グルス王国 8
警備隊現隊長ことマグノリス。
彼はバルザックに拾われた1番目の警備隊員であり最も長く在籍しておりその信頼は、バルザックが警備隊を辞めることになった際に隊長の座を渡されるほどの信頼を得ていた男だ。
彼はバルザックの指示通りに家族の待つ家庭に戻る。帰り途中にス魔ホを使い家族にいち早く連絡を送り足を早める。
道中に家族から連絡があり了解と一言返されていた。
そして、家に帰ったマグノリスをその後見た者は居なかった。
追っ手もなく何事もなく王国の外にあるユイトのキャンピングカーに戻り料理の準備をしていた。
机の上のまな板の上で野菜を切り、コンロで鍋を温めて出汁をとり野菜や肉を鍋にぶち込む。
大人数で食べれてすぐに作れて全員が満腹になる料理。
鍋
ユイト達3人で鍋を囲みそれぞれが箸を突っ込む。
ホムは肉を中心に、バルザックはこんにゃくや豆腐など、ユイトは野菜を中心に肉を一緒に食べたりと3人それぞれな食べ方をしながら酒を飲んでいた。
一応ホムは生まれたてなので酒の飲酒は許していない。
なのだがーー
「ユイト!なんか面白いことやれ!」
「酒飲ました覚えないぞ、って事は素がこんなのか。」
「タチ悪いなこの娘っ子。」
飯を囲んでるこの場に酔ったのだろう。
ホムは肉を食べながらジュース片手に喚き散らす。
「……じゃあ、俺のことについてでも話すか……今日は気分がいいからな。」
「おお〜やっと話すつもりになったか!嬉しいぞ〜私は!!」
ホムはユイトの隣に座り肩を回してバンバンと肩を叩く。
ユイトは酒を飲みながらその顔は、朗らかで少し赤くなっていた。どうやら酔いが回って口が軽くなっているようだった。
「俺の出自は、異世界人達が来る前の世界でこんな殺伐とした世界じゃ無かった。」
ユイトはゆっくりと上を向いて思い出すかのように語り出す。
ごく一般農家の父と母の間に生まれた。
この時の世界は、争いも無く平和で誰もが幸せに暮らしてた。誰一人犯罪を犯す事もなく公平で事故も存在しない完璧な世界だった。
何よりも誰もが幸せだと思っていた。
だが、俺が10歳の時にこの世界そのものが変わった。
突然、空が青色から紫色に変わって亀裂が入った。その亀裂は少しずつ大きくなりやがてそこから、1人の女の子が落ちてきた。
落ちた女の子は森の湖に浮かんでいて、その子を俺の村の人達は助けたんだ。
傷だらけだった彼女を村のみんなで治療や世話をしたんだ。
彼女は徐々に回復して村は歓迎ムード、彼女はどうゆうわけか火や水、電気や土などを無から想像できていた。
彼女曰く魔法と言うらしい。彼女は助けてくれたお礼に魔法を教えると言ってた。
その魔法は俺らにとっては奇跡であったけれど、今が幸せだったからその力は必要なかった。
だから、誰もそれを学ぼうとはしなかった。
俺も一切の興味もなかったし、どちらかと言うとみんなも魔法を使う彼女が見れるだけで良かった。
そして、平和な日々を送っていると1人、また1人と行方がわからなくなっていた人がいたんだ。
俺らの中じゃ、初めての経験だったからみんな動揺していたさ。
だけど、疑う事はなかった。
疑う事を知らなかったからだ。
俺らの中では誰かがやらかしても必ず当事者は謝るし、それをみんな許してたからな。
邪な考えを持つ人間はいなかった。
だから、気づいた頃には俺と母以外の人間は居なくなってた。
それなのに俺らはなんの疑問を持たずに生きていた。
俺と母だけでも生きていけたからだ。
生きているだけで俺達は、幸せであった。
母は俺に悪いことから守ってくれるって、この勾玉の首飾りをくれた。
そして、母も行方不明になった。
それなのに俺は1人でも生きていける環境に幸せを感じていた。
母を失った悲しみはあったけどそれだけだった。
原因は分かっていたのに、それを恨む事はなかった。
そして、順番は俺に回ってきた。
彼女は食事中の俺の前に現れて、母の頭を机の上に置いた。
俺は、今まで発見されなかった母を見つけられて彼女に感謝していた。
そうして彼女は俺の首を掴み持ち上げた。
徐々に体から空気が抜けていって苦しかったのは、今も覚えてる。
彼女は小さな声で、「こんな気持ち悪い世界は変えてやる」って言っていた。
その言葉は理解できなかった。
彼女の考えは理解できなかった。
そりゃそうだ彼女はこの世界の住人じゃないから、他の世界から来た存在なのだから。
