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眠れる森のホムンクルス  作者: 鼻眼鏡26号
12/19

グルス王国⑦


グチャッグチャッ


その音が部屋に響く。

その音の元は何度も何度も音を響かせる。

決して狭い空間ではない大広間のように広く大きくよく響く窓のない密室空間。光は天井のシャンデリアが煌々と照らしてしっかりとこの空間を映し出していた。




真っ赤な壁に真っ赤な地面、そして真っ赤な液体とそれを流れ出す物体がちらほらと地面に落ちていた。

部屋は鉄の匂いで充満していて、当然ながら気分が悪い。

そして、先ほどからずっと物音を立て続ける中央にいる巨大な肉塊。


「暴食の王。」


ユイトが私の後ろでそう呟いた。


バタンッ


その音とともに扉は閉まってユイトはバルザックを担ぐと来た道を引き返す。

隠れながらでも行きより帰りの方がスムーズに動けてあっという間に牢屋へと戻ってきたのだ。


「情報や証拠、そして俺の目的である奴を確認したから今はもうここには用はない。さっさとずらかるぞ。」


「………あれが、この世界を救った異世界人なの?」


私の言葉にユイトは足を止めた。

今すぐ逃げなければいけないが、聞かなければならない。


「……ああ。」


私の問いにユイトは短く返す。分かっているのだろう、ユイトは私の言いたい事に。


「どこで狂っちまったんだろうな。」


ユイトのその言葉に珍しく感情がこもっていた。

それ以上は話を聞けそうになかった。


「先に降りる。」


ユイトはバルザックを抱えたまま来た穴から飛び降りてその姿を暗闇の中へ消していった。

私はこの独房を見てさまざまな感情を感じとってどんな事が行われていたのか容易に想像できた。


「ん?」


そして、ふと独房のベットの下に光が反射する物体を見つけた。

それを拾い上げるとそれは容器に入った水だった。

ただの水なのだが妙に引き寄せられる感じがした。


「ホム!早く降りてこい!」


「ッ!わかった!」


水の入った容器をポケットに入れて私も穴に飛び降りた。



再び降り立った下水道はひどい臭いでまた鼻が曲がりそうだ。ただ、さっきみたいに騒いだりはしない。

静かに足元の水溜りの跳ねる音だけが反響する。

歩き続けて気がつけばすでに出口が近かった。


「悪かったな…ホム。」


「?何が」


ユイトの突然な謝罪。

全くもって意味がわからない。


「今回の作戦を話した時。お前はこのルートは明らか罠に見えるって言ってただろ?……流石に俺だって知っていたさ。」


「……じゃあ、それをわかった上でここ選んだって訳?」


「ああ……理由としては、あいつがどんな姿であれ俺は見るだけでイライラが頂点に達するから発散場所が欲しかった。」


「ってことは今のところは全部予定通り?」


「まぁな。」


私はユイトのことをよくは知らない。

目的や歴史を教えてくれたり、戦い方も教えてくれたがユイト自身の事はまだ教えてもらっていない。

だからまだ隠し事をされる。

ユイトと私の力の差は天と地ほど違うのは目に見えている。その差が縮まない限りユイトからの信頼は無い。ただの駒としか見られないだろう。


「信頼はしてるよ。」


ユイトの突然な言葉に私は体を震わせた。


「錬金術って相手の考えまで読めるの?」


「そんなわけないだろ。ただわかりやすい表情してたからな。…それに俺の事について話さないのは単に気分が乗らないからな。」


「……やっぱり読めてるでしょ。」


「……近々話すよ。」


そこから会話は無く再び静寂が訪れる。

出口の光が差し込む下水道出口付近で、ユイトに担がれていたバルザックが目を覚ます。


「……ん?どうゆう状況だ?」


「あ、起きた。」


バルザックは目を覚ますと周りを確認して記憶のあるまでを思い出す。


「確か城の中を進んで…突然目眩が……」


「…それは王の力のせいだ。…奴らは魔力を吸収して自身の力に変える。この世界の住人からしたら天敵で絶対に敵わない相手だ。」


「そんなのと戦うつもりなのか。」


「俺の人生賭けた戦いだからな。」


バルザックはフラつきながらも立ち上がり歩き出す。

こうして3人は下水道の出口から脱出することができた。

そして、案の定出口で張っていた騎士団と警備隊に囲まれた。


『あ…あーテステス、さっさととっ捕まえるつもりだが形式上やらなきゃならないのでやるが、武器を捨てて今すぐ投降しろ。今なら侵入罪で50年の懲役にしてやる。』


騎士団のリーダーと思わしき男が拡声器を使って脅しをかけてくるが、そんなものにどうでも良いとばかりに騎士団は殺気だっていた。

