眠れる森のホムンクルス 3
場所は変わってギルド内、S級三つ星ハンターの剣士がギルドを切ってしまった為急遽ハンター全員で修復作業を行なっていた。
トンテンカンと音を鳴らして慣れない仕事にハンターたちは四苦八苦としていた。
「ったく…あの野郎技使うんならもっと抑えろっての」
「全くだ、あんな使い方してる奴がS級の三つ星ハンターとは、ハンターランクも実力だけで計ってるなあれは。」
口々に全員がリーダーの男の文句を垂れていた。
ズレた建物を外から魔導士が魔法で支えて内側から釘打ち補強していた。
「お届け者でーす。ギルド本部から……ってなんじゃこれ!」
ギルドの扉を開けたのはギルド専属郵便屋で内装の変わりように驚いて持っていた書類をぶちまける。
「……まぁいっかここで配るやつだけだし。」
「良くねぇよ。さっさと拾って机に並べてくれ、整理して壁に貼り付けるぞ。」
「へーい」
郵便屋はぶつぶつと文句を言いながら紙を拾い机に並べていく。ギルド宛の手紙やお知らせ新たな依頼書に手配書と並べていく。
「ん?…ッ!おいッ…これ!!」
木材を運んでいたハンターがチラ見で見た手配書に血相を変えて叫ぶ。
その叫び声に驚きも注目するほかのハンターたちもその手配書に目が飛び出るほど驚く。
場所は変わって荊の森では魔法使いの格好をした男がパーティ一行の前に立ちはだかる。
魔法使いの格好をした男は服の中から3枚の紙を取り出して読み上げる。
「元S級2つ星ハンター、ニーナ。」
魔法使いの格好をした男の言葉に反応したのは女聖職者だった。
「光の使者と言われていたが、光魔法の光学迷彩での窃盗件数100を超えるとされ発覚した際には騎士団数名を殺める。盗んだ物を高額転売とマルチ商法で違法に買わせ、財産を無くし自殺者を増加させた。懸賞金6000万ガルド」
言葉を聞いて聖職者の女は特に反応もせず震える。顔を見れば青ざめる。
「元S級2つ星ハンター、エリー。」
次に反応したのは片足を無くした女武道家である。彼女も震え上がり顔を青ざめる。ただでさえ重症で体調が悪いというのにその顔は絶望を表していた。
「武術大会2桁ランキングとして名を馳せるが、酒癖が悪く酔った際に道場帰りの子供に絡み6名中3名を意識不明の重症1名はその事件の3日後に死亡、駆けつけた騎士団こちらも数名を殺め逃走。懸賞金6000万ガルド。」
ここらに書かれていることに意義を唱えないところを見ると彼女らが罪を認めているような物であった。
「元S級3つ星ハンター、オルダー。」
最後に反応したのはリーダーである剣士オルダー。
「剣聖ランキング2桁台で、過去には多大な功績を挙げルールや礼儀を重んじるが1部過剰すぎるところもありよく揉め事などを起こす。教育機関にて教鞭を取っていたが度重なるモンスターペアレントに授業妨害と生徒の不真面目さに嫌気がさし問題児生徒20名とその両親を殺害。騎士団1つを壊滅させ逃亡。懸賞金1億ガルド。」
この世界での手配書の発行は死刑宣告と変わりはない。どんな内容であろうと取り消されることはない。自分の犯した罪にはほぼ同様の罪が返ってくる仕組みとなっていた。
本来の彼らの目的は手配書が出る前にある執行猶予期間で功績を挙げ罪を取り下げようとしていたが、すでに遅かったのだ。
手配書が出回ることで世界中のハンターから追われることになりそれは対象が死ぬまで続く。
「罪の内容読んだけど、全部自業自得じゃないか。自制が出来てないな。」
魔法使いの格好をした男は手配書を燃やし腕を組み彼らを見下ろす。
「俺の目的の為に仲間にしようかと思ったけど、思いの外弱いし自分勝手すぎるからやっぱやめるか。助けてくれた奴を平気で殺す奴だし。」
魔法使いの格好をした男が振り返り見た先には、地面に倒れ血を流しているカズの姿であった。