いよいよ意識がなくなりそうで目の前が真っ暗になりそうだった時に、この世界そのものが揺れた。
地震とは違い揺れていたのは人間や空気、地面など全てが揺れていた。
その揺れは世界の書き換えだった。
彼女も俺のことなんてお構い無しに慌てて、手の力を抜いて俺も解放されたんだ。
だけど、書き換えはとても苦しかった。
記憶がごっちゃになって、母や父の記憶が消えたかと思えば違う人間を母や父だと思い始めて、名前は変わらずとも住んでいる場所が野原の高原から瓦屋根の住宅街になったり、俺の体にも変化が起きて金髪だったのが一部を除いて黒髪に変わったりと書き換えられたんだ。
そして書き換えが終わったら揺れも収まった。
ただ、書き換えは成功だったが完璧ではなかった。
俺と言う書き換え前の生き残りには、中途半端な上書きとなってしまっていた。
当然、記憶もあるし本当の母のことも覚えている。
そして、それとは別のもう1人の人生も知っていた。
まぁ、彼らが何かを意味する事はなかった。
ただ、俺には前みたいに生きてるだけで幸せを感じる事は出来なかった。
普通に母を殺した彼女を許さないし、殺意だってあった。
みんなからすれば当たり前だけど、俺からしたら初めての感覚だった。
俺が書き換えられてる最中に彼女は逃げ出していてその後を追う事は出来なかった。
書き換えられた世界は、俺にとって全くの未知の世界だった。といっても、今のこの世界とほとんど同じなんだがな。
それでも俺の知ってる世界ではなくて、この世界の俺は1人だった。家族も早くに亡くなったって設定だからな。
世界は何もかも変わり暮らしも変わった。
前の世界には存在しない貨幣制度や法律、何も知らない俺は買い物ひとつまともに出来なかった。
色々見様見真似で覚えていくが、働き手にはあまりありつけづらかった。
それは俺の見た目が他とは違う事が原因でもあった。
1番言われたのは髪の色だな、書き換えられたこの街には黒髪か白髪しか居なかった。
そんな中で俺は黒髪の一部金髪が嫌われるには十分だった。
何度か墨を投げられたりしたけど母からもらった証でもあったから、何があろうと耐えた。
そこから数年の時が経ち俺は盗みを働いていた。
盗みは平和から離れた行動だけど、書き換えの影響で盗み以外にも犯罪を犯す事ができていた。
1人で生きていく力をつけてこの数年間はどうにかなっていた。
でも、それは簡単な事ではなかった。
殆どが失敗に終わったりして食べ物にありつけない方が多かった。
そんな事なんて周りは知ってるわけもなく巷で噂の異世界人達の活躍の方が、いい話のネタだった。
なんでも8人の異世界人達が、魔王と名乗る少女を仕留める冒険をしていたらしいからな。
その冒険も終わったらしく異世界人達は、護り手の称号が送られて、それぞれの国で王族と婚約したそうだ。
だから、俺は師匠と会う事ができた。
その言葉を最後にユイトは話さなくなった。
「寝てるな、こいつ。」
「なっがいし、肝心な所でやめちゃったよ。それに最後の方は結構飛ばし気味だった。」
バルザックとホムは、座ったまま寝ているユイトが結構幸せそうな顔で寝ているのを見て一応はそれでよしとしようと思った。
ユイトに毛布をかけて明日について話し合う。
「他の警備隊員達とは、どこで落ち合うつもりなの?」
「一応ここからさらに遠くの場所で落ち合うことになってる。悪いが詳しいところは言えない。」
「それはいいよ。…私たちがさ王様殺せたとしてバルザック達がやろうとしてることは意味があるの?正直言ってあそこまで国を意のままにできる存在に勝算は無いよ。」
少なくとも国王という絶対的権威を持つ存在の部下ってだけで自由は効きすぎるだろう。
揉み消しなどは朝飯前だ。
「正直、今となっては守る物が出来ちまって動けないのも事実だ。……何もしないってのも手なのかもな。」
「泣き寝入りか……力がないと大変だね。」
「それが社会ってもんだ、我慢することを覚えなきゃな。」
「我慢……ね。」
悲しい現実に受け入れ難いが、それもこの世界の仕組み、人間の仕組みなのだとホムは感じた。
「我慢なんてしなくてもいいですよ。わざわざ私が来ましたから。」
「「ッ!!」」
突然の第三者の声が聞こえた瞬間、ホムとバルザックは臨戦体制を取り魔力を纏った。
目の前には気配が全く感じられない特異な存在がいた。