そんな中、逆に警備隊は動揺を隠せなかった。


「お前ら…」


元警備隊の隊長であるバルザックを相手するには当然ながら警備隊は動きづらいだろう。


「懲役50年って子供か!これ法律考えた奴絶対バカでしょ。」


「まぁ、捕まる事はないから気にしなくてもいいんじゃね?」


そんな事を一切気にしないこの2人の空気でシリアスがぶち壊しだった。


『あーあー、あとバルザック!お前のやろうとしてる不正の公表も新聞社全てに圧力をかけたから出回る事はないぞ!…証拠としてこれも見ておけ!』


騎士団が拡声器で声を発すると同時に布で包まれたボーリング球程のものを投げた。

それは数回バウンドしてゆっくりと転がり俺ら3人の前で止まりその布は風で解けた。


「ッ!こいつはーー」


「うえっ…これはお子様には見せられない。」


「絶対に深夜枠だな。モザイクは黒い球体で。」


バルザックが反応してその生首と騎士団を交互に見る。


「おおよそ、リークしようとした新聞社の人間か?」


「ああ、こいつに情報を渡して公表するつもりだった。それもこいつとは一度だって直接話した覚えはない。」


「って事は、結構見られてたんだな。」


バルザックも結構裏の社会には詳しいはずだから、連絡手段も徹底していたのだろうが、こいつらはさらに徹底して見てたんだろうな。


「だが、そんなの関係俺には関係ないからな。皆殺しの方向でー「警備隊!隊長を逃すぞ!!」……はい?」


錬金術を展開させて戦闘態勢を取ろうとした矢先に、そんな掛け声と共に警備隊が騎士団に立ち向かった。



「お逃げください!隊長!!」


「バルザック!早く逃げろ!」


「お……お前ら」


特殊警棒を取り出した警備隊は一斉に動き出し騎士団へと向かう。その姿にバルザックがいかに慕われているのかは一目瞭然だった。


『どうやら揃いも揃ってバカが多いようだ…なッ!』


拡声器を捨てた騎士団1人が剣を抜いて一振りしたその瞬間、その風圧だけで警備隊は全員が吹き飛ばされた。


「騎士団は選りすぐりのエリートだからな、ちまちまやってる警備隊とは格が違うんだわ。」


吹き飛ばされても警備隊は立ち上がり再び引き返せない戦いに身を投じる。

バルザックから受けた恩は彼らにとってとても大きいものだった。

彼らは一人一人が元々荒くれ者や孤児などで、バルザックは自身の人生と彼らを重ねていてそれらを世話して束ねて警備隊を作り出した。

もとが荒くれ者や孤児なので当初はあまり良い印象は無かったが、彼らは腐らずに粘り強く仕事をしていつの間にか騎士団よりも人気が出ていたのだ。


「隊長を逃すまで倒れるな!ここで恩を返せ!」


「捨てられてた命を拾ってくれたんだ!ここで使わないでなんになる!」


何度やられようが立ち上がる警備隊は立ち上がり立ち向かう。

その姿にバルザックも最初は足を止めていたが仲間の決死の行動に思いに応えなければ、彼らの思いを無駄にしてしまうためその足を動かした。


そして、その意を全く考えてない2人は同時に騎士団の方へと走り出した。


「「どおおぉぉりゃああぁぁぁぁ!!」」


警備隊が騎士団に突っ込む前に前に飛び出て、警備隊よりも前に出て騎士団に飛び蹴りを2人は同時に叩き込んだ。

2人は示し合わせたわけでは無いが、息の合いようはバッチリだった。


騎士団の集団の中に入り込み2人は示し合わせたわけでは無いが、互いに差を合わせる。


「結構勢いだけで始めたけど、見てるこっちは胸糞悪いの。何よりもアンタらの行動そのものがめちゃくちゃ腹立つわ!」


「こっちはフラストレーション溜まってんだ。もう容赦はしねえぞ!」


2人は吠えた瞬間から近場の騎士団員を手当たり次第に、殴る蹴るわで宙へと飛ばしていた。

何よりもホムは魔力を込めた拳は前とは違い盾を凹ますくらいの威力となり騎士団の防御力を遥かに上回っていた。


「ぐはっ!…クソッ!……たった2人だぞ!これだけ人数いて有利なのはこっちだぞ!」


「うおおおぉぉぉ!!」


ホムは魔力を込めた拳を再度叩き込もうとするが。


「数的有利なんだ!協力しろ!”トリプルディフェンス”」


盾を持った騎士団員とその後ろに魔力を送り込む騎士団員2人が付きより強固な守りが発動する。


ガィンッ!


盾と拳は互いに弾いて結果としてはホムの拳が負けていた。


「弾かれた…なら今度はーー」


体制を素早く立て直して今度は、地面にヒビが入るほど足に力を入れた。

魔力を足に溜めて踏み込むと同時に溜めていた魔力を爆発の如く噴出し、地面から伝わる力を全て拳に乗せて魔力を纏った拳を盾に再度撃ち込む。


「ハァぁぁぁ!!!」


ベコッ!


