グルス王国 6
下水道掃討作戦当日。
作戦は朝から夜まで1日かけて行われる。下水道にいる魔物の繁殖力は異常で月一で掃討しなければ下水道が溢れかえると言うほどの繁殖力を持っていた。
これだけで住む物件としては最低最悪だが、この国の騎士団並びに警備隊は優秀で一匹も漏れた事は無いと報告しており市民は平和に暮らす事ができると言う。
著『グルス王国について』より一部抜粋。
「いやいやいや、よくこの紹介出来たな!こんな危険な国に住もうと思う奴の気が知れないよ。」
私は読んでいた雑誌を机に叩きつける。
「まぁ、飯だけは美味いからな。そこさえなんとかなってればって頭のイカれた連中が住むのがここだ。」
ユイトは紅茶を飲みながら私の問いに答えるがバルザックはすぐさま
「偏見が酷すぎるぞ。料理をこよなく愛する人々と言え。」
「言い方変えただけで根本は否定しないんだ。」
「そんな事よりも侵入場所について話すぞ。」
コントを早々に終わらせてユイトは図面を広げる。
地図には国の地図と下水道の入り口の位置から下水道内の全体図が表されていた。
「ここ最近で集めた情報を元に奴らの配置図と移動ルートを書いといた。出来れば相手とは接触せずに進んで目的を達成したいからなるべく接触の無いように進む必要がある。そして、移動ルートを割り出した結果この何も書かれていないルートを進む。」
ユイトの示したルートは入り口からこれまた綺麗に真っ白に続いており私はすぐにーー
「うわっ100%罠じゃん。」
この言葉を零す。うん、でも誰が見たってこれは罠だってわかる。
流石のユイトもこの事くらいはわかっているだろう。
「…………あ…ああ、100%罠だ。」
「………」
「………」
1発で空気が重くなった。
「ま…まぁ、入り口は確保できたんだ。帰り方はいくらでも方法はある。まずは潜入してそれぞれの目的を見つけてから考えよう。」
ユイトは急な早口で説明してゆく。こいつ千年間何してたんだよ。
「…下水道だとどんな魔物が出るの?毎月掃討しても消しきれないなんて普通にやばい奴じゃない?」
流石に私もこの空気には耐えられなくなったので話題を変えようとしたが尚更空気が悪くなった。
「……奴の姿にはモザイクがかかる。名前を言ってはいけないアイツだ…それとドブネズミ。あと多少巨大化してやがる。」
「………聞かなきゃよかった。もう行きたくない。」
参加したことのあるバルザックはそいつについて話してくれたが、私はそれを聞いたことに本当に後悔した。入ってからなら仕方ないと割り切れるが、入る前に聞いてしまった事に私は一生後悔するだろう。
「…もうそろそろで作戦が始まる。警備兵がいなくなる頃だ。」
下水道の入り口は普段は警備兵がいるのだが、作戦開始時には周囲の巡回で入り口からは離れるため
「ねぇ?夜に侵入する手はなかったの?」
「あいつらの夜行性だからそれは辞めといた方がいいぞ。暗闇で気づいたら囲まれてるぞ。あいつに」
「…さっさと行きましょう。」
絶対に今の想像なんてしない。
逃げるように立ち上がり扉を開けて出ていく。
「あいつ結構虫が苦手なんだ。」
「だろうな」
2人の会話も耳に入るが私にとってはどうでもよかった。
下水道入り口付近にはあまり人はいない為、潜入にはもってこいの場所であると同時に明らかな罠にも見えた。
他にもこの入り口から入れば沢山の魔物が現れる為、危険だから入らないと言う説もあるけれど、どれをとっても私にとって最悪な理由である事に変わらない。
「うう……臭い」
