22話 吸血鬼は外に出たいようです (後半)
デパートからの帰り、街には夜の帳が降り少し肌寒くなった頃、あと建物の前に空とノッテがいた。
人気のない所にひっそりと佇むそのビルを、ノッテは抑えきれない笑みをこぼしながら見上げていた。
「なあ! なあマスターよ! ここにいるやつは本当にいいのかの!」
「ああ、ゴミ掃除して悪いなんて言うやつはいないからな」
鏡のような水面のごとく静かな夜更けに、二人の声はやけに澄み渡る。
彼らの目の前にある建物は暗いことを生業としている者達の根城だ。いわゆるヤクザ屋さんだ。それもかなり悪どいことをしている。また政府の人間や警察機関の役職付きの人間と繋がっている。空がダンジョンに一般人を招くために、偉いさん方をせんの――思考を誘導した時偶然にその現場を見る機会があったのだ。
「でも、外に出る前あれだけ言っておらなんだか?」
「あ? あぁいいんだよ。奴らは普通に殺しとか人身売買とか、薬とか……そう言うのをしてるって知ってしまったからな。胸糞悪いのは嫌いなんだ。いつか潰そうかと思ってたから、丁度いいんだ」
「なら良いのだ! 全部貰っても良いのだな?」
「良いぞ、でも血は吸うなよ? そんな奴らの血はノッテに入って欲しくないからな」
「分かったのだ! 蒸発させるのだ。それに血はマスターから後でもらうので問題ないのだ!」
「……しょうがないな」
人を殺し、または誘拐して売る。当然警察は調査をするが、そのヤクザ屋さんは警察機関のトップに深い繋がりがあり捕まることはない。
犯罪を犯し、その咎を受けることなく好き放題に生き、我が物顔で日常を送る。
そのことにヘドのような黒い感情が空を埋め尽くした。
ゴミを綺麗に掃除して、困る人間はいない。いるとしても、そいつらはすぐにゴミと同じ道を辿るので、いないのと同じことだ。
「さっさと行くぞ、1匹たりとも逃すなよ? あぁ、あと残党狩りもするから一番偉い奴は最後まで生かしといてくれな」
「分かったのだ! 血がたぎるの!」
ノッテは頰を赤らめながら建物内に正面から堂々と入って行く、空も結界を張り終えるのを確認してノッテに続いた。
***
ビルの中は意外と静かで、人の気配は上の方に固まっていた。
「上に集まっているようだな。どうする? 階段? エレベーター?」
「そんなものめんどくさいのだ! 妾はもう我慢できんのだ! ……だからこうするのだ!」
ノッテはその場で少しかがみ、そして弓から放たれた矢のように上へ、天井など知らぬと言いたげに突き破って上に行く。
「あーあ、派手すぎ……そうするような気がしてたけどさ。ま、俺もそうするんだが」
そう言うと空もノッテのようにその場で少しかがみ、天井を突き破って上がって行った。
そして――
「っと。ついたついた。あーあ、服が汚れちゃったよ……」
「マスターはチト神経質過ぎる気がするの……、お主……全然汚れてはおらぬではないか」
「こう言うのは気分なんだよ、気持ち的に汚れた気がする」
「はぁ……」
どうでも良いような会話をする空とノッテの目の前には、呆然とする大人数のいかつい男たちがいた。
「あ! そんなことはどうでも良いのだ! もう良いかの、もう良いかの!」
「まぁ待てノッテ、始めに挨拶をするのが礼儀なんだ。おほん、えーヤクザの皆様、光栄なことにこのノッテが貴方達を掃除掃除してくだそるそうです。あぁ、お代は貴方達の命で良いですよ? せめて良い声を聞かせてくださいね?」
礼儀正しく、まるで上客をもてなす商人のように彼らに言い放つ空。それを見たノッテも空に倣って挨拶をする。
「えーっと……ゴミを妾直々に片付けてやるのだ! 感謝するが良い!」
その垢抜けたノッテの声を聞いたからなのか、ヤクザ達はようやく襲撃を受けたのだと脳で理解した。
「てめぇら何をぬかしてやがる! どたまぶちぬくぞ‼︎ アァ‼︎」
「誰に喧嘩ふっかけてきたのか分かってんのかぁ! どこのもんだ!」
ヤクザ達は口々にイキリ出すが、それが言いようもない恐怖によるものだと彼らは分かっていない。
「テメェら! こいつらを蜂の巣にしてやれ‼︎」
「わかりやした!」
親分らしき男が部下に指示を出し、拳銃を一斉に構え空達に向かって弾を放った。
しかしそれらは空達に当たるも、肉体をつらぬくどころか弾かれている。