その掛け声と同時に盾は凹み。


「弾けろ!!」


拳に纏った魔力が放出され騎士団3人の体を貫いた。

貫いた魔力は相手を殺す事はなく体を宙に浮かせて吹き飛ばした。


「魔力の扱いがこの短期間で上手くなったな。」


ユイトはホムの上達に素直に喜んだ。

かく言うユイトはホムの方向に頭だけ向けながら両手に持つ2本の剣で騎士団5人を相手にしていた。


「こ…こいつ目が後ろにでも付いてんのか!?」


「5人がかりで一太刀も入らないなんて。」


受け止められている剣を騎士団は力を込めるが、ピクリとも動かずユイトには5人がかりでも敵わなかった。


「連携は良かったぞ、大人数で1人をやるには十分すぎる連携だが、俺にだってずっと一人で戦ってた自負があるからな。」


そう言って剣を弾くと5人の騎士団の顔面をユイトの蹴りが打ち込まれた。

蹴られた騎士団の兜は大きく凹み、一人残らず気絶していた。ユイトはホムの事を気遣って無意識下で敵を殺す事はしていなかった。

たった数日だが、ホムはユイトを少しだけ変えたのだ。


その光景に呆気に取られていた警備隊も再び立ち上がり共に騎士団へ立ち向かう。


「彼らだけには任せるな!一人に対して5人でかかれ!」


警備隊の援護に足止めを受ける騎士団、多少だが楽になった。

それでも、警備隊は敵わないためユイトとホムは優先的警備隊の中に入り込み騎士団にトドメを刺す。


「クソッ…雑魚どもがちまちまと邪魔しやがって、テメェらは既に反逆罪で極刑だ!」


騎士団の魔力を帯びた剣が、警備隊の頭と首を分断させようと横一閃の一撃が迫る。


「……全く、馬鹿な部下達に恵まれてたな…俺は。」


横一閃を自身の特殊警棒で受け止め部下達の前に姿を表した。


「た…隊長!!」


「元だ…馬鹿ども。」


バルザックは、剣を弾き飛ばすと剣の持ち手を叩き敵に武器を失わせた。

片足を軸にその場で回転し振り回しの勢いをつけて、敵の顎に特殊警棒を振り上げた。

魔力で防御しているとはいえ中々の威力をくらい騎士団は吹き飛ぶと同時に意識を失った。


「…立ち上がれ野朗ども敵はあと少しーー「これでらすとぉぉぉぉ!!」……終わったみたいだな。」


ホムの顔面ラッシュからトドメのボディで最後の一人である騎士団を地面に沈める。

地面には数多の騎士団が倒れており、1人として起き上がらなかった。


「よし、これで堂々と逃げられるな。」


ユイトも騎士団を踏みつけながらその顔はスッキリしていた。


「お前らはどうするんだ?こいつらのしちまったからには逃げるしかねぇが、家族とかいる奴もいんだろ?」


「実は、夜逃げ準備は隊長が辞められた時からいつでもできるようにしてたんです。」


「これから迎えに行くつもりです。」


どうやらこの警備隊員達はよっぽどバルザックを信頼しているようだ。


「わかった…だが、俺にもまだやらなくちゃならなぁことがある。情報広める手段を止められはしたがやる方法はいくらでもある。」


「隊長……わかりました。我々もできる限り手伝います。」


バルザックはその後に警備隊員達に先に安全を確保するため家族を迎えに行くように指示を出してその場を解散させた。


「お前らはまだ、王を狙ってんのか?」


「俺の人生賭けた目的だからな。」


「私は記憶を取り戻したいだけなので。」


バルザック的には、もうこれ以上はユイト達とは同じ行動を取る必要が無いため、よりリスクのある王の討伐に関わりたくないのだが、たった数日だけでも同じ窯の飯を食べた仲としては辞めてもらいたいと思っているが、2人の決意が本物であったと感じた。


「…ってことはここで俺らは道が別れるわけだな。」


「そうだな、魔力を持ってるだけで既に戦力外になっちまうからな。まぁ、こいつの事は助けてもらって感謝はしてるよ。」


「うぐッ…その節はありがとうございました。」


「なら今日は感謝と景気づけに酒でも飲もうぜ。どうせ今日は動けねぇわけだしな。」


「「それ賛成」」


バルザックからの提案にユイトもホムも賛成で3人はその場を後にした。







その後、その場に倒れていた騎士団達の胸に全員剣が突き刺されていてその剣は証拠を消すかのように分解されて消えていった。

これによりユイト達を後を追う存在はいなかった。

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