そして、何よりもこの臭いだ。この異臭に耐えなければならないのが本当に嫌だ。ここから出てもしばらくは体に匂いが染み付いて最悪だろう。
今からでも遅くはない別の方法でーー
「いい加減諦めろ。他と比べれば1番マシな侵入方法だぞ。」
「いやだ〜!臭い暗い気持ち悪い〜!!」
ユイトに服の襟元を引っ張られてズルズルと連れていかれる。この恨み忘れないからな。
下水道の中は当然ながら暗くて臭い。端を歩いて踏むたびにぐちゃぐちゃと音の鳴る地面を歩く。
「ん?……団体様の到着か。」
はじめにユイトが気付いて視線を向けた。
その声に私も反応して先に視線を向けるとその先にカサカサと沢山の音が聞こえた。
「じょ…冗談でしょ。」
蠢く黒いそいつは、1匹や2匹ではなかった。
蠢くそいつらは壁や地面を這いずり回り狭い下水道を所狭しと隙間なく迫って来る。
そして当然ながら
「ぎゃああああぁぁぁぁぁ!!!」
「戻るな戻るな。ここまで来た意味ないだろ。」
この時の事を私はのちに語る。
「マジでユイトくたばれ。」とそう語った。
蠢くそいつらは一応モザイクがかかってその姿はわからないが、音だけで鳥肌が立つ。
「あまりデケェ音を立てると他の奴らに聞かれちまう。かと言って逃げるとこいつらを外に出しちまうからな。こんな時こそ頼むぜ、錬金術師。」
「最初からそうするつもりだ。少し離れてろ。あと、こいつ頼む。」
ユイトは私をバルザックに投げて手を合わせる。
合わせた手のひらには、青い魔法陣が出来て今度はそれを手の中でおにぎりを握るように丸める。すると、青い魔法陣は白いに変色していた。
「セット、発射」
ユイトは人差し指と中指を黒いやつらに向けて発射した瞬間にその魔法陣は消えてしまった。
「……え?……雪?」
次に見た光景は、下水道の中では基本見ることのない雪が降っていた。
それと同時に黒いやつらの動きは止まっていた。
降り注ぐ雪に触れた黒い奴らの表面は白くなり辺りが凍り活動を停止させた。
「悪いけどまだ前に出ないでくれ、あの雪に触れると俺らまで凍るから。」
ユイトの忠告に足を止めるが、それ以上に錬金術の凄さに驚いた。
下水道という狭い空間で簡単で派手な技を使えば大勢の敵には有効だが周りを破壊したり大きな音が鳴る為この状況では使えなかった。
しかし、ユイトは大勢を倒し尚且つ静かに倒すということをやってのけた。特に本来魔法であれば術を使うに命令式を組み込む為大技にはそれだけの命令式を入れなければ発動しないため時間がかかるのだが、ユイトはほぼ一瞬で大技を発動させた為、錬金術の発動速度とそれを可能にしているユイトの頭脳の伝達速度に圧倒されていた。
「よしっ終わり。さぁ行くぞ、道中こいつらを触るなよ…こいつらの生命力的にまだ死んでないから、凍らせて呼吸器官を潰したからいずれは死ぬけど、今触れると氷が壊れてアイツらが暴れ出すぞ。」
無数の奴らを凍らせて辺り一面を白くさせた錬金術に私たち2人は完全に見入っていた。
そもそも、魔力と錬金術の違いは何か。
今まで見た限りでは、1人につき一つの属性を持つのが魔力で、知識さえあれば創造できるのが錬金術と私の中ではそう思っていた。
しかし、それとはレベルが違いすぎた。魔法は自身の魔力を使い相応の量を使うに対して錬金術を使ったユイトは一切息を切らしていなかった。
その姿からは有限ではなく無限にも感じられる。
この力の源は一体なんだろう。
凍った奴らを避けながら通り下水道の中を進むと今度は開けた場所に辿り着いた。
特に天井は高くマンホールと繋がっていたはずなのだがーー
