96 君との新たな約束1
ミラ嬢との約束は、あの頃には叶えてあげることも勇気もなかった。
フォルトロン、ラーナリア、ミラ嬢、黒き魔女、そして運命の歯車が狂い、噛み合わず動かなくなり、俺の記憶は歪み、本来の中にあるべき真実は改変していった。
それによってミラ嬢の記憶の消失、父親とローズへの憎しみへの変換により歪みが酷くなり俺は何処か空虚とかしていた。
ミラ嬢に会ってもなくした記憶を取り戻すことなく、きっと傷付けたことは、俺の責任であり償いだろう。
だが唯一もう一度、ミラ嬢に恋する気持ちだけは同じとか、どんだけ偏ってたんだって感じだ。
まあ、もっと好きになってんだけどな。
やれやれな気分で丘に辿り着くと、ミラ嬢の姿はなかった。
「そう都合よくいないか」
来たは良いが、ミラ嬢がいるかどうかは賭けに近いとは思ってはいたが、勝負運はダメだったかと落胆しかかったとき
「なーに落ち込んでますのシリウス様」
と楽観的な明るい声が頭上より聞こえ上を向けば、ミラ嬢が立っていた。
今回はメイド服ではなく、暗部装束なのか、全身が黒一色で闇に溶け込むような服装にスカートドレスではなく、男性が着るズボンをはいている姿があって、何処か最初に会ったときとは逆だと懐かしくなる。
「何だか、あのときと逆だな」
「┄っ┄」
つい懐かしく思ったままを口にするとミラ嬢の肩がビクッと跳ねて、俺を訝しげた表情で見下ろしている。
「どうした?」
「┄な、なんでシリウスが、覚えてないはずでは」
もしかしてミラ嬢は俺の態度と彼女に向ける眼差しに気づいてるようだね。
それにミラ嬢がここに来てるってことは、あのときの約束が今日だったと思い出したから、俺の記憶どうこうよりも無意識に来たんだろうな。
それはそれで嬉しくもあり、むず痒い気持ちになるものだな。
「ふふ、シリウスって名前を呼び捨てにされると、昔に戻ったようで嬉しいな」
たまに呼び捨てで怒られたりしたもんな、まあそのぶん俺も言い返してたけどさ。
クスクスと笑みを浮かべて応えると、ミラ嬢は目をパチパチと瞬き、珍しく動揺したようにブツブツと呟くなり、チラリと俺を眺めたあと何故か上に飛び上がり木をつたい逃げられた。
え⁉
いま、ミラ嬢の顔が泣いてなかったか?
一瞬だけ視線にそらされたときにミラ嬢の瞳が潤んで、そのときに涙が伝い落ちるのを目撃して、胸にズキリと痛みが走る。
ヤバイな、ミラ嬢は俺が記憶がないのを前提に接していた。
しかし俺が記憶を取り戻し、昔のような接し方をされれば、さすがのミラ嬢も気づいてしまう鋭さがある。
そうなればミラ嬢はどう感じるか?
喜んでくれるか?
ミラ嬢にとって、傷付けるか?
それとも約束と記憶を取り戻した俺には会いたくないとか?
いや、それはないだろう。
彼女は┄俺の自惚れでなければ、きっと┄
俺はパシッと両頬を叩き、気合いを入れるなり、木の幹に飛び上がり掴むと、回転して乗る、上を向けば天辺近くの幹にミラ嬢が見え。
逃がしてあげないよ。
俺はもう約束は破りたくないからな。
ニヤリと笑み、俺は身体強化のスキルを使い脚力を増幅し幹に力を入れ飛び上がった。