「彼に関する情報はないから、ただの善意で助けてくれた今時珍しい腐敗を知らない純粋なハンターだったんだな。真意はもうわからないからそう思っておこう。」
魔法使いの格好をした男はカズに対して手を合わせる。彼の運の悪さを来世まで持ち越さないように祈る。
「俺たちをどうするつもりだ。国に売るのか?」
オルダーはゆっくりと立ち上がりロングソードを構える。
その行動と共にエリー、ニーナは立ち上がり共に構える。エリーに至っては片足しかない為ニーナの肩に手を置いた状況だった。
「仲間には要らない。金にも興味はない。名声も欲しいとは思ってない。正義の為なんて掲げることもしない。」
魔法使いの格好をした男はローブからゆっくりと両刃の剣を取り出す。
「だけど俺はまだバレるわけにはいかない。それだけだ。」
魔法使いの格好をした男の言葉が終わった瞬間に3人は反応しオルダーはロングソードで突きを繰り出す。オルダーは一撃目は砂塵を巻き上げるほど地面を蹴る。目にまとまらぬ動きに魔法使いの格好をした男はしっかりと反応し剣の側面で火花を散らしながらゆっくりと逸らす。
その動きで魔法使いの格好をした男はオルダーの懐に入りオルダーの顎に剣の柄をぶつける。
その一撃にオルダーは吹き飛び地面に転がる。すぐさま体制を整えて立ち上がるも、顎をやられた為に軽い脳震盪で視界が揺れフラフラとしていた。
格好の的となっているオルダーに魔法使いの格好をした男は腹部に向けて拳を振りかぶるが、接近で寄ってきたエリーが拳の軌道をずらすように押し出す。
オルダーを抱えてエリーは離脱する。離れた瞬間地面に光の魔法陣が描かれて鎖が飛び出し魔法使いの格好をした男が捕まる。
「炎よ!燃え上がれ!”究極ストライク”!」
拘束された魔法使いの格好をした男にエリーの燃え上がる拳が腹に突き刺さり背中からは炎が貫通する。
その炎が魔法使いの格好を燃やす。
「あちっ…あち…もうこれ要らねッ!」
燃え上がる魔法使いの格好を捨てる。
「あ〜熱かった。」
そしてその男は技をもらっているにも関わらず平然とした態度でその場に立つ。
彼の姿を彼らは見たことがなかった。
だが、彼の顔を見て彼らは衝撃を受けた。その顔は見知ったものであり幼い頃から見た事がある。そしてその顔は誰もが知っているのだろう。
場所は変わり村のギルド内では、掲示板に貼られた3枚の手配書に話題となっていた。
「まさか、あいつらがお尋ね者だったとはな。」
「ほんとだぜ、これであいつらが黒竜の所になんか行ってなきゃ追いかけたんだけどな。」
ギルド内のハンター達は殆どが逃した獲物を忘れるようにヤケ酒を飲んでいた。
「だが、元S級だろ?俺らじゃ無理だって」
「首を並べられるがオチだな。」
笑いながらも今は酒を飲む肴にして盛り上がっていた。
その中でギルド職員は新たな依頼書を壁に貼り付ける作業をしていた。
「もう1ヶ月か。早いな。」
とある手配書を手に取り職員はゆっくりとため息をつく。彼の持っている手配書は毎月更新されていて毎月届く為、ほとんどの人間はこの紙が貼られるとまた1ヶ月が過ぎた事を思う。
「全くこれで何年目だよ、こいついつ来るんだ。俺がガキの頃からこの手配書見てるぞ。」
「まぁ、これの更新指示は7人の国王様達だもんね。そりゃあ誰も文句言えないよ。」
「そんなことよりこいつはどうやって逃げ回っているかって話だ。千年だぞ!千年!国王様達と同じで転生者ってわけでもないのに。」
「千年も逃げ切る奴の思考なんて俺らにわかるわけないでしょ、考えるだけ時間の無駄無駄。」
彼らの見る手配書。
錬金術師の弟子
ユイト
懸賞金
1000億ガルド
一般人が稼げる生涯年収では2億ガルド。
場所は再び戻り黒荊の森では、誰も動かず見たことのある手配書と全く同じ顔に言葉を失った。
彼は手配書通り20代前半の顔で若く黒髪短髪に前髪には金髪メッシュが入っていた。
服装は身体にぴっちりなスーツでそのスーツには青白いラインがいくつも模様としてついていた。
