるとその男は自分のバックにはでかい奴がついているから解放しろと言われてバルザックは、その男をボコボコにして名前を吐かせた。
「出てきた名前はこの国の大臣のグレゴってクソ野郎と騎士団長のカルマって名前だった。この国じゃビック2だな。地位で言えば国王の次だと思って良い。」
ボコった盗賊は警備隊の地下牢に入れていたが次の日には奴は自殺していた。名前を言った事に対しての恐怖か、はたまた密告者がいるかわからずじまいだがな。
俺ら警備隊はこのことを聞いてからどうにかして証拠を調べようとした。俺らの隊は思ってたよりバカが多くて
そこからは早かったよ。不当解雇に警備隊そのものが潰れちまって俺もその1人。
バルザックは持っていたコップを握力で割る。
「警備隊が解雇や解散になるのは百歩譲ってよしとしよう。だが、口封じのためにガキの出産を控えてる一家を諸共虐殺したのは我慢ならねぇ!大臣や騎士団長ってのはそんな事が許されるくらい偉い存在なのか!だから俺は奴らを陥れるために大衆に知ってもらうために活動してるって訳だ。」
「………」
バルザックの話を聞いて俺ら2人は黙った。俺は今の話に違和感を感じていたがそれを無視することとした。こいつの話は嘘であれ本当であれ本人が話してくれなくては真実は知れない。それに今はそんな事はどうだって良いから。
「俺らは次の下水道掃討作戦にて国王の城に侵入して国王の居場所を確認次第その次に作戦を実行するつもりだ。」
「は?…国王に喧嘩売りに行く気か?」
バルザックは俺の話を聞いていたのか?という顔で俺に尋ねた。まぁ、こいつからしたら異世界人の国王ってこの国じゃもはや伝説扱いで圧倒的な存在だ、そんなやつに俺は喧嘩を売ってさらに始末しようと思っている頭のいかれた奴だと思うだろう。
「お前ら知らないのか?国王の伝説を。」
500年前の話だが、当時は魔力がようやく一般化されたがギルドも無しに魔力の実力で成り上がれた世界で国王達と同等になりたい欲望から7人の王が生まれた。その者たちは力で成り上がり自分たちの国を作り反映させた。そして王達は己の力に過信をし彼らは国王達を排除して世界を支配しようと企み挑むがーー
「結果は火を見るよりも明らか、王たちの前に傷一つつかずその存在を消滅させた。それ以降から国王達は英雄であり支配者であると認識ぜざる得なかった。」
「めっちゃ強いんだね。王達がどれくらい強いのか知らないけど。」
バルザックの話にホムは率直な感想を述べた。この話については俺も知っていた。相手のことを調べるのは当たり前だからな。
「当時の王達は今で言う冒険者のG級の三つ星と同等らしいぞ。」
俺の調べた限りの情報だが、まずその認識で間違いないと思う。調べた時そんな化け物が傷一つ付けられないのはちょっと自信無くしかけたけど。
「……会ったことない人たちの話されても分からないよ。」
まぁ、ホムはそうだろうな。
「まぁ、俺はそれを聞いてもやるけどね。てか、やらなきゃいけないことだから。」
1000年もかけての長い長い目標だったから、今更辞められるわけがない。
「頭いかれてやがる。命がいくつあっても足りないような事に俺を巻き込むな。」
バルザックは席から立ちこの場からさろうとするが、それをユイトは許さなかった。
「悪いけどこの話聞いたからにはもう既に降りる選択肢は用意されてないんだ。
机に置いていた腕を上げて人差し指と中指を伸ばして魔法陣を作りバルザックの目の前に剣を構築し突きつける。
「……てめぇ!」
「さっきも話したが俺は錬金術師のユイトで、異世界人である国王を殺す事が第一の目標としている。そしてこの話はあんたにとっても不易な話ではない。ついて来れば必然的に国王の城に入れて必要な証拠が見つかるはずだ。盗賊団から取ったやつだけじゃない足りないんだろ?」
「全部お見通しって訳か。」
「全部じゃないけどな。あんたが本当の理由を話さない理由もわからないしな。」
バルザックはユイトの言葉に反論できず何も言わない。
そんな中、ホムが歩き出しバルザックの背中に突きつけられている剣を叩き落とした。
「もう!2人とも私を置いて話をし過ぎ!蚊帳の外すぎて普通に寂しかったです!」
ホムの言葉に場の空気が一瞬にして柔らかくなって2人は気が抜けた。
「大体2人とも利害が一致してるなら協力しなさい!それが嫌なら互いを利用すると思いなさい!!」
腕を組み地団駄を踏んでプンプンと効果音が見えるように怒るホムには、本当に気が抜ける。
「……侵入作戦はさっき話した通り、下水道の掃討作戦の日な。集合場所はここで。」
「わかった。」
そう言うとバルザックは扉から出て行く。
「うんうん、平和が1番」
これからやろうとしてる事は平和と反対の事なんだけど。
全くホムには敵わないな。