全身を黒い衣装で包まれていて闇に溶け込みやすい格好で木の上の枝に座っていた。
「どうも御三方、昼間は随分と暴れてくださりましたね。表の存在である騎士団を消すまでなさるとは本当にお強い。」
「あ?…あのバカどもを殺した覚えはねぇぞ。」
「そうよ!骨を何本か砕いたくらいよ。」
「……当たりどころによっちゃ死んでねえか?」
「いえいえ、先の戦闘を見る限りそちらでお眠りになっている錬金術師様の仕業でしょうね。メンバー全員心臓に一突きでしたから。」
黒衣の男の言葉に2人は驚いてユイトを見るが、当のユイトは座ったまま寝ている。
「そんたことより、あなたは誰よ。」
「おっとこれは失礼しました。」
黒衣の男は木の上から降りて2人の前に現れる。
しかし、黒衣の男が歩んで近づくごとにその存在の大きさを知る。
魔力量は少なくともホムよりも保有しておりその量だけで2人を威圧していた。
「騎士団は表舞台のグルス王国の雇われ傭兵団。そして私達はグルス王国正式部隊、裏家業を得意とする最後の砦、その中で新人である私の名は、シンと申します。」
黒衣の男は隙だらけであるが、それだけ余裕があるほど2人を威圧していた。
「……ッ!!テメェあいつらに何をした!!」
バルザックは何かに気づいたように怒鳴る。
「おや、随分と話が飛ばれましたね。まぁ、いいでしょう。私の仕事は国家における反乱を未然に防ぐ事、その為の暗殺を行う仕事でもあります。と言うわけでこちらをお返ししましょう。」
黒衣の男は胸ポケットから袋を取り出し投げ渡す。
その袋は金属が擦れてジャラジャラとした音が鳴っていた。
袋を開けて中身を確認するとそこには血のついた警備隊員バッチが所狭しと入っていた。
「ぶっ殺してやる!!」
「あ、そこから動かない方がいいですよ。もういつでも狙えますから。」
バルザックは飛び付こうにもホムが止める。
事実、ホムは正気じゃないバルザックとは違いまず初めに魔力を高域に出して敵の数を把握したのだ。
黒衣の男が言うように囲まれていて、それぞれが私たちを狙っていたのだ。この場では動けなかった。
「お嬢さんは冷静ですね。…素晴らしい、その年でそこまで気が回る人はそうはいませんよ。それに比べて錬金術師様は、一体どんなつもりなのですかね、敵を前にして寝ているとは。」
黒衣の男は眠っているユイトを足でゆっくりと押すとそのままユイトは地面に倒れる。そして、また寝息を立てる。
地面に倒れた際にユイトは、首から掛けていた勾玉がついたネックレスが現れた。
「んん?おやおや?…随分と珍しいものを付けてますね。私珍しい石には目が無いのですよ。」
「あ!それはやめた方がーー」
黒衣の男はユイトの勾玉に手を触れて引きちぎろうと引っ張った瞬間、同時にユイトの体も起き上がり黒衣の男の前に立ち上がり勾玉を触れるその腕を掴んだ。
「ねぇ、何してんの?」
その一言を放つその顔は目が充血し暗い森の中では一際目立ち森の暗い影で他のところが見えないため恐怖でしかなかった。
そして、その威圧は他の人間にも伝わっていた。
遠くから見ているだけの裏の工作員ですらその威圧は届き震え上がらせた。
少なくともここにいる精鋭部隊は、国を守るために選ばれた本物の強者集団で新入りである彼ですら、G級1つ星で比較するなら彼1人で騎士団一個中隊と同等の力を持っている。
他のメンバーはそれを上回る力を持っているが、魔力を持たない目の前の存在に指一つとして動かせられなかった。
「離せよ。」
ユイトの一言で黒衣の男は手を離す。
目の前の存在に久しく忘れていた死の恐怖を思い出し走馬灯を見ていたがーー
「……スヤピ〜」
ユイトはゆっくりと目を閉じると再び倒れて眠りに入った。
威圧から解き放たれた全員は体の力が抜けて空気が変わっていた。
「まぁいいでしょう。あなた方は国家に対する反逆者、国家を危険に晒す時にまた会いましょう。今度はこちらの最大戦力も含めてね。」
黒衣の男、シンはそう言葉を残すとその場から離れて同時に囲んでいた部隊も引き上げていった。
「……なんとか助かったけど、バルザック。」
「ああ、悪いがもう少しだけ協力させてくれ。…あのシンってクソ野郎をぶちのめす理由ができた。あと、ここまでやられて我慢する理由がねえ。」
「了解。でも、戦力差は絶望的だね。」
「ああ、それはどうにかして考えねぇとな。」
長いようで短かった1日が終わる。
決戦は近い。