その上にを袴のズボンを履いていた。
「あ…まずい、顔変えるの忘れてた。」
魔法使いの格好をした男改めユイトは、手で顔を覆う。
しばらく考え時間が経ちゆっくりと手を外すが顔は変わってはいなかった。
「結局倒すから変える必要もないか。」
その瞬間に地面には巨大な魔法陣が現れた。
その範囲は3人だけを囲むように現れ地面が唸り始めた。
「捕らえろ」
その一言で地面の土がローブのように変形し3人を拘束する。
呆然としていた3人は簡単に捕まり解こうとする。
「?…魔力が込められていない?」
オルダーは魔法で強化された土だと思っていたが冷静に観察すると魔力の込められていないただの土であることがわかった。そのためオルダーは容易く土の拘束を自身の魔力で強化した身体能力で破壊する。
エリーも同様に武道家であるためすぐに魔力を込めて破壊した。
しかし、ニーナだけは違った。
「い…いや!やめて!!やめーー」
ニーナの前にいつのまにか現れていたユイトがニーナを足蹴にして地面に倒しいつのまにか持っていた剣で心臓を一突きだった。
「回復要員は最初にやるのが鉄則。」
ユイトはゆっくりと振り返り突き刺していた剣は分解されて消えていく。
仲間意識があるというわけではないが、仲間の1人がやられたことに動揺する。特にエリーは逃亡先で会った唯一の自分の安心できる場所を目の前で理不尽に奪われてその形相は怒りをあらわにする。
エリーは自身の持つ魔力を解放し纏う。
「フゥ…フゥ……ニーナぁぁぁぁ!!」
魔力を纏いしエリーが特攻しユイトにものすごい勢いで迫る。片足なのだが、衰えは見せずすぐにその片足であることに適応している。
目の前に迫ったエリーは片足に全体重を乗せて踏み込みの力を最大限に溜める。その際に地面には足中心に蜘蛛の巣のように地面が割れる。勢いを止める支えがなく強力な勢いだけ残して全体重をかけた正拳突きがユイトに迫る。
「加速ッ!!」
エリーの振りかぶる拳にさらに勢いをつける為、振りかぶる拳の肘から爆発が起きて推進力となった。その威力はエリー自身の身長をゆうに超える大きさの巨大な岩をも粉々にする威力。
「うおっ…はっや。」
「!?」
その威力の拳をちょっと驚いたユイトは片手で拳を掴みその力を相殺していた。
「馬力上げといて正解だったな。弱かったら俺の骨折れてた。」
止められると思わなかったエリーは再度動揺し震える。自身の最大の技が効かず止められた事実は相当な物だった。
「んじゃ、次は俺の番ね。」
掴んだ拳を持つ腕の力でエリーを真上へと放り投げる。片腕の一本の力で飛ばされたエリーには理解が追いつかなかった。
上昇していく身体に対抗できず格好の的にユイトは指先から魔法陣を出すとエリーの周り360度全方位から魔法陣が現れた。
「〜〜♪〜〜♪」
ユイトは鼻唄まじりにもう片方の指先から緑の魔法陣が現れる。
「射出。」
次の瞬間には最初の魔法陣で剣を生成し後に出した緑の魔法陣で爆風の如く吹き荒れ剣の剣先がエリーに迫る。
エリーは自身の正面の剣は叩き落とすことに成功したが、背後からの攻撃には対応できず、攻撃に魔力を回していたので守りの薄い背後に剣が突き刺さる。
そして地上には血の雨が降り注ぐ。
「…よし…残りは君だけだね。」
赤い血を浴びて雫の落ちる顔は不気味で、オルダーは慌ててロングソードを手に取りユイトに刃先を向ける。
ロングソードは震えてユイトに狙いをつけられていなかった。
幾度となく強敵と戦ってきたオルダーはその度に死線を乗り越えてきたが、それでもユイトには敵わないと思ってしまっていた。
「う…うわあぁぁぁぁ!!」
拙い足取りに普段とはかけ離れたロングソードの扱いでユイトに迫るが、ユイトは剣で軽くいなす。
「じゃっ…おやすみ。」
よろけて体制が崩れたオルダーの背中にユイトは剣を振り下ろした。