「太陽の光が入ってこない。……ああ、だからここは誰もこのルートには入らないのか。」
「まぁ、俺は知ってたが本人が入ってから知った方が覚悟できるって言ってたからな。」
「マンホールから出ないってことは、地上にはなんらかの魔法がかかってるのか。」
「ああ、魔法の上に騎士団所有の施設で厳重に管理されてる。」
「…………」
彼らの話で私は理解をすると同時に考える事をやめた。
まさか、一面全てをモザイクかけるとは私も予想外だった。
「ん?でも襲ってこないな。」
「こいつらは巣を守るだけだからな、刺激しなきゃ襲ってこねえ。」
「さっきのは侵入者撃退的なポジションか。」
「…ねぇそんなのいいからさっさと進も、もう限界だから。」
まだ話をする2人に私はもう限界だった。
するとユイトは赤色の錬金術を発動させて壁の至る所に貼り付けはじめた。
「もしもの時のために設置だけはしておこう。無害だが使い道はある。」
ユイトはそれだけ言うと設置を終わらせて再び下水道を歩き出す。
その後は目的地まで特に何かと遭遇するわけでもなく進み続けた。
「もう少しだな。ひどい匂いに混じってるが血の匂いがする、城から垂れ流れてるな。」
ユイトが突然言ったその通りに、下水道の流れる水に少し赤いものが流れてた。
「なんで血の匂いとかわかんの?気持ち悪。」
「さっきの仕返しとばかりに口悪くなったな。」
当然の報いよ。
「おおよそここら辺に城と繋がってる場所があるはずだ。」
「下水管を見つけてどうすんだ?人が入れるほどデカくねえぞ。」
「俺を誰だと思ってやがる、錬金術師で下水管くらい簡単に広げられるわ。」
それぞれが血を垂れ流す下水管を探し回る。
「見つけた…うわっ本当に小さい。それにすごい臭い。」
たら流れる血液を流す下水管を発見した私は、あまりの異臭に鼻をつまむ。
「この先は噂だと、奴隷の実験場らしいな。まぁ、盗賊団が奴隷を仕入れていたことで現実味を増したな。」
ユイトは不気味なことを言いながら錬金術で下水管を広げる。広げ終えた下水管は人が通れるのに十分な大きさでユイトはいの1番に入る。その次にバルザックも入ってく。
「だからなんでこんな汚い場所に直ぐ入れるわけ?」
なるべく周りを触らないように私も下水管に入ってく。
暗い道にユイトを先頭に進んで行く。足元も見えないのにユイトはサクサクと進み、時々地面が欠けたりとしていたらユイトは注意してくれる。
ちらっと一瞬見えたユイトはなんかゴツいゴーグルをかけていた。
「おっ…ようやく着いたぞ。」
ユイトはゴーグルを外して上についている排水溝を覗く。
「まだ看守が居るから出れないな。」
「気絶させればいいじゃん。」
私はもうこんな汚い場所に1秒もいたくはない。
「厄介ごとはごめんだ、今回は誰一人として殺すことなく気付かれないが目的だ。」
ユイトは私にも分かりやすいように教えてくれるが、罠に飛び込んでる時点で気付かれないは無理なんじゃないかと思う。
そんなことを思っていたら、看守たちの声が聞こえた。
「おい!起きろ!!今日はお前の番だ!」
「い…イヤだ!!隣のやつもその隣も行ったきり帰ってきてない!」
「当たり前だ、お前ら犯罪者には拒否権なんて無いんだよ!この国の法が全てだ!」
「犯罪ってただの食い逃げだろ!もっと悪い奴はたくさん居るだろ!」
「いや、犯罪は犯罪だろ。小さい犯罪だろうがルールを破った奴は全員同じ罰を受けると観光案内にも書いてあるくらい公言してんだろ。それすら守れない奴には人権は無いんだよ。」
「い…いやだぁぁぁぁぁ!!」