「はぁ、うるさいな……目にに入りそうで怖いんだよな……うざ――っぺ! 口の中に入った……ノッテ、銃全部と一人二人頭を潰してこい……」
「分かったのだ!」
空の指示を受けたノッテは一瞬にしてヤクザの視界から消え去り、そして――ヤクザが気づくと自分の持つ銃が何故か壊れており、後方にいた仲間二人の頭がない光景だった。そして不思議なことに血は一切出ていなかった。
「やって来たのだ!」
「よくやった。後はお前の好きにやって良いが、あいつらにも見えるように動いてやったほうが面白いぞ? 悲鳴とか命乞いとか良いものが見れる」
「おお! ではそうするのだ!」
ヤクザ達は恐怖などは感じていない、ただただ混乱していた、何故? と。気が付いたら銃が壊れていて仲間の頭が無くなっていた。『恐い』と思うよりも前に『訳が分からない』と思考がグルグルとさまよっていた。
しかし、小さな少女が自分達の方にゆっくりと歩いてきているのに気づき、そこでやっと『混乱』が『恐怖』に変わった。
逃げ出そうとする者、なんとか武器を取り戦おうとする者、様々な者がいるが一様に抱いているのは『ここで死ぬ』と言うどうしようもない思いであった。
少女――ノッテはヤクザの一人にゆっくり近づき、いつのまにか持っていた鮮血のような赤の大鎌を振るう。大鎌はヤクザの首を正確に捉え、それを胴体と切り離す。そして「ジュワッ」と音がしたかと思うと、頭のない体がみるみるうちにしぼんでいき、まるで身体中の血が全てなくなったように青白くなった。
「あ、あ、あ……あぁぁぁ!!!!!」
男達は一刻でも早くこの場を――大鎌を持つ少女から逃げ出そうと、恐怖に身を任せ動く。
しかし、それをノッテは許さない。そもそも男達のいる部屋には窓がなく、出入り口も1つで運の悪いことに空達の向こうにそれがある。
「ごめんとは思わないよ……お前達は俺よりも多くの人を殺しているだろ? 時間が経てば俺の方が多くなるだろうけど……ま、人を殺したんだからその逆もあるってことだよ。それくらい覚悟してるだろ? してなくてもするんだけどさ」
ノッテは恐怖のあまり錯乱状態な男達に近づいては鎌を振るう。たまには水の矢で、闇の矢で、または魔眼による毒で。
叫び声が広い室内に響き、命乞いをする者も多数いたがノッテは容赦無用だった。
圧倒的ではなく駆除、作業と言った方がその光景を表すのにはピッタリであった。そうであろう? 虫に殺虫剤をかけて「圧倒的だ!」なんて思うのは、空のような中二病患者だけだ。
「んースッキリしたのだー。ちとばかり足りないが、まあ良いのだ。で? マスターあやつはどうするのだ?」
「繋がっている奴を全員話させる。正直に話せば逃がしてやるし、話さなければ転がっている奴らと同じ目にあってもらうだけだ」
部屋の奥の隅で腰を抜かし、化け物を見る目の男を見ながら空は言う。
男は震えが止まらない様子で、加えてズボンの股が濡れていた。
「は、話す! だ、だから命は!」
「あーハイハイ分かってるからさ早く言って、俺の気が変わらないうちに」
「い、言う――」
男は複数の者の名を告げ、その中には空でも知っている名も出てきた。
空はそれにガックリとしうなだれる。この国も腐ってるな、と誰にも聞こえないように呟いた。
「いいぞ、お疲れさん出口はあそこだ早く出て行け」
「わ、わかった」
男は震える足を何とか動かし空達の隣を通り過ぎ、扉に向かう。
「良いのかの? あやつを逃がして、全員掃除じゃなかったかの?」
「ん? そうだぞ? ……ほれ」
「マスターはなかなかのクズじゃな、妾もそれは言えぬことなのだがの」
扉にたどり着いた男を、後ろから空の放った魔法が貫き、だらだら流れる赤の液体と同時に男に命も流れて行った。
「さてと、今日はこれで終わりだな……流石に眠い」
「そうだの、妾も眠くなってきた……」
「じゃあ帰ろうか、っとその前に――」
空は入り口近くに倒れている男の側に寄り、少し細工をした後その場から立ち去る。
ノッテがいるのでダンジョンに直接転移する手段が取れず直接ダンジョンに行くしかなく、辟易とする空。また、何事もなくマスタールームに着いた後に、ノッテに貧血になるくらい空は血を吸われ、血を増量できるスキルを探すのであった。