看守は罪人の髪を掴み引きずって連れて行く。
扉の閉まる音が聞こえてその場は静まり返り人気が無くなった。
ユイトはそれを見計らって下水管を広げて開ける。
下水管から出ると檻の中にいた、幾分か空気はマシになったがそれでも牢屋はあまりいい匂いはしなかった。
ユイトは直ぐに牢屋の扉を開け外に出て周りを確認しに行く。
私は牢屋を見渡すと、壁のコンクリートに書かれている文字を読む。
「たすけて…たすけて……たすけて…そればっかり。」
血文字で書かれたりコンクリートを削って書いたりとどうやら随分と多くの人がここに連れてこられたのだろう。
そうこうと考えているとユイトが沢山の巻物を持って戻ってきた。
「どうやらここにいた奴らは大小構わず犯罪を行なった人間と奴隷が中心だったらしい。…てなわけでこの巻物全部証拠な、バルザックあとよろしく。」
ユイトは持っていた巻物を全部バルザックに渡してまた牢屋から出て行った。
「お…おい!一気に投げるな。」
受け取った証拠書類を亜空間収納バック(拡張した収納バック)に詰め込みユイトの後をついて行く。
私は牢屋を再び見渡すと先程とは少し違った景色を見ていた。魔力が見えるようになってから私は特に人の感情に敏感になっていた。
牢屋に見える複数の残滓は恨み辛みとどす黒い感情が蠢いていた。中でも恐怖の感情は最も多く感じ取れていた。
そして私はゆっくりと扉を閉めた。
連れて行かれた罪人の後をユイトは追いかけ天井近くに足場を作ったりしてバレずに尾行ができた。
連れて行かれた罪人は大きな扉の部屋に連れてこられて重々しく開く扉に吸い込まれるように連れて行かれた。
そして再び開かれた扉から看守2人が足早に逃げ出すようにその場を離れた。
ここで少しおかしな感じがした。あの巨大な扉に近づくほど体の力が抜けて行くのである。少しずつだが明らかに体が不調を訴えていた。
そして辺りは不思議なくらいに人がいなかった。
このエリアをユイトは探知したがこのエリアから2ブロック先まで護衛がいなかったのだ。
「まぁ、護衛がいないのは好都合だ。降りるぞ。」
ユイトはそう言って飛び降りて巨大な扉の前に降り立つ。
私も飛び降りようとしたその時、先ほどから声を発しないバルザックの方を向いた。
それと同時にバルザックが頭から落下して行った。
「!…バルザック」
私は落下するバルザックを追うように飛び降りてなんとか追いつき抱えて地面に着地した。
バルザックの様子を確認すると彼は息切れに近い状態で疲労していた。
「魔力欠乏症だ。」
ユイトはバルザックを見ることなくそう答えた。
「やっぱりこの先にいるのはあいつか。」
ユイトは扉に手をかけ少しだけ開ける。
「…ッ!!」
開けた扉の隙間から私が1番に感じ取ったのは恐怖だった。鳥肌が止まらずその大きさに飲み込まれそうになった。
「ホム…こっちを見ろ。」
グイッとユイトが私の頭を掴んで自分の方へと向ける。
その瞬間に恐怖は少し和らいだ。
ユイトは私の異変をいち早く察してくれた。頭に乗る手のひらからユイトの暖かさを感じて少しずつだが落ち着きを取り戻した。
「あまり無理すんな…今回は言った通り潜入調査だけだ、事を始めるにはまだ早い。」
「………」
ユイトの話に私は無言だがしっかりと頭に叩き込む。
「だが、これから相手する奴の姿くらいは見ておけ。俺とついて来ることはこいつらを相手しなきゃならないんだ。」
「………うん。わかった。」
まだ恐れがある中、私は勇気を振り絞った。
だが、扉を開けた先の惨劇を見て私はーー
「やっぱり見なきゃよかった。」